会議🌛✨

「今夜の会議は重要な内容を話し合うので一人ももれなく参加するように。
参加者は例の【切符と鍵とレモン】を持って零時に集合だ。
また、彼らのお祝いの席でもある、各自腕を揮ってくれたまえ。」
偉そうに言うが、ことの発端は彼女である。
この会議に参加する資格のあるものは数少ない。
彼女のお気に入りたちは不気味な笑みを浮かべ闇夜に去って行った。
 
ゆめゆめゆめのそのまた夢で彼女の王国は大賑わい。
彼女は永遠に目覚めることはない…と思っていた。
 
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とある病室で彼女は目覚める。
長い夢の先にある光が彼女を襲った。
「…ま、ぶ、し…い…。」
瞼を開けると白い天井しかなく体は重い。
痛みと重みでベットを貫き床をぶち抜きそうだ。
彼女は思考を開始した。
ここは病院らしい。自分は患者らしい。
そして彼女はどう頑張っても動かない。
動かないし、話せない。
言葉として発したつもりだった言葉は心で呟いていたらしい。
ゆっくりと状況を整理しようとするが思い出せない。
これまでどうしていたかを。
 
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「彼女はもう来ない…」
「いやまだ来ないんだ」
「そうだ、もう来るかも」
「いやもうここにはいない」
 
勇ましく美しい彼女はこの国にはいない、そう他国にもどこにも。
「でも、どうしていなくなった？」
「いなくなる必要が無い」
「誰かに呼ばれたか？」
「何かを思い出したか？」
 
それぞれに持ってきたものを彼女のテーブルに置いた。
 
「これは漆黒の切符、夢の鍵、そして甘いレモン」
「僕は悲しみの切符、愛の鍵、中身のないレモン」
「…切符（深緑）、夏の鍵、皮だけのレモン」
「そんな事だろうと思った…空と二時の切符、ブーツの鍵、レモンの種」
「切符キラキラ、鍵…ギラギラ、レモン腐ってた」
口ぐちに言いながら、中身を置きテーブルを見つめる。
 
「料理も沢山あるのに…」
長い沈黙が続く、誰も主催がいない会議を進めようとはしなかった。
 
「彼女を探しに行かなきゃ」
「お祝いが…出来ない」
「彼女を連れ戻す」
「優柔不断…彼女に会う。会議はどうする？」
「そんなの決まってるだろ結論は出でるんだから」
 
 
夢の最果て…潜在意識…彼女の下部はうなずいた。
 
「彼女はどうして会議をしたかったんだろう」
「分からない、けど持ってきたものは奪うつもりだった」
「そうだろう、そうだろう」
口々に話し始めた。
まとまりのない、会話、ぬいぐるみの観客
建物の中で五人は口々に彼女について語り始めた。
 
「彼女はこうなることを知っていたのではないか？だからみんなを集めた。」
「そんなことして、どうなる？彼女にも分からなかったんだろう」
「…うーん、うーん、いないの？どこにも？」
「それにしても…夢だと分かっていなかった彼女は愛おしかった。」
「いろんな世界を渡ってきたって言ってた…」
「他の世界からの贈り物貰ったね」
「彼女は横暴だった。でも…」
「「「「「僕らを救ってくれた！！！！」」」」」
 
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病院の中に一人きり…急に心細くなった彼女は、叫びたくてたまらなくなった。
声を出そうにも出せないので口を大きく開けようと筋肉を動かそうと必死だった。
しばらくして無理だとわかると、泣きたくなった。
その時、病室のドアが開き40代くらいの女性が悲鳴をあげて倒れ込んだ。
まるでゾンビでも見たかのように小刻みに肩が震えている。
彼女の方が恐怖を感じるくらいには。
「………あ、あ。」
声にならないくらい小さく女性は言った。
その時後ろから20代半ばの男性が来た。
彼女はまた悲鳴を上げられるのかと怖くなったが、そんなことは起きなかった。
男性は静かに目を見開くと興味無さそうに言った。
「まあ、こういうこともあるよ。だからいい加減に立ってくれない？通れないし。」
男性もちらちらとこちらを見ながら女性を立ち上がらせる。
彼女の記憶にはないが、もしかしたら家族かもしれないと彼女は思った。
いや、そうに違いないと。
だがそれも、すぐに冷める夢だった。
「おーい、分かるか？お前がぶつかった車に乗ってたんだけど。」
それは衝撃的な一言だった。
まさか、自分が事故を起こしていたなんて…思わなかったからだ。
男性は続けて言う。
「おーい、脳死って聞いてたけど目が覚めるってことは意識があるのか？」
女性を労わるように椅子に座らせながらひとり言のように言う。
「兼次、やめなさい。」
さっきまで震えていた女性は違う意味で震えているように見えた。
私は何も出来ない。尋ねたいことは山ほどあるのに、何一つ出来ない。
 
