『ミリオンペタルバイクパーク』エフェクチュエーション理論から見る「趣味から事業化」への道のり
1月13日の日経新聞で紹介されていたこちらの事例が、とてもエフェクチュエーション的だなと思ったので、解説記事を書いてみました（記事作成に生成AIを使用しています）
エフェクチュエーションを学ぶエフェ会も開催しています。
エフェクチュエーションとは？
「今あるものから始める」—これはエフェクチュエーション理論の原則の一つです。サラス・サラスバシー教授が、熟達した起業家の思考パターンを研究する中で見出したこの理論は、従来のビジネス理論とは異なる起業の在り方を示しています。
通常、ビジネススクールでは「コーゼーション（因果的推論）」と呼ばれるアプローチを教えます。まず目標を設定し、市場調査を行い、緻密な事業計画を立て、必要な資源を集めて実行に移すという方法です。レストランを開業する例で言えば、市場調査でニーズを特定し、それに合わせてシェフやスタッフを雇い、資金を集め、店舗を構えるというプロセスを踏みます。
一方、エフェクチュエーションは逆のアプローチを取ります。「私は何を持っているか」「誰を知っているか」「何ができるか」という3つの問いから始まり、手持ちの資源や関係性から実現可能な目標を見出していきます。先のレストランの例で言えば、自分の料理の腕前、知り合いのネットワーク、使える資金などを出発点として、それらを組み合わせて実現可能なビジネスの形を模索します。あたかも、冷蔵庫にある材料から一品を作り出すシェフのように。
このアプローチには5つの原則があります。
バード・イン・ハンドの原則
いま手元にある資源（自分の強み・人脈・経験など）から始める。アフォーダブル・ロスの原則
失っても大丈夫な範囲（お金・時間）で行動する。クレイジーキルトの原則
多様なパートナーと組むことで、新たなリソースやアイデアを得る。レモネードの原則
偶発的な出来事やトラブルを前向きに活かす。パイロット・イン・ザ・プレーンの原則
未来は予測するものではなく、自分たちの行動によって創り出していくもの。
これらの原則は、不確実性の高い状況下での効果的な意思決定と行動の指針となります。
ミリオンペタルバイクパークの事例は、このエフェクチュエーションの考え方を体現しています。趣味として育んできた情熱、職場での経験、人とのつながりという手持ちの資源から始まり、パートナーシップを築きながら、徐々に事業の形を創り上げていきました。その過程を詳しく見ていくことで、現代における新しい事業創造の可能性が見えてきます。
事例の概要
静岡県森町で展開される「ミリオンペタルバイクパーク」は、趣味から始まり、副業を経て本業へと発展した革新的な事例です。町域の7割を森林が占めるこの地で、ヤマハ発動機社員の小倉幸太郎氏（50）は、遊休山林を活用した専用コースを運営しています。
小倉氏は大学時代、セミプロとしてスノーボードに没頭し、年間200日を雪山で過ごすほどの熱中ぶりでした。その経験を活かし、スノーモービルの開発・製造を手がけるヤマハ発動機に入社。設計職として7年間携わった後、新規事業部門でも経験を積みました。
転機となったのは趣味として始めたマウンテンバイクでした。コロナ禍での「3密」を避けられる娯楽として同僚らと楽しむ中で、ライダーの増加に伴う地域との軋轢という課題に直面します。この問題解決のため、社内で同好会を立ち上げ、30人のメンバーを集めました。
地域との信頼関係構築を重視し、森林組合や地元住民との対話を進めた結果、山林所有者から遊休地の活用を許可されました。週末を中心に仲間とコース整備を行い、1年かけて主要コースを完成。2022年、47歳で「ミリオンペタルバイクパーク」を開業し、運営会社の執行役員に就任しました。
現在は収益をパークへの再投資に充て、地域に根ざした持続可能な事業として育てています。さらに、この経験を活かした提案が社内の新規事業として採用され、趣味から副業、そして本業へとつながっていきました。「日本中をマウンテンバイクで走れるようにしたい」という構想は、遊休山林活用と地域活性化の新しいモデルケースとなる可能性を秘めています。
この事例のどこがエフェクチュエーション？
ここからは、小倉さんが「ライダー急増と地元住民のトラブル」という課題を知ってから、実際に山林を借りてバイクパークを作り、会社の新規事業へと成長させるまでを振り返ります。その道のりをエフェクチュエーションの5つの原則になぞらえながらポイント解説していきます。
