恐怖!!推し変
連日、牛丼を食べて過ごしている。
ポケ盛牛丼セットにおまけで付いてくる、ポケモンフィギュアをゲットするためだ。
これは、昨年12月に発売され、あまりの人気に発売一週間後に一時取扱い休止となった超人気セットの再販ものだ。
店舗前を通ったとき偶然ポップを見て再販を知った僕は、オタクとしては致命的な情報弱者である。知っていたら、発売直前に並ぶくらいの覚悟はあったっていうのに…。
すぐに店に入り、テイクアウト限定、一家族3食までというポケ盛セットを1つ買ってみた。
ポケモン世代なのかといえば全くそうではない。ドラゴンボールを読んで悟空と共に成長していった(正確にいえば僕は年をとっていっただけです)ドラゴンボール世代ど真ん中だ。
連載が終了して何十年も経っているが人気は衰えることなく、近年、新作アニメや映画が公開され大きな話題となっていた。
地元の同級生が劇場版を息子と観に行ったと、独身彼女なしの僕には眩しすぎて聞こえないエピソードを聞かせてくれて、世代を越えて愛され続けているドラゴンボールの凄みを感じさせられた。
そんな、鳥山明先生をデンデよりもピッコロさんよりも神龍よりも神々しい存在と崇拝している僕が何故ポケモンなのか。
これもまた、世代を越えて愛されている国民的アニメで、小学5年生の姪っ子が大好きだからだ。
いつだったか実家に帰ったとき、姪っ子甥っ子が遊びに来ていて「おっちゃんコンビニいこうよー」とお願いしてくる。親と一緒に行っても買ってもらえない物を僕ならダメと言わないと知っているからだ。
その時、姪っ子はポケモンの「一番くじ」(バンダイから発売されている自称ハズレなしのキャラクターくじ)を引きたいと言い、ピカチュウのぬいぐるみを見事に一発で引き当てた。
それ以来ピカチュウが大好きなのだと姉が教えてくれた。僕はくじを引いて上位賞というものを当てたことがない。くじ運の良さは姉譲りか…。
来る日も来る日も、毎日1つポケ盛セットを購入した。ここ最近、夕飯は、モンスターボールをデザインした特製容器に入った牛丼と、ピカチュウのイラストが描かれた可愛いフルーツミックスジュースのセットが続いている。
駅前の吉野家の店員さんには「ポケモンおじさん」なんてあだ名を付けられてるかもしれない…。
それでもピカチュウは来てくれなかった…。推しは来てくれないもの。オタクあるあるだ。そんなこと何度も経験して知っている。過去に、推しのアパレルブランドとのコラボ物目当てに灼熱と極寒の中長時間並び、推しのカード欲しさにウエハースを箱買いし口の中パサパサ地獄と戦い、転売ヤーにも情熱だけは負けることがなかった猛者おっちゃんは挫けなかった。可愛い姪っ子の笑顔を見るために、毎日牛丼を食べ続けた。
10食に達したときにはオマケの開封をし過ぎて、袋の外から触っただけでピカチュウじゃないと分かり、牛丼がいつもよりしょっぱく感じることもあった…。
販売終了は6月15日まで。いや、前回のこともあるから、急に完売になるかもしれない。
焦ること6月12日。土日が休みだったので、悪くなる前に食べ切れると金曜日に3食買い、1セット食べ、残りは冷蔵庫に入れた。
これで出なければ土日買いに行かなくてはいけない。嫌だ…。土日とも雨らしく、出掛けずに済むよう買い物やら色々準備をしたというのに…。
いざ、開封。
1つ目。ヤドン。
可愛いピンクのお尻はもう見飽きた。
2つ目。これで出なければ残り1つ。逆リーチは避けたい、頼む!!
袋を触ってみるとそれほど大きくはない。チャンスはある。端を破り、中をそっと覗いてみる。すると、銀色の袋に反射して黄色い体が見えた。
やった。ついにやった…。
開封すること12個目、やっと念願のピカチュウをゲットすることができた!
この時食べた牛丼は、今までの何百杯の中で最も味わい深いものだった。たぶん、今後どんな革命的な牛丼が出てきても越えてくることはないだろう、と感極まり思った。
嬉しくて嬉しくてガラにもなくスキップしたい気分で姉に電話した。姉の声を聞いたのは正月以来だ。お互い、近況も体調も訊くことはない。
姪っ子にかわってもらい、「ピカチュウ出たよ!!今度持って行くね!」と言った。
すると彼女は、ありがとうとも何とも言わず黙っている。小学5年生といえば色々わかってくる年頃だ。小さい頃は「おっちゃん!!おっちゃん!!」と、どんなに疲れていても眠くても、こき使ってくれた彼女も大人になってきたということか。
苦労が少しでも伝わってくれたのなら、さらに感慨深いというものだ。
それとも、まさか…。
子供の飽きの早さは知っている。「プリキュア」も「がんばれ!ルルロロ」もすぐ飽きた。今夢中の「地縛少年花子くん」というのは僕でもよく知らなくて、だからといって、勉強してもいつ飽きるか分かったものじゃない。
ポケモンも飽きてしまったのか…。
「どうしたの?ママには内緒にしておくから大丈夫だよ」
恐る恐る言うと、彼女は遠慮がちに間を置き、でもハッキリとした口調で
「え〜、リザードンがよかったのに〜」
と言った…。
一発目で出てたよ!!!