ピンクのジンベイザメ
梅田の街はコンパクトなので自転車を使いたいが駐輪場が一切ない。路駐をすると必ず撤去されるので(俺は数えるのが嫌になる位に撤去された)、最近の移動にはタクシーを使っている。移動中にゲームできる位のメリットしかないけど、歩くのよりかは遥かに良い。
「あ。よっぴーよっぴー。ニコルたちもうついてるみたい。運転手さん!僕たちのお酒なくなっちゃうんで急いでもらえますぅ?」
俺のことを隣から気安く呼んだ手足の長い男がエミヤだ。いつも俺を楽しませてくれるが今話しかけられるとスマホの麻雀アプリに集中出来ない。
「エミヤはうるさいねん!仕事中の人の邪魔すんな!運転手さん。すんません。ゆっくり行ってください」
「ははは。抜け道を通りますね〜。この道はうまく行くと信号全部ひっかからないから〜」
堂島川に某水族館の魚が放たれるようなってから、中之島は以前にもまして賑わうようになった。タクシーの運転手は川側の道を避けて中之島公園に向かってくれた。
今日はオクトーバーフェスと言う海外のビールを飲みまくる祭りに誘ってもらったのだ。
「今日めちゃくちゃ飲むつもりやから、よっぴーはちゃんと俺の事連れて帰ってなぁ」
「おう。ええぞ。…あ。じぇけが俺んち来ることになったらエミヤは帰れ」
「おいぃ!美人のじぇけとイケメンの俺どっちが大事やねん」
「流石に美人のじぇけやな?エミヤはそろそろ家に帰れよ」
「それなー。おい!よっぴーそれ変則四面待ちやん」
エミヤが俺のスマホをチラッと覗いただけで俺の手牌の待ちを言い当てた。
「せやで。索子ならなんでも来いやで」
俺がアガリボタン連打していると、上家が索子の六を捨ててくれた。幸運。
「「中一盃口混一色ドラ3。ば〜い〜ま〜ん〜」」
ご機嫌な俺たちを乗せたタクシーは中之島公園にかかった天神橋の上についた。レシートをもらってタクシーから降りると天神橋の上は人だらけだった。
この観光客達は深い深い底が見える位に澄んだ堂島川を泳ぐジンベイザメを見るために世界中(主に中国が多い)から観光客が集まってきた。今日のオクトーバーフェスがある中之島公園はそんな堂島川の中州にあるのだ。
俺たちは天神橋から中之島公園へ降りるための螺旋階段をぐるぐると降りていった。エミヤが用意してくれた入場チケットでゲートをくぐると芝生にはいくつものテントが立ち並んでいた。どのテントでも海外のビールやつまみを楽しめる。テント毎に違うビールが売ってるので何種類飲めるのか楽しみだ。先ずはニコルたちと合流しよう。
俺がニコルと飲むのは2回目だ。心斎橋のジャニス(ナイトクラブ)で顔は見た事がある位だったが、エミヤとじぇけがニコルと仲良くなったので俺もニコルと飲むようになった。
「よっぴー!こっちやで!」
美人のじぇけが迎えに来てくれた。手を振って近付いてくる。隣りを歩いていた大きなエミヤが小さなじぇけをハグしに走ろうとする。
「じぇけちゃーん!ウゴっ!!おいよっぴー!いきなりケツ蹴るなよぅ!靴がアナルに刺さって俺があっちに目覚めたらどうするねん」
転けたエミヤがなよなよと手の甲を頬にあてながら怒っている。
「うわ!爪先にエミヤのウンコついてもうた。最悪や」
「んな、わけあるかい」
「んふふ!よっぴーとエミヤはやっぱりおもろいな!」
じぇけが喜んでくれた。でも、髪の毛が濡れている。
「こんな早い時間やのにビール頭からかぶったんか?濡れてるやん」
「んは!ちゃうちゃう!ニコル達とスキューバーダイビング体験しててん。ジンベイザメと泳いでんで!これ、ウチのビール無料券よっぴーにあげるわ!いつもシャンパン飲ましてくれてるからお礼」
「ありがとう!ってやっすいお礼やな!!…ってあれ?じぇけもう帰るの?」
「うん。ルゥが困ってる見たいやから、うちもう行かなあかんねん」
ルゥはじぇけの彼氏だ。
「あんなやつほっといて俺たちと飲もうや!」
「ルゥはうちがおらなあかんからほっとかれへん。ゴメンねよっぴー」
「いいよー。またジャニスでな!」
俺はよくないけど、いいよー。と言ってしまった。
「またねよっぴー!ニコルたちにもよろしく!エミヤもバイバイ」
「じぇけちゃんバイバーイ!」
じぇけが帰ってもエミヤは元気だ。じぇけが見えなくなるまで長い手を振ってたエミヤが振り向いて、
「よっぴーいいチケット持ってんじゃーん!この券何でも飲めるから一番強いやつ頼もう!」
「それなー!エミヤはいい事しか言わんなー!」
俺たち樽生のデリリウムを飲む事にした。アルコール度数がめちゃくちゃ高いビールらしい。大きなジョッキにはピンクの象があしらわれてる。幻覚を見るとピンクの象が見れるらしい。大きなジョッキに描かれたピンクの象は俺を飲むと幻覚を見るぞ。と挑発してるようなのがいい。
夜の堂島川の底は22時までライトアップされて泳いでる魚たちがそれはそれは見事に照らされる。まだ日は沈んでいないが今日はピンクのジンベイザメが見れるかも知れない。
俺とエミヤはピンクの象のジョッキを8杯も抱えてニコルたちの元にむかった。みんなでピンクのジンベイザメを見るのだ。
おわり。