ネガティブをチャンスに変えた「レモネードの原則」
該当エピソード
「ライダーが増え、地元住民とのトラブルが起きていると耳にした」
「自分もどこを走っていいかわからず、後ろめたさを感じていた」
普通なら「トラブルがあるならやめておこう」と考えてしまうかもしれません。しかし、小倉さんはこのネガティブな出来事をチャンスと捉え、「だったら安全に走れる場所を整えよう」「地元と手を組んでトラブルを防ごう」という発想に転換しました。これがエフェクチュエーションの4番目の原則である「レモネードの原則」です。思わぬ事態を前向きに活かし、新しい行動につなげたのです。
多様なパートナーを巻き込む「クレイジーキルトの原則」
該当エピソード
「地元の人たちと関係を築かないと」と考え、社内で同好会をつくり、30人の仲間が集まる森林組合や地元住民と顔合わせを重ね、専用コースを作るための信頼を獲得
小倉さんは「個人の肩書きだけでは信用されにくい」と考え、社内同好会を立ち上げました。さらに、森林組合や地元住民とじっくりコミュニケーションを取り、「遊休山林を活用してもらえるなら」というオファーを引き出します。こうした「自分たちが持っていない資源を、パートナーとの協働で補う」動きは、「クレイジーキルトの原則」の代表例です。
3-3. 失ってもよい範囲で始める「アフォーダブル・ロスの原則」
該当エピソード
平日は本業に専念し、週末にシャベルやツルハシでコースを整備1年かけて主要なコースを作り上げ、林野庁の補助事業も活用
趣味を仕事にする際に不安なのは「もし失敗したら…？」というリスクです。そこで小倉さんは、平日は本業に集中しながら週末だけコツコツとコースを造成。作業にかかる資金も少額の範囲に抑え、重機の導入は林野庁の補助事業を活用するなど、自腹のリスクをできるだけ軽減しました。これこそ、「アフォーダブル・ロスの原則」（無理なく損失を引き受けられる範囲でチャレンジする）の実践です。
3-4. 手元資源をフル活用する「バード・イン・ハンドの原則」
該当エピソード
社内デザイナーがパークのロゴや看板を作成同好会メンバーの経営知識を活かして、会社設立のアドバイスを受ける
小倉さんは、もともと持っているネットワークやスキルを徹底的に活かしました。社内デザイナーや経営知識を持つ同僚など、周囲にいる人材と協力し合うことで、ロゴや看板づくりからビジネスプランの策定まで実現。まさに「目の前にある資源を使いながら前に進む」という、エフェクチュエーションの第一原則である「バード・イン・ハンドの原則」が活きています。
3-5. 未来は自分で作る「パイロット・イン・ザ・プレーンの原則」
該当エピソード
「日本中をマウンテンバイクで走れるようにしたい」と全国の山林活用を構想副業での取り組みが社内の新規事業として認められ、本業へと拡大
小倉さんの最終的な目標は、「全国の山林をマウンテンバイクが駆け巡れる未来」を実現することです。まだマウンテンバイク市場が小さい日本でも、自分たちでルールや環境を整えれば大きな可能性を切り拓けると信じています。彼は、「未来は決まっているものではなく、行動しながら自分たちでデザインするもの」だと証明しています。これが「パイロット・イン・ザ・プレーンの原則」です。
おわりに：小さな一歩から、予測不能な未来を作り出す
小倉さんの事例は、趣味が副業、そして本業にまでつながった成功ストーリーとして輝いています。しかし、その舞台裏をエフェクチュエーションの視点で見ると、決して「最初から完璧に計画されたプロジェクト」ではありません。むしろ、偶然のトラブルをチャンスに変え、多様なパートナーを巻き込み、小さく始めながら少しずつスケールアップしていったのです。
こうした「やりながら考え、想定外の要素を味方につける」アプローチは、先行きが読みづらい時代にこそ威力を発揮します。ビジネスだけでなく、キャリア形成や地域課題の解決にも活かせる思考法として、エフェクチュエーションは多くの人にとって大きなヒントになるでしょう。
小倉さんのように、「自分が好きなこと」「手元にある資源」「周囲の仲間」といった身近な要素から始めてみる。まずは、小さな行動を起こすことが、予測できないほど大きな未来につながるかもしれません。
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