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ナーロッパ紀行(なろう小説と日本人)
いわゆるナーロッパには共和政体の国は絶無で、貴族や富裕層による立法議会すら見たことがなく、裁判官はまるでお奉行様まで、側室制度や後宮、奴隷制が珍しくない。日本人の国家観・政治観をみごとに表わしていると思います。立身出世や王位簒奪でなく、民衆蜂起や革命の話があったら教えてほしいです https://t.co/e4USBUFjWu
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) June 16, 2024
(https://twitter.com/ashibetaku/status/1802180845027131562より引用)
共和政体の国はナーロッパでは絶無で、これは日本人の国家観、政治観を見事に表している、という見解……言われてみれば共和政体の国は少ないかもね。
これについて少し考えてみます。
創作という観点から見るなら、共和制というのは物語として書くのが難しいというのが挙げられます。
民主共和制とか立法議会とかの世界観で物語を書こうとすると、対立する各勢力との利害調整とか政治を動かすための根回しとかを書く必要が出る。
しかもエルフやドワーフ、獣人とかがいる世界では人種的な要素が加わるため、益々難易度が上がります。
僕自身はそういうのは好きですし、上手く描ければ政治物語としては面白いものができるでしょう。
しかしそれを
ライトノベルというジャンルに読者が求める娯楽性と両立させる
のはかなり難しいように思えます。
それに、共和制とは君主がいない政体でしかありません。
なので、選挙等で選ばれた独裁的で強権的な大統領がいてもおかしくはない。
実際に、独裁国家も体裁は共和制っていう国もあります。C民主主義人民共和国とかも体制としては共和制ですし。
ということで、共和制の政体を取っているけど、
「正しい」指導者がいて「正しい」思想のもとで国を引っ張っている!みたいな国
とかならすぐ描けるとは思いますよ。
それって国王がいる君主制と大して差はない気もしますけど。
まあ、元ツイの共和政体というのも独裁的な共和制はそもそも想定外で、民主共和制のことを指しているんでしょうけどね。
ならはっきりそう書くべきだと思いますが。
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あと、ナーロッパに共和政体の国が出てこないのは
格好いい主人公の活躍劇を書こうとする場合、政治体制がどうであってもたいして物語には影響しない
ことが最大要因ではないかと思います。
要するにそこにあえて凝る必要が無い。
例えば勇者を日本から召喚して魔王討伐を命じたり、悪役令嬢の婚約を破棄するのは、君主制王国の国王エドワード19世であっても、貴族合議制の国のロンヴァルディア伯爵でも、共和制国家のアンダーソン大統領でも、民主主義国家の国民議会議長フィリップでも構わないわけです。
勇者召喚の前に、大統領が議会で多数派工作する描写を入れても仕方ないでしょ。
それと、これは私見というかなろうテンプレの特殊性かもしれませんが、なろう小説のテンプレは
ある種のシェアワールド的
に機能しています。
例えば「テイマー」とか「悪役令嬢」とか「ダンジョン」とか「配信」とか「勇者」とか書けば何となくこんな感じだろうという共有認識が読者と作者の間にある。
なので国王がいて城があってナントカ王国みたいに書いておけば、其処まで詳しく描かなくても、読者はなんとなくふわっとした認識で設定を分かってもらえるわけです。
その中であえてテンプレを外して共和政体を描く必要が無い。
……いや、書いてもいいですけどね。
ただ、上記の通り共和政体でも君主制でも物語に大きな影響はなさそうなので、手間をかけるメリットが薄い。
このシェアワールド的機能には弊害もあるとは思いますがここでは関係ないので割愛。
なろう作家のだれかが共和政体の国を舞台にした作品を描いて、テンプレになるくらいのヒットを飛ばせば普通に共和政体の国は出てくると思います。
あとは
異世界転生したら分裂直前の共和制国家だった~読心スキル持ちの俺に老害議員どもの悪だくみは通じない。美少女議長を助けて無双する~
みたいな話なら共和政体も出てくるでしょうね。
共和制にする創作的な必然があるので。
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いわゆるナーロッパ、なろう小説風のファンタジー世界設定の側面からもう少し考えてみます。
