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民衆精神史の語り部 逝くを哀しむ
「君も僕と同じで、根はタシツセイだな」タシツセイ?多質性?他質性?……「湿っぽいの多湿性だよ、アッハッハ」と破顔一笑した色川さん。新聞で『色川大吉さん死去』との見出しを見たとき、端正にも厳めしくにも見えるお顔が急に崩れて、飛び出した笑い声がいきなり私の頭の中に鳴り響いた気がした。あの、ちっとも湿っぽくない笑顔とその時の大きな笑声は、もう何年も前のことなのに。
色川大吉さん。歴史学者、民衆精神史研
霧ヶ峰「ころぼっくる・ひゅって」の夜に
雨上がりの夜、静かな住宅街を歩いていたら、雨の名残りの重く感じる大気の中に、甘やかな香りが漂ってきた。住宅の庭や垣根に植えられたキンモクセイの花の香である。もういつのまにかにそんな季節になったのだ。
「書き留めよ 議論したことを 風の中に吹き散らすな」
という言葉をガリレオ・ガリレイが残したという。
議論したわけではないが、頭によぎった数々の想念を、ここ数カ月、私は何ら書き留めることなく、
━━〈ウグイス〉から始まる ① ━━ 〘師匠と弟子〗
思いがけずまたウグイスの声が聴けた。
緑道と呼ばれる道がある。元は小川や用水路だったのを暗渠にし、その上を遊歩道にしたものだが、その緑道を散歩していた時、「ホー ホケケキョ」と聞こえてきた。「ホー ホケキョ」の間違いではない。ホケケキョと確かに鳴いたのである。東京という大都会にもしたたかに生きるウグイスの、強く大きなさえずりだ。
世田谷区と三鷹市の住宅街を縫うようにして続くこの緑道は、同じ道を世田
スプリング・エフェメラル 妖精たち
強い風雨に加えて雷鳴さえ轟かせた昨日とはうって変わって、今日は雲一つなく晴れ渡り、冬を抜け出した明るい陽の光が眼にまぶしい。前日の残りの風が強く冷たいが、それがかえって早春の山里を思い起こさせた。
コロナ禍ばかりでなく、10日ばかり前に心臓の手術をして退院した私は、思うように外を出歩いたり、ましてや電車に乗って山懐への遠出するなど「もってのほか!」と医師や看護師より恐ろしい連れ合いさんが目
「図書館」から始まったわらしべ読書(1)
何かある言葉なり出来事なりを起点として、そこから次々と関連する言葉や事項・人物などが繋がり結びついていく、ということがある。関連付けていくと、連想ゲームのように思いもかけない方向へと言葉や出来事などが現れ出てくる。その面白さに、私はよくそういう遊びを作り出して楽しんだりしている。それは、知っていたつもりの事柄や人物について改めて調べたり関連する本を読んだりすることで、まったく新しく事物や人間
『小春日和』そして『老いること』
お昼前から空を覆いだした薄雲が次第にその厚さを増し、夕方には雨になるかもしれないような今日の天気である。昨日はあんなにも爽やかに晴れ上がった、小春日和のようであったのに・・・と書いたところで、ふいに私のパソコンを打つ手が止まってしまった。
小春日和という言葉、そして前日とはうって変わって雨の落ちそうなこの天気に、もうずいぶんと昔になってしまうが、同じような書き出しで始まった自分の文章がどこかに
活き活きした「悪態」は今どこへ・・・
前回と同じくまた道端で出会ったことだが、今度は小学生の口喧嘩である。
4,5年生であろうか、学校帰りの男の子が二人言い合っている。
「バーカ、バーカ」
「おまえこそバーカ」
「バーカ」
「バッカバカ!」
これで終わりである。さっさと一人は帰って行った。
残った子は少し遅れてそのまま同じ方向を口を尖らせながら歩いていく。
なんとも情けない喧嘩である。
言い合った言葉はただ「バカ」のひとつ。