【6/18㈯スワローズVSカープ】緊急参戦!巨人ファンの父神宮球場に現る[前編]
ヤクルトスワローズは6月11日㈯交流戦優勝を決め、翌日12日㈰の最終戦も勝利し、先月24日から始まったパ・リーグとの戦いを最高の形で締めくくってくれた。
交流戦が18試合制になってから、最高の勝率での優勝だったという。
ホークスとの三連戦を終えた週明け月曜日、出社すると多くの人が声を掛けてくれた。
「ヤクルトすげーな」
「ヤクルト優勝して気になったから調べてみたら、今、監督高津さんなんだね」
「優勝おめでとうございます!」
などなど。
何度も同じことを言っているが、人の趣味を知り、覚えていてくれて、悪いときは励ましの言葉・良かったときはお褒めの言葉をくれるというのはなかなかできることではない。
リーグ優勝したときも、日本一になったときも、有り難い言葉をくれる人が多くいて嬉しかった。
それなのに…、そういう言葉に慣れてきてしまったのか、僕はついつい可愛気のない本音で返してしまった。
「幸せ過ぎて怖い。"エンゼルスみたいにこれから大型連敗するかもしれない"って想像するとしばらく野球はいいっていうか、もう不安で…」
「野球ファンにとって月曜日ってのは貴重なんです。ゆっくり飲めるんで。交流戦後は4日休みだから大分楽になりますね」
「"いつも楽しそうで幸せそうだね"とか言われるけど、幸せなのは勝ったときだけだから。負けたら全然楽しくないよ。これからはこんなに勝てるか分かんないし」
といった具合に…。
本当は嬉しいのにそんな冷めた風のリアクションを僕がしても、
「ヤクルト強いから大丈夫だよ!」
なんて言ってくれる。
皆さん優しくて、本当にもう頭が下がる。
ジャニーズ・ハロープロジェクト・ヒップホップ・キャンプなどなど、自分とは無縁だが皆さんが"好きなもの"に対して自分も理解を示したいなと改めて思わされた。
“ジャイアン”からの電話
職場には皆から"姉さん"と呼ばれる女性がいる。その名の通り、豪快で姉御肌で、義理と人情を一番大切にして生きている人だ。
若い頃から、僕も彼女にはよく世話になった。仕事でというより、主に仕事後に。
とにかくよく食べさせてもらい、飲ませてもらった。
「食べな食べな!」と丼飯や肉肉しいもの、油物をすすめてきて、遠慮せず若者みたいにガツガツ食べる僕をほろ酔いで見つめる姿は、姉さんというより"かあちゃん"に見えるときもあった。
でも、その豪快で言いたいことは黙っていられない性格から彼女は人とぶつかることが多く、衝突しがちな人たちからは「理不尽だ」いう理由で"ジャイアン"と呼ばれていた。
"姉さん"で"ジャイアン"
あだ名だけ聞いたら性別すらよく分からなくなっているが、「酒と飯をくれる人に悪い人はいない」という考えの僕には(笑)、誰に何と呼ばれていようが、彼女は出会ったときから今でもずっと大切な"姉さん"なのである。
「4日休めるから楽」とか言っていたものの、交流戦終わりの翌週火曜日にはちょっと野球ロスを感じていた。
水曜日の夜も、野球以外の趣味で時間を潰してみたが物足りなさを感じ、木曜日は「明日から野球だ!」というワクワクを肴に晩酌していた。
少し飲みすぎたのか座ったままウトウトしていると、けたたましい音で電話が鳴った。
ぼっちの僕のスマホの、メール受信音でもなく着信音が鳴るというのは珍しいことなので派手にビクッとして目が覚めた。
「仕事で何かあったか…」
急用以外"鳴らない電話"なので、まず悪い予感が頭に浮かぶ。
乾いたコンタクト越しに手に取ったスマホを見ると、"姉さん"という名前が見えた。
「お疲れ様です」と電話に出て話を聞くと、話題は仕事とは全く関係のない嬉しいものだった。
神宮で屋根付き??
「兄貴がヤクルト戦のチケットを知り合いに貰ったらしいんだよね。18日の土曜日なんだけど、行かない?」とのことだった。
ヤクルト戦のチケットと言われた瞬間喜びかけたが、土曜日と聞きすぐに小声で返事した。
「その日のチケット、持ってるわ」
チケット入手済みと聞いても姉さんは特に驚くこともなく
「内野の屋根付きのペアシートらしいよ。いい席みたいだから、〇〇ちゃんの外野席を誰かにあげてこっちで見れば?」と言った。
姉さんは野球に全く興味がないので、「一緒に行こう!」とはならない。
そもそも、「神宮は屋外球場なのに屋根付きとはどういうことだ?」とよく分からなかった。
たぶん、僕が足を踏み入れたことがない高額な席なのだろう。
断るのはもったいない…とは思ったが、誘う友達もいないし、無精者で行動が遅い自分にしては珍しく、考えるより先に動いて取った"前列通路側"の席は尊いというか…、大切なものだったので高額な席よりそこで見たいという思いが強かった。
「友達じゃなくても、ヤクルトファン誰かいないか…」
考えるとすぐ自称"国鉄時代からスワローズファン"の母の顔が浮かんだ。
ちなみに、僕がファンになった理由は母とは関係がない。
「母ちゃん誘うとしてペアシートらしいからもう一人…。確か18日はイベントだったな。よりによってFATHERS DAYか…」
姉さんは「他に野球好きな知り合いがいない」と言っていたし、チケットを無駄にはしたくなかった。
なので、あまり気は乗らないが実家に電話をしてみることにした。
敵地への招待状
実家の固定電話にかけると必ず母が出る。
母に対しては野球に関して何の遠慮もないのですぐに用件を切り出し、経緯を説明した。
説明を終えると本題となる。
「巨人戦じゃないけど内野のいい席らしいし、どうかな?神宮の屋根付きの席で飲みながら野球見たら楽しいと思うよ。デイゲームだから帰りも遅くならないし。巨人戦じゃないけどさ…」
父はいわゆる"長嶋大好き親父"だから、大の巨人ファンだ。
交流戦でジャイアンツが失速してしまったことで機嫌が良くなく、最近は「岡本が打てばいいんだ」が口癖らしい。
「ダメかな…」とソワソワしながら返事を待っていると、受話器の向こうのさらに向こうから父の声が聞こえた。
「行ってこいよ」
母が訂正する。
「〇〇はチケット持ってるの。だから…」
「だから?」
「親父と母ちゃん二人で行かないか?って」
「行くよ」という父の声がすぐに聞こえた。
迷うでもなく即答だったのは意外だった。
スワローズの試合だとか、僕の誘いだとか、そんなことより母と二人で出掛けられるのがただ嬉しかったのかもしれない。
父はたまに東京ドームに行っていたが、母はかなり久々の野球観戦ということでその声からワクワク感が伝わってきて、僕も嬉しくなってきた。
とにかく、有り難いお誘いを断ることにならず良かった。
少しホッとして
「じゃあ決まりね。先輩に連絡するわ」
と言い電話を切った。
内野の高額席と外野の賑やかな席。
同じ日、同じだけど離れた場所でジャイアンツファンの父とスワローズファンの息子が、「スワローズVSカープ」を見るという何ともいえない展開を迎えることになった。
「FATHERS DAY」というイベントの開催日。
いい試合と美味い酒があれば父は満足してくれるのか…。それとも首位を走る敵スワローズが負けたら父は喜んでくれるのか…。
チケットを渡すため実家に帰ってはいたが、両親とは別に神宮球場へ向かった。