友達の兼業作家がどこぞでエッセイを描いてましたが、モンスターがいたり魔法やスキルがある世界では、男女観、ジェンダー観が恐らく僕らの世界とは激変します。
我々の世界とは全く違う文化が形成されるでしょう。
そういう世界では、きわめて強力な能力を持つものが国王となり、その者が統治する国家というのが我々の世界よりもはるかに成立しやすいんですよね。
強さや有能さとかがスキルとかの形で可視化されるので。
また、モンスターがいるような世界だと、それに対抗するために強力なリーダーを中心とした中央集権的な国ができやすいだろうとも思います。
モンスターとか魔王と戦ってるときに、民主共和制国家が議会で内輪もめしてる図を描いても疲れるだけです。
そんなうんざりする現実を見たければNHKのニュースでも見ていればいい。
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まあ、色々と書きましたけど、この元ツイで言いたいのは、
日本人はお上意識が高く上には媚び諂い、民主主義に対する意識が低く、奴隷のような被差別階級を見下す国民性だ
ということだとは思います。
ただ、
なろう小説の傾向から「日本人」(主語が大きい!)の国家観、政治観を透視してしまう
思考回路の方が、なろう小説に共和政体が絶無であることより余程いかがなものかと思いますが。
牽強付会が過ぎるでしょ。
ただ、なろうテンプレの転生チートハーレムを「日本人」の願望に結び付ける見解は定期的に見ます。
雑な理解で揶揄されるのはなろう小説の常です。
要するにそういう発言をしている人は、なろう小説なるものを低俗なものとして見下しているんでしょう。
雑に扱っていい代物としてね。
かつて推理小説やミステリ、ロックやジャズは低俗として見られていましたし、近頃の若いもんは!という文脈はローマ時代にもあったといいます。
昭和は遠くなりましたが、令和になってもそういう話は尽きず、案外人間は進歩してないようです。
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ついでに元ツイの引用元について。
戦国時代に転生する系のマンガとかラノベ、現代の知識とか技術を伝授して駆使するけど、民主主義とかはそうしないのな。
— まつもと (@matsuwitter) June 13, 2024
(https://twitter.com/matsuwitter/status/1801172594596745653より引用)
上記の通り、創作上必要性が薄いというのもありますが、それで終わるのもアレなので。
民主主義は単純に技術や知識と違って、国民の広範な思想や文化レベルに関わるからでしょう。
要するに創作上、エンタメとして機能させるのが難しい。選挙制度を導入すればいいってもんじゃないですからね。
ただ、
「いい人=正しい知識人」だけの制限的民主主義
とかなら成立するかもしれません。
こういうの、J・リベラルの皆さんが好きそうなので、だれか描いてあげてください。
それに技術や知識は人の生活を改善させ得ますが……とはいえ、異世界おじさんのように現代科学無双をしようとしたら、怪しげなもの扱いされて処刑されかける可能性もありますが……まあそれはそれとして。
民主主義はそれをインストールすれば即座に政治改善!問題解決!という魔法のシステムではありません。
それに20世紀になっても民主主義が今一つ機能していない国はいくつもあります。
ミンシュシュギ!サイコウ!という思想も結構ですが、その人たちにとってそういう国はどう映っているのか中々興味深いところです。
ツリーではリアリティの話も出てますけど。
上記の通り、モンスター、魔法、スキルがある世界のリアルは我々の世界と全く違うものになると思います。
というか、魔法、モンスター、スキルのどれか一つだけであっても全然違う文化が形成されるでしょう。
リアリティについて論じるなら我々の世界のリアルと比較しても全然意味ないです。
それに「革命」を我々の世界のリアリティを参照して描くと、革命勢力が旧政体をギロチン処刑して、そのあとは革命路線の方向性から内部分裂して血で血を洗う粛清劇とかになるのでは?
![](https://assets.st-note.com/img/1718843551396-ljnqYAf9rf.jpg)
その裏切りと血まみれの粛清劇を泳ぎ切る主人公とか、それはそれでエンタメとしては面白いかもしれませんけどね。
誰か描いてあげてください。