#16 雪下キャベツ
雪のなか、市内の専業農家・水品直子さんがスコップで雪を掘り返していた。雪の下の薄いシートをめくると、そこにはキャベツが並んでいた。
「雪が降る前に、キャベツを根つきのまま、畑から採ってくるんですよ」と言われて僕の頭の中は「???」となる。根つきのキャベツが想像できないのだ。
次の瞬間、水品さんが取り出したキャベツから包丁でザクっと根を切り落とした。
「え〜、キャベツって根っこの上に茎があって宙に浮いているんですか?」と僕はなんとも的外れな感想を口にする。十日町市に8年近く住んでいても、みなさんの当たり前は僕の当たり前ではなく、会話をしていても、変なところで躓いたり、ビックリしたりしてしまうのだ。
水品さんは笑いながら、「こうして雪の下で保存すると、瑞々しくて糖度ものって甘いキャベツになるんですよ。みんな喜びますよ、雪下だと。柔らかいんですよ」と話の本題に入っていく。
「野菜って収穫したばかりが1番新鮮で瑞々しくないのですか?」僕は再び、話の腰を折るような質問をしてしまう。「根つきだと、呼吸はするし、鮮度を保てるんですよ。甘さは雪ですよ。寒さから自分を守るために、でんぷん出して糖度があがって甘くなるんですよ」。
そう言われて合点がいった。昨冬、ご近所さんにいただいたキャベツを横浜の両親に送ったことがあった。年老いて、買い物で重たいものを運ぶことが億劫になったという両親に、時たままとめて野菜や味噌など、大きくて重たいものを送ることがあるのだ。キャベツも「美味しい、美味しい」と食べてくれた。僕は秋に収穫したキャベツが冬になってもまだ新鮮で美味しいのかな?と、すこしビックリした。実家のある横浜のスーパーで買う野菜とどう違うのだろうと。
そうか、雪が野菜を美味しくしていたのか。
水品さんは地元の小学校の給食に野菜を卸して20年ほどになるという。その日も、翌日に給食センターに納品するキャベツ15キロの準備をしていた。「キャベツは大きなもので約2キロくらいあるから、8個くらいかな」。この冬は約1400個を収穫して雪下とハウスの中で保存して、給食以外にも直売所やスーパーの地場産コーナーなどで販売している。
僕も昨年、息子が通う小学校で一緒に給食をいただく機会があった。学校すぐ横の給食センター(水品さんの地区とは違うセンター)で調理されたそれは、どれも美味しく、地元の食材がふんだんに使われていた。
「僕の出身地である横浜ではこうした地産地消の給食は難しいだろうな」と思い、毎日、こんな給食が食べられる息子が羨ましく思えた。
日本有数の豪雪地帯で田畑が雪で覆われてしまう十日町市で、冬場もこうして新鮮な野菜が食べられるのは生産者さんたちの努力があるからだろう。
「こうした保存は昔からあるのですか?どなたかに習ったのですか?」
「いやいや、自己流ですよ。ここまでくるのに何度も失敗していますよ。雪のなかで成長しすぎてキャベツが全部爆発したこともありますよ。失敗があるから改善できるんですよ」。
水品さんのキャベツは2月の半ばにはなくなり、新たなシーズンに向けて春作業が始まる。雪を除けて、野菜の苗づくりが始まり、市内のホームセンターに出荷される。
「あっ、その苗、僕も買ったことありますよ!」
季節は巡り、いろいろなことが繋がってゆく。
『究極の雪国とおかまち ―真説!豪雪地ものがたりー』 世界有数の豪雪地として知られる十日町市。ここには豪雪に育まれた「着もの・食べもの・建もの・まつり・美」のものがたりが揃っている。人々は雪と闘いながらもその恵みを活かして暮らし、雪の中に楽しみさえも見出してこの地に住み継いできた。ここは真の豪雪地ものがたりを体感できる究極の雪国である。
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