ふたつの名作映画から考える、アメフト(アメリカ)の光と影
アメリカの学校では、体育の授業でアメフトをやる。僕の通っていた高校も例外ではなかった。
先生のホイッスルと同時に相手チームが攻めてくる。しかしタックルは禁止。腰に付いているヒモを取ればよい、というルールだった。(フラッグ・フットボールという。)
アメフト部のコーディがボールを持ってこちらに走ってきた。簡単にヒモをつかめそうだ…
次の瞬間、彼は視界から消えた。素早い身のこなしで気づいたら5メートルほど後ろを走っている。どうやら「アイシールド21」の描写はあながち大げさではないらしい。
そのあと僕がフットボール部に入ることはなかったが、今でもその印象が強く残っている。
それから10年近い時が経った2020年。偶然にも最近観たふたつのアメフト映画に強く心を揺り動かされた。
このスポーツはアメリカという国を本当によく表していて、日本に住む僕たちにも大きな示唆を与えてくれる気がしてならない。
映画のあらすじ
まず、映画のストーリーを簡単に紹介する。
「しあわせの隠れ場所 (The Blind Side)」は、恵まれない環境で育った青年が周囲のサポートを借りながらスター選手に成長するサクセスストーリーだ。
力強くも心優しいマイケルと、彼を実の息子のように愛するリー・アンとその家族。実話ベースということもあり、「一番好きな映画」と断言する友人もいるほど人気が高い。
人種や社会的立場に関係なく、誰でも自分の才能と可能性を信じて努力すれば道が拓ける。まさしくアメリカンドリームを正面から描いた、ポジティブで心温まる名作だと思う。
2010年アカデミー賞作品賞ノミネート、サンドラ・ブロックは主演女優賞を受賞するなど数々の栄冠に輝いた。
もう一つは「コンカッション (Concussion)」で、2015年公開のウィル・スミス主演作品。
CTE(慢性外傷性脳症)を提唱したベネット・オマル博士がNFL(全米フットボール協会)から妨害や脅迫じみた圧力を受けながらも、脳震盪=concussionを伴うスポーツの危険性を解き明かしていく。
CTEとは、脳への度重なるダメージによって脳細胞が変性し深刻な認知障害や鬱などを発症する疾患。
こちらも実話に根ざしたストーリーで、かつてのスター選手たちが別人のように家族を傷つけたり、最後には自殺してしまうシーンには強い悲しみと恐怖を感じる。
NFLは2014年、選手や家族あわせて4500人の集団訴訟に「いつからCTEについて把握していたか」を公表しないことを条件として示談に応じた。オマル博士が最初の論文を発表してから10年近く後のことだった。
ウィル・スミスはハリウッド映画賞で主演男優賞を受賞した。
アメフトの二面性
アメリカを代表するスポーツを全く異なる立場から描いたふたつの作品。
僕は「コンカッション」を先に観たので、「しあわせの隠れ場所」のその後を案じずにはいられなかった。ドラフト1位でプロ入りし、8シーズンを戦ったマイケルがもしCTEを発症してしまったら?
殿堂入り選手であり、CTEの症例第一号のマイク・ウェブスター。50歳の若さで記憶障害や重度のうつ症状に悩まされ死亡した。死後20年近く経っても彼の家族は未だにNFLから補償を受け取れておらず、法定紛争が続いている。(前述の集団訴訟は2006年以降の発症が対象。)
でも、もし彼がフットボールに出会わなかったらどんな運命が待っていただろう。貧しいまま勉強にも励まず、低賃金の仕事に就くのか?幼なじみのようにギャングに入ってしまうかもしれない。
事実、彼は現役時代に10億円以上の給料を稼いだ。
何を隠そう、NFLは世界最大の経済規模を誇るスポーツリーグ。その年のチャンピオンを決める「スーパーボウル」はアメリカの国民的イベントで、ふだんフットボールに興味を持たない人でもテレビに釘付けになるほど面白い。
年間1兆4000億円を超える収益は、世界でもダントツだ。
マイケルやその家族のみならず、多くの人々に夢と興奮を提供しつづけていることに疑いの余地はない。
このように、アメリカン・フットボールはまぶしいほどの輝きと暗い影を背負っている。この競技最大の魅力のひとつが選手同士の激しいぶつかり合いということを考えると、それらは切っても切り離せない。
光差すところ影あり
多様性を尊重し、実力主義・自己責任を貫く。そんなアメリカ社会では多くが功罪相半ばしている。
最もわかりやすいのは銃だろう。入植から建国までは自分たちの権利と命を守る象徴で、現在でも護身用に銃を保有する家庭は多い。
アメリカ人、銃持ちすぎ?
かたや誤射や故意による傷害事件は後をたたず、たびたび乱射事件が発生する。最近の調査では国民の過半数が規制の強化に賛成しているが、既得権益や憲法を理由に根強い反対もある。
しあわせの隠れ場所には、リー・アン(サンドラ・ブロック)がギャングの脅しに「私はNRA(全米ライフル協会)の会員よ!」と応戦するシーンがある。NRAはその強大な権力を用いて銃規制を食いとどめている。
もう一つ、グーグルやアップル、アマゾンなどの「Big tech」と呼ばれる多国籍ハイテク企業も忘れてはならない。
スマートフォン、パソコン、通販、そしてソーシャルメディア。彼らのおかげで僕たちの生活はとてつもなく便利で豊かになった。
しかしその裏で多くの既存ビジネスが絶滅し、税金や市場独占、そしてプライバシーなどに深刻な影響が出ている。
自由な繁栄は多くの幸福をもたらすが、同時に暗く大きな影を落とす。その二面性こそがアメリカ社会の真の姿かもしれない。
日本の話
そして「横並び社会」と称される日本も決して例外ではない。
CTEに関していえば、昨今めざましい活躍を見せているラグビー日本代表。彼らの勇姿は僕を含めて多くの人々を感動させた。当然ラグビーに興味を持つ子供は増えている。
しかしそれは危険と隣り合わせ。幼少期からコンタクトスポーツをプレーした彼らの将来はどうなるんだろう?(もちろん接触を最低限にする練習方針を重視している指導者は多い。)
また、例のウイルス対策も大局を見失いがちなトピックだ。
外出自粛を呼びかけることは非常に大切だが、その裏で自殺者が増えていることはあまり知られていないように思う。
ウイルスで亡くなることが多いのは高齢者。対して自殺に追いやられているのは若い女性や子供たち。
たしかに人口ピラミッドから功利主義的な結論を描くのは安易すぎる。しかし若い世代に心のケアを行うことは立派なウイルス対策ではないか。
酸いも甘いも
今回紹介したふたつの映画はどちらも面白くて、それぞれの立場から「真実」を教えてくれた。だからこそフットボールの枠を超えた学びがあったような気がする。
もし興味があれば、ぜひ片方だけでも観てほしい。
物事の良い面や悪い面だけではなく、その陰陽どちらも見ようとする。たしかにとても難しいけど、トライすることは無駄ではないと思う。
映画やニュースの「第一印象」で物事を判断するか、もう一歩踏み込んでみるか。それはあなた次第。
参考情報
この記事を書いた人
Neil(ニール)
ecbo (荷物預かりプラットフォーム) とプログリット (英語コーチング) でUI/UXデザイナーとしてインターン。現在はIT企業でデザイナー。 ハワイの高校。大学では法学を専攻。もともとはminiruとしてnoteを運営。
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