7. 諦めかけたラスベガス
ロスに翻弄されながら、ラスベガスを目指すドタバタ劇。
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大移動の開始
ロス3日目、旅としては12日目の朝。インド人のエアビーホストに別れを告げると、彼は「東京で仕事をすることもあるかもしれないから、そのときは連絡させてくれ」と暖かく送り出してくれた。どうやら製薬会社に勤務しているらしい。彼らのおかげで、ロス滞在はとても快適だった。今も元気だろうか?
さて、この日のメインイベントは「移動」だ。今日中に460キロ東方のラスベガスにたどり着かなければならない。その理由はカジノではなく、ベガスのさらに彼方にあるグランドキャニオンへのツアー参加。(出発は明朝6時。ちなみにベガスからグランドキャニオンも450キロほど離れている。)
大都市ロサンゼルスのダウンタウンを目指しバスに乗り込むが、車の動きが遅い。ロス名物の渋滞か?いや、自転車の集団だ。参加者を見るに、おそらくプロのレースというより運動不足解消のためだろう。
バスは迂回に迂回を重ね、みるみるグーグルマップの示すルートを外れていく。このままでは埒が明かない。僕たちは仕方なく、バス停から1キロ以上離れた場所で下車した。当初乗ろうとしたバスは厳しいが、なんとか次の便には間に合いそうだ。
殺気をくぐり抜けてバス停へ
せめてもの救いは快晴のダウンタウンを歩けたこと。ここを本拠地とする「ワイルド・スピード」のファミリーの一員になったようで、いくぶん気分はマシになった。
しかしダウンタウンのビル群を抜けると、すぐに次の試練が僕らを襲う。
本当に異様な光景が広がっていた。見渡す限り、歩道がホームレスの寝床に覆われている。日当たりが良いせいか、ホームレス特有の臭いはしない。だが出歩く人も車も少なく、ビシビシと殺気を感じる。「スキッド・ロウ (Skid Row)」というエリアらしい。
「ミスった…」本能は今すぐ逃げろと言う。しかし僕たちは笑ってしまうくらい楽観的だった。このエリアを通るのがバス停までの最短距離、という理由だけで前進していく。
今考えると無謀にも程がある。治安の悪い場所で、アジア人の若者が大きなスーツケースを転がしている。もちろん銃など持っていない。飛んで火に入る夏の虫とは、僕たちのことだった。
いざ歩いてみると、特に何も起こらない。「なんだ、大したことないな…」油断した瞬間、5メートルほど前を歩く二人組が目に入った。一人は金属のバールを握っている。ヤバい。もし彼らが振り返ったら、確実にやられる…親友と僕は顔を見合わせる。
息をひそめながら、間合いを保って歩く。すると二人組は程なくしてコンビニのドアを開けて入っていった。彼らが強盗でないことを祈りつつ、胸をなでおろした。
2023年、GoogleのAI「Bard」にこの場所について聞いてみた。
すべての観点でハイレベルな凶悪ゾーンということがわかる。
歩いた距離は1キロほどはあっただろう。僕たちが無事だったのは奇跡だ。
グレイハウンドの旅
やっとの思いでバス停に到着すると、すでに午後になっていた。アメリカでは知らない人はいない長距離バス「グレイハウンド (Greyhound)」のターミナルで、かなり大きい。
グレイハウンドは広大な国土に点在する都市間をつなぐバスのネットワークを持ち、運賃は良心的。大学生に限らず、バジェット・トラベラーにはありがたい存在だ。
たった25ドル=3000円あまりでロスからベガスに行ける。しかも空港に似たカウンターは、アメリカの公共交通機関とは思えないほど綺麗じゃないか。大荷物を運んでクタクタの二人は安堵した。
肝心の社内は、やはり狭い。それでも見渡す限りの大地を眺めると「アメリカに来た」ことを再認識できた。日本の深夜バスよりも少し窮屈だが、退屈とはほど遠かった。
夢の街、ラスベガス
5時間半のバス旅の末、僕と親友は夕闇のラスベガス (Las Vegas)に辿り着いた。「夢の街」という言葉がこれ以上ぴったりな場所を他に知らない。
どの建物も大きく、キラキラしている。カラフルなお土産やストリートパフォーマーが並び、訪れた全員を非日常空間に誘う。
この時、僕たちは夢よりもカロリーを欲していた。スロットではなく中華デリに直行し、チキンやチャーハン、そして焼きそばに食らいついた。
腹ごしらえが済んだら、いっちょ運試し…したいところだが、遊んでいる余裕は無い。グランドキャニオンへの出発は数時間後に迫っていた。
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