それが酷く悲しかった。
 
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彼女の館から出てきた彼らはそれぞれに歩き出した。
「次の三日月の晩に集合しよう。」
「どこに行けば…？」
「手当たりしだいだ。」

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彼女との思い出の地へと向かうのはアンタレス。
この中では三番目に彼女に出会った。
 
「彼女と会ったのは寒い雪の日だった…」
 
思い出すようにアンタレスは空を見上げた。
その日は雪ではなく、星が輝いていた。
 
アンタレスは目を閉じて大きな柳の木の扉を開いた。
そこが彼の家だった。
 
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「中は思ったより広めの家なんだ～おとぎ話みたい！」
くるくる回りながら言う彼女の言葉が蘇る。
「おとぎ話とはなんだ？」
「え？知らないの？」
「ああ。」
「おとぎ話っていうのはね～。」
彼女はそう言っていくつかの物語を話してくれた。
「おとぎ話はみんなハッピーエンドなんだよ？すごいよね～。」
彼女は笑っているのにとても悲しそうに見えた。
アンタレスは目を輝かせながらもっと話をしてほしいと言ったが、
今日はここでおしまいと言われてしまう。
 
彼女がアンタレスの家に来たのは行き倒れていたからである。
アンタレスはいつもの仕事の帰りに雪の中で彼女を見つけた。
何か光るものが近くにあった為彼女を発見できた。
その時に拾ったのが｛夢の鍵｝だった。
青白く光り輝く鍵は、彼女には見えないようで、彼女に返しそびれていた。
彼女のものか分からないのに、アンタレスには彼女のものに思えて仕方なかった。
 
雪の日に彼女が倒れていた訳をアンタレスは知らない。
彼女は次の春までアンタレスの家に泊まり、突然いなくなった。
それからアンタレスは会ってはいなかったが、伝書鳩がいつも手紙を届けてくれていたので
彼女のその先を知ることが出来た。
それは、毎日のように届きまるで見てきたかのように詳細な内容が書かれていた。
会議の事もその手紙で知った。
 
[拝啓　アンタレス様　お久しぶりです。お元気ですか？
ドングリや木の実の食べ過ぎはしていないでしょうか？
お仕事は順調ですか？その後の事が心配でなりません。
私はどうやら物語の中にいるような世界にいます。
周りは話す動物と草に覆われていて、空を見上げても、緑色の方が多いように感じます。今は鳥の親子にお世話になっていて、土の中の家で暮らしています。食べ物は昆虫から分けてもらった花の蜜がメインです。お肉が食べたいけどさすがに言えません。
まるで親指姫にでもなった気分です。広いお花畑と森の往復で体力が持ちません。アンタレス様と暮らしていた時を思い出したのでお手紙書きました。
私の部下として今度会議に出席していただけると嬉しいです。
場所と時間は書いて送りますね。では、またお手紙送ります。]
 
彼女は手紙だとまるで別人のように言葉使いが良かった。
 
だからアンタレスは最初に手紙が届いた時、いたずらか又は代筆だと思った。
けれども、来るたび来るたび同じ言葉使いなので、手紙ではそういうキャラなのだろうと
理解することにした。
 
アンタレスはノーム族の小人だ。
背は狐くらいで髪は肩までかかり、もさもさした髭も生えている。
性別はないが男性よりだ。ノーム族は木の中や土の中に住み自給自足をしていた。
仕事はキノコ採りと、木の実採集、苔の手入れと薬草取りだった。
アンタレスはお店もたまに開く。
ノーム仲間はあまりいないが年に数回物々交換で花の蜜や樹液、砂糖などを手に入れていた。甘いものを手に入れられるのでとても役立っていた。
アンタレスは、こうみえて甘いもの好きだった。
 

