アイドルのダンスの構造的把握に関する仮説

理論

いろいろなアイドルを見ている中で、踊りにも意味がある、ということがだんだん分かってきた。①リズム的モチーフ、②記号的モチーフ、③演出的モチーフ。ひとまず、それに分けて考えてみる。もちろん、複合的である場合もあると思う。

①リズム的モチーフ

リズム的モチーフは、音楽に合わせて、動きでリズムを見せるもの。例えば、ステップを踏みながら歌っているシーンがそれにあたる。でんぱ組.inc『でんでんぱっしょん』のサビ、リボンを振っているところは、「でんでんでんでんぱっしょんあどべんちゃー」のところは1拍づつのリズムとなっているが、「らららら突き進め」の部分は、2拍のリズムになっている。こうしたリズムを視覚的に見せることで、より音楽との一体感を演出できると考えられる。

②記号的モチーフ

歌詞の意味を動きで表すもの。FluetZipper『わたしの一番かわいいところ』のサビ前「わたしに付き合ってくれるの好き」と歌うところ、「好き」という言葉に指ハートを当てている。1つ足りない賽は投げられたの曲名が分からないが、泣いているシーンで手でTのマークをしたり(これは、Twiceで流行ったからかもしれない)、落ちていく描写で右手を顔の横から下に、人差し指を指しながら手を伸ばしていく、といった動作を行っている。もう少しマクロな視点でいえば、1つ足りない賽は投げられたの曲(これも曲が分からない)、たしか「鏡に向かい合った自分」という歌詞のあるところで、ひとりが歌い、残りの4人は2セルに別れ、向かい合って踊っていた。これは、自分と向き合う、というその意味に被せているのではないかと思われる。意味を持たせた動きをすることで、ダンスが歌詞と結合することになる。

③演出的モチーフ

かわいさやかっこよさを見せる動きやフォーメーションのような全体の仕組みとしての動きを演出的モチーフとしています。ハートを作る、ポーズをとる、など、かわいさを強調する場面で使われる。キラナさんの曲、曲名が分からないけれど、ステージを左から右へ、そして右から左へ動くところがある。この上下に揺れながらの動きは、かわいさの演出と思われる。この他に、astromateがメンバー全員の腕でアスタリスクを作る、というフォーメーションの動きも演出的モチーフに該当するでしょう。

ただし、これら3つについては、ひとつの動作にひとつしか当てはまらない、というわけではなく、複合的に組み合わさっている、と考えた方がよい。つまり、1つの動作は、リズム的モチーフと記号的モチーフと演出的モチーフが組み合わさって作られていることがある、むしろ、複数の意味を持たせていることの方が多い。特に、リズム的モチーフは、楽曲の中で行われるから、ある程度、リズムに乗りながら動作を行う、ということが必要にあなるため、曲全体を通して用いられていることになるだろう。

具体的な分析

実際の例で考えてみたい。

この動画では、曲が始まるのが0:32です。6人で1人を囲み、隠しています。0:35で中の1人を見せるためにしゃがむ動作が入ります。リズム的モチーフであり、フォーメーションを成り立たせるための演出的モチーフでもあります。中の1人はポーズをとる。演出的モチーフ。

0:37から0:44にかけて、音楽に合わせて、ポーズをとりながら1人を軸に6人が回転します。演出的モチーフになります。キメの動作はリズム的モチーフなのか、という問題がありますが、音楽との一体性のためであれば、リズム的モチーフとして捉えていいのではないか、と考えています。ポーズの規則性については、見てみたけど分かりません。ただ、1~3回目はある程度決まったポーズをとることになっていて、最後はポーズがバラバラになる。ちなみに、この動画とライブ動画で違うポーズになっているところがありましたが、おそらく、この動画が間違いなのではないかと思います。

0:45から0:48にかけて、脇をかぽかぽしながら足を回しながら前後する動き、リズム的モチーフでしょう。この後、円と中心の配列から、1-4-2の3セルによる斜線の形になります。左前の三角と、右奥の三角を真ん中の1人が接続している、と見てもよいでしょう。この1人は、0:52から0:53にかけて、左のグループに合流し、左4人のセルと右3人のセルへと別れていきます。移動の時の腕の動きはちょっとよく分かりません。

0:50で「あれ気づいちゃいましたか?」という歌詞になります。ここで、真ん中の娘が頭を指しながら、横に頭を動かします。頭を指すことで、気付くという動作の、傾げることで疑問詞を意味する記号的モチーフになっています。

「生まれて30秒」のところで、左前の娘が両手をあげて、後ろのふたりが驚いたようなそぶりをしています。生まれたことと、それに対する驚き(なぜ驚くのかはあまり分かりませんが)を意味していると考えられる。先ほど指摘した通り、真ん中の1人が合流します。

「当たり前に覚えてないけど」というところで、右の3人のセルが動き出します。1拍のリズム的モチーフの動きがなされます。指で頭を指し示すのは考えたり気付きなどの動作が多いので、「嬉しかったはず」で頭を指して離す動きは、考えて結論を出す(電球が光るような)記号的モチーフの意図があるのではないか、と思います。

疲れたので、いきなり飛びますが、3:44では、「わたしのかわいいところをよく見てる」という歌詞になっています。ここでは、眼鏡のように、指で丸を作る。これが記号的モチーフとなっています。その後の、3:59では、「わたしのかわいいところに気付いてる」なので、顔を指し示す(かわいさに気付いていく)動作になっています。歌詞に対して、動作を明らかに変えている。記号的モチーフとして用いられています。

まとめ

ひとまず、モチーフに分けて考える、という考え方で、アイドルのダンスを分析する方法を書きました。そして、この仮定の下、具体的に少し分析を行ってみた。しかし、なにせ、書きながらちょこっと見てみただけなので、例えば、揺れながら中腰になる動作をどのように考えるのか、など、全体の比較分析から検討しないといけないものが多々あると思われますが、そこまでは検討できませんでした。しかし、モチーフによる分析は、ひとまず、可能なのだろうと思います。

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