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[TechGALA イベント参加レポート]イノベーションで描く豊かな食と農の未来
農業が抱える課題解決に向けて、地域を代表するスタートアップ各社の事業紹介を交えながら考察する。AIとロボット化で持続可能な農業を実現(トクイテン)、ゲノム編集で低環境負荷・高効率な種苗を開発(グランドグリーン)など各社の事業を進めるうえでのハードルや課題を探り、支援や協業のための視点についても提示する。
登壇者
豊吉 隆一郎
株式会社トクイテン 代表取締役
岐阜工業高等専門学校 電気工学科学を卒業。在学中にNHK高専ロボコン全国準優勝。卒業後、Webのシステム開発で独立。2011年に株式会社Misocaを設立。クラウド請求管理サービス「Misoca(ミソカ)」は20万事業者以上が登録するサービスに成長。その後、会社を売却、代表を退任。岡崎農業大学校 令和2年度 農業者育成支援研修 修了。残りの自分の人生を本当に解決が必要な課題に使いたいと決意し、2021年8月に株式会社トクイテンを共同創業、代表取締役に就任
丹羽 優喜
グランドグリーン株式会社 代表取締役
岐阜県出身。幼少の頃から研究開発により農業分野から価値を創造したいという思いを持ち、農業高校へ進学。現場に近い環境で専門知識を身につけ、京都大学農学部へと進学。博士号取得後、京都大学助教を経て、グランドグリーンの基盤となる技術と出会い、2016年に名古屋大学の研究プロジェクトに参画。創業の基盤となる特許技術の開発を行い、グランドグリーン株式会社を2017年に共同創業、代表取締役に就任。現在、グランドグリーンではトマトやイネを始めとした10種類以上の作物において、実用品種へのゲノム編集技術の適用に成功しており、2025年にはゲノム編集技術を使用した高糖度トマトを届出予定。
王 家元
東海東京証券株式会社 スタートアップ支援室
名古屋大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。中国出身、2016年9月より来日し、名古屋大学に入学。在学中にアントレプレナーシップ、ベンチャーキャピタルとマクロ経済の関係を中心に実証研究を行った。文科省主導のリーディング大学院プログラムに選抜され、海外スタートアップエコシステムの現地調査を複数回実施。2021年に監査法人トーマツに入社、上場企業向けの戦略コンサル業務に従事。2022年に博士後期課程を修了、東海東京証券に入社、投資銀行部門にて中部・関西地域のIPO支援、スタートアップ支援の企画・推進を行う。東海東京フィナンシャル・ホールディングスのスタートアップ支援戦略室も兼任。
林 雪彦
テレビ愛知 執行役員コンテンツ本部長兼報道制作局長
深刻な担い手不足や環境負荷の課題に直面する日本の農業。AIやロボット技術、ゲノム編集など、最先端技術を駆使して農業のイノベーションに挑むスタートアップ企業の取り組みから、持続可能な農業の可能性を探る。
日本農業が直面する構造的課題
日本の農業は今、大きな転換点を迎えている。農業従事者の高齢化と担い手不足は深刻さを増し、このままでは10年後には生産力が大幅に低下することが危惧されている。また、化学肥料や農薬への依存度が高い従来型の農業は、環境負荷の観点から持続可能性への懸念が指摘されている。
さらに、日本の食料自給率は主要先進国の中でも際立って低い水準にあり、食料安全保障の観点からも課題が山積している。こうした構造的な問題に対し、テクノロジーを活用した新たなアプローチで解決を目指す企業が台頭している。
スマート農業で切り拓く効率化への道
株式会社トクイテンの豊吉隆一郎代表は、AIとロボット技術を活用した革新的な農業の実現に取り組んでいる。同社が開発する自動収穫システムは、熟練農家の技術をデジタル化し、ロボットによる効率的な収穫を可能にする。
「農業における肉体労働は目的ではなく、おいしい作物を効率的に生産することが本質です」と豊吉氏は語る。同社の技術により、収穫作業の人的負担を大幅に軽減しながら、品質の安定化も実現している。
特筆すべきは、同社が運営する実証農場での成果だ。約2000平米の施設では、AIが作物の生育状態を常時モニタリングし、最適な環境制御を行っている。その結果、従来の栽培方法と比較して、作業効率を50%以上向上させることに成功している。
ゲノム編集がもたらす農業革新
グランドグリーン株式会社は、ゲノム編集技術を活用し、環境負荷の低減と生産性向上の両立を目指している。丹羽優喜代表は、大学発のスタートアップとして、アカデミアの知見を実用化へと橋渡しする役割を担う。
「従来の品種改良では5年から10年かかる開発期間を、ゲノム編集技術により1年程度まで短縮できます」と丹羽氏は説明する。この技術革新により、気候変動や病害への対応など、刻々と変化する農業現場のニーズに、より迅速に対応することが可能になってきた。
同社は既に10種類以上の作物でゲノム編集技術の実用化に成功しており、2025年には高糖度トマトの市場投入を予定している。ゲノム編集技術の活用により、化学肥料や農薬の使用量を抑えながら、収量や品質の向上を実現する新たな可能性が開けつつある。
新しい農業ビジネスモデルの可能性
技術革新は、農業の生産性向上だけでなく、新たなビジネスモデルの創出にもつながっている。トクイテン社では、ロボット収穫に適した作物の開発と、効率的な流通システムの構築を同時に進めている。
「例えば、トマトのヘタの形状一つとっても、ロボットでの収穫効率に大きく影響します。私たちは生産から流通まで一貫した視点で技術開発を行っています」と豊吉氏は語る。このアプローチにより、従来は廃棄されていた規格外品の有効活用も可能になってきた。
今後の展望と課題
両社に共通するのは、テクノロジーの導入自体が目的ではなく、持続可能な農業の実現という明確なビジョンを持っている点だ。しかし、新技術の社会実装には依然として課題も存在する。
特に重要なのは、消費者の理解と受容性の向上だ。「技術の安全性や有用性について、丁寧な説明と対話を続けていくことが不可欠です」と丹羽氏は強調する。
また、東海東京証券スタートアップ支援室の王家元氏は、「農業分野のスタートアップには、技術開発だけでなく、市場開拓や資金調達など、多面的なサポートが必要です」と指摘する。産学官の連携強化と、支援体制の充実が、イノベーション促進のカギを握っている。
日本の農業は、人口減少や環境問題など、様々な課題に直面している。しかし、テクノロジーの力を活用することで、これらの課題を克服し、新たな成長産業へと転換できる可能性を秘めている。スタートアップ企業による技術革新の取り組みは、その具体的な道筋を示している。
コラム:農業分野におけるスタートアップ支援の在り方
東海東京証券の王家元氏は、農業分野のスタートアップ支援について、「技術の革新性だけでなく、持続可能なビジネスモデルの構築が重要」と説く。特に、初期段階での実証実験支援や、事業会社とのマッチング機能の強化が、成長促進につながるという。
農業分野は、食の安全性や環境への配慮など、社会的な影響を考慮すべき要素が多い。そのため、支援側には技術評価に加えて、社会的価値の創出という視点も求められる。スタートアップのイノベーションを、いかに社会実装につなげていくか。金融機関の役割も、ますます重要になっていくだろう。
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