彼女と暮らしていた時はとても助かった。
彼女の方が大きく気が利くので高い所や、大きいものを良く取ってもらった。
 
彼女は料理を教えてくれた。
中でもスープは美味しかった。
キノコと薬草と卵のスープ。
木の実に入ったクッキーと花の蜜のジャムも最高だった。
 
彼女はノームを見ても驚かなかったし、野生動物を追い払ってくれた。
アンタレスは彼女を気に入っていた。
 
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しばらく沈黙が流れた。
看護師と先生が来て話しかけられる。
目の前で手を振られたり、肩を叩いたり。
私には答えられなかったけど。
 
震えていた女性は少し落ち着いたみたいで、兼次と呼ばれた男性は冷ややかな目線を送っていた。
 
「目は冷めていますが、意識はないでしょう。まあ、目が覚めただけでも奇跡ですが。
5年も眠っていたとは思えないほど、体は回復しているようです。」
「ほんとになぜ？目覚めたのか分かりませんか？話しかけたとか。」
 
看護師が女性に聞く。
 
「私が来たらもう目覚めていたので、分かりません。」
「そうですか…よりによって後妻さんが来てくれる日に目覚めるなんて、何か伝えたいことでもあるんじゃないかしら？」
 
看護師は優しく言ったが、兼次と呼ばれた男性が怒りを表し声を上げた。
「そんな訳ないだろ！」
「…っ！」
今にも殴りかかりそうだったので後妻さんと呼ばれた女性が彼のシャツの裾を掴み止めた。
「まあ、とにかく様子を見ましょう。」
そう言って医者と看護師は出て行った。
 
…しばらく沈黙したのち兼次が舌打ちをして部屋から出て行った。
 
 
後妻さんと呼ばれた女性は泣き出し、泣きながら彼女に聞こえるように話し始めた。
「あなたが…目覚めるなんて…。っく…ひっく…あなたは覚えてないでしょうけど、
私たちは年に一回来てるのよ…。あなたはね…私の夫を殺したの…っく、でもね、五年も前のことでこんな風に責められるのは嫌かも知れないけれど、私たちはずっと待ってたのよ。あなたが目覚めて本当のこと話してくれるのを。」
 
｛っ！！！！！！！｝
私は言葉を失った。元々声は失っていたが余りの衝撃にそのまま意識がなくなりそうだった。
私は事故を起こしただけでなく人殺しになっていたなんて！
酷過ぎる…何も出来ないが体が動けばすぐに自殺したい気持だった。
遅かれ早かれ知る事実にしろ目覚めてすぐ知るようなことじゃない。
鼓動が速くなる感覚と全身から血の気が引く感覚が私を襲った。
実際にはどうだったか分からないが。
何気ない呼吸でさえもしてはいけないような罪悪感に襲われた。
 
さらに後妻さんは続ける
 
「話せる状態じゃないのは…分かっているのだけど、責めても夫は帰ってこないのだけれど
どうしても…っ…、話しておきたかったの。あなたも加害者であり被害者なんだろうけど私たちは被害者家族としてあなたに理解してもらいたいの。あなたは何も知らずに寝ていることが許せないから…。…………あの日夫は息子と…兼次は息子なの。
ごめんなさいね、あの子まだ整理がつかないのよ。兼次も怪我を負ったけどなんとか無事に回復したの。あの日…8月の1日あなたはなぜあそこにいたの？あんなに急いで車を運転していたの？
そうしなければならない理由でもあったの？答えてよ、答えてったら！っ…。」
 
怒りを露わにした後妻さんは、そのあとずっと泣いていた。
私は何も分からず覚えてもいなかったので、そのあと必死で思い出そうともしたが、思い出したくはなかった。
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アンタレスは漆黒の切符を持っていた。
彼女が落とした切符だ。
黒に吸い込まれそうなほど黒くどこ行きなのかは書いていない。
切符を見つめながらアンタレスはため息をついた。
「はぁ…どこへ探しに行くか…」
彼女の生き先にあてはない。そして彼女の居場所や生活も分からない。
あてもなく動くのは間違っている。
「彼女はなぜこれを持っていた。もしかしたらここに行きたかったのか？」
切符を見つめながらそんな考えが浮かんだ。
 
この切符が使えるのはどの汽車なのか…どの船なのか、はたまたどの乗り物なのか。
アンタレスには分からなかった。
 
「彼女が欲していた｛漆黒の切符、夢の鍵、そして甘いレモン｝この3つのアイテムだけが
手掛かりだ。レモンは大量にあるが、これでよかったのか不明だが…。まずは情報収集からだな。
いつもの市場に行ってみるか。」
 
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