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声が聞こえる本。

本を読んでいると、
声が聞こえる。

文字を追っているときに
音読してくれるように声が頭に響く。

それは、とても心地良い声。
本から受けた印象を
そのままの声にしたような。

いつも同じ人ではないのに、
すごく心地いい。

声が聞こえたとき、
その本が大好きなのだとわかる。

本の内容も、その本を書いた人も、
大好きなんだって。


『家庭教室』も声が聞こえた一冊。

家庭教師のバイトをしている大学生が、
それぞれの思いを抱える生徒と出会い、
向き合いながら交流していく時間が
描かれている小説。

著者は、伊東歌詞太郎さん。
彼は、もともと作家ではなく、
狐のお面がトレードマークの
シンガーソングライター。

今年のはじま、
声帯の手術をうけた彼。
声が出せない1ヶ月間で書き上げた作品が
『家庭教室』。

声が出せなかったからこそ、
すべての想いを言葉として込めている。
そう感じさせる一冊。

彼自身の家庭教師の経験があり、
そこから大事にあたためていた物語も
小説にはいっている。

読んでいて、ふと思う。
小説の中の内容の
どこまで本当で、
どこからが小説なのか。

もしかして、すべて本当で。
ただプライバシーとか諸々のために、
小説ということにしたのではないか。

そう思ってしまうくらい、
小説に出てくる人物にも会話も風景にも
すべて体温があり、色があるように感じる。
映画でも見ているような。

シンガーという立場で
歌詞や曲を作り出してきた彼だからこその
表現や言葉選びが
惹きつけられる魅力のひとつ。

東京生まれ、東京育ちの彼らしく、
東京の描写も出てくるというのも
現実味を感じさせる。

この小説を読んでから、
色とりどりのドコモタワーを
よく見上げるようになった。

小説の中には、
鋭さも含まれている。

生徒や学校、勉強や受験と聞いただけで、
すぐに連想されるであろうこと。

たとえ小説だったとしても、
扱うのには、注意を払うだろう鋭さ。

まっすぐ向きあう姿は、
彼自身が何度も深く深く考えていたのだと
思わずにはいられない。

伊東歌詞太郎さんが書いたのだから
すごくすごく読みたいと思って
手にした初版本。

ボーカリストとしての彼の歌声も
ときに寄り添い
ときに手を引いてくれる
歌詞も大好きで。

生きている姿が尊敬できる彼の
考えていること、抱えている想いを
知りたいと思っていた。

読み終わってから、
ココロがとても軽くなるのを
感じるとは思わなかった。

学生時代を思い出すたびに
モヤモヤとした気持ちが
ゆっくりと溶けていくような。

成長と共に、
自分を納得させる言葉を集めて
言いきかせてきた何かが、
静かに崩れてくれた。

ひとつひとつの物語の終わりは、
柔らかいあたたかさがあった。
こんな優しく強さのある人に
わたしもなろうと思う。

伊東歌詞太郎さんの才能にまた嫉妬しつつ、
ありがとうを伝えに
彼に彼の歌声に会いに行きたい。

ベッドのそばで
眠りにつく前に読みたい。
そんな優しく力強い一冊。

この一冊に出会えて、
わたしはとてもとても嬉しいです。

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西谷 こまい
いつも読んでくださり、ありがとうございます♡

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