【台本】人間になりたい魔女と魔法の鏡【女2人男2人】
設定
【登場人物】
加賀美(かがみ):骨董品を扱う店『MIRA』の店主、男性。
未来(みく):書店で働く女性。
加古(かこ):同じく書店で働くの男性。未来とは同期。
ミラ:鏡の中で現れる不思議な人。銀髪美人。
【場面】
未来の部屋で物語がすすむ。
ミラは基本鏡の後ろか近くにしか出ることが出来ない。
※登場人物はミラには近づくことも触れることも基本出来ない。
※中盤のミラが包丁を持つシーンとラストのシーン以外はミラも鏡から離れることはできない。
【上演時間】
25分~30分ほど
【ジャンル・傾向】
ダークファンタジー・現代ファンタジー・恋愛・残酷なシーンあり
あらすじ
「鏡よ、鏡……」その声掛けに応えてくれる「女王の魔法の鏡」を怪しげな骨董品屋の店主、加賀美から渡された書店員の未来。
その鏡は持ち主の気持ちに寄り添ってくれるという。疑心暗鬼な未来だったが、試しに声をかけてみると銀髪のミラと名乗る女が鏡から現れた。初めは驚く未来だったが、寄り添い話をきくミラに心を許し始めた。
だがある言葉がきっかけで未来は苦しむことに。その様子を見たミラが鏡から抜け出て襲いかかる。その姿は過去にトラウマだった祖母の姿をしていて……。これは夢?現実?
過去に囚われた未来が明るい将来を見れるようになるまでの、少しダークな現代ファンタジー。
本編
●プロローグ●
未来の部屋に大きな鏡(枠)を設置し、綺麗に磨く加賀美。
その様子を見つめる未来。
しらばくして、加賀美が未来に説明書を渡す。
加賀美:「未来さま。本日は骨董品屋『MIRA』の商品『女王の魔法の鏡』をお選びいただき、ありがとうございます」
未来:「あ…はい…でもお店で見たときはあまり感じなかったのですが…。改めて家でみると一人暮らしの私の部屋なんかにはちょっと大きすぎたかもと思いますね」
加賀美:「そうですか?」
未来:「ほら、こんな小さなアパートの一室には浮いて見えるというか。
こういうのって豪邸とかの方が合うと思うんですよね」
加賀美:「そんなことっ!この鏡は未来さんを選んだんです」
未来:「鏡が選ぶって。加賀美さんの間違いじゃないですか?」
加賀美:「確かに私も『加賀美』で響きは一緒ですが、未来さんを選んだのは私ではなくこの鏡ですよ」
未来:「うーん。確かに呼ばれたような気はしたかもしれませんけど」
加賀美:「この鏡は魔法の鏡です。きっと未来さまの気持ちに寄り添ってくれるはずですよ」
未来:「はあ、鏡がですか」
加賀美:「夜にそっと語りかけてはどうです?「鏡よ。鏡」って」
未来:「まるで白雪姫に出てくる女王みたいですね。あ!それで「女王の魔法の鏡」ですか! 」
加賀美:「それはどうでしょうね」
未来:「あ!そうだ!お代!」
加賀美:「ああ。結構ですよ」
