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タンバリン湿原・症候群 | 毎週ショートショートnote

   WHOが「特定ウイルスとストレスが複合干渉すると6.8%の確率で感 情及び身体機能に異変をきたす」と発表した。Webを見た沢谷芽衣子は衝撃を受けた。その病状は打楽器タンバリンが体の中で「タタ、タンバ、バリンバ、リリン、リン」とリズミカルに鳴り渡り、手や足腰が勝手に踊りだす。
 ビュラ化粧堂の美容部員、芽衣子は、この症状に悩まされていた。先ほども百貨店でお客様の顔に皺消しクリームを塗っていると「あら、指がタップダンスしてるわよ」とクレーム寸前の注意を受けた。
 その夜もシャワーを浴びていると、お腹の中にタンバリンが入ったみたいにリズムが刻まれ、踊らされ、頭痛と吐き気が襲った。
 もう駄目。翌日、総合医療科のある大きな病院へ行った。MRIはじめ数種の検査の末、ウイルス感染にも精神医療にも詳しいベテランの磯野医師が診断を下した。
「世界の男女平等ランキングで85位以下の国(日本118位)で数年前から感感染者数の上昇が見られます。タンバリンは湿気が多いと皮部分に皺ができて音色が狂います。ここから病名が付きました。最高に有力な治療法は、乾燥した空気の地域でストレスなく暮らすことですね」
    芽衣子はがっくりと肩を落とした。それじゃあ湿気の少ない乾燥した国に移住するの? 嫌!
 磯野医師の顔を見つめ「少なくとも先生に診て頂いていたら、いつまでも治らないってことかしら」胸のうちで呟いた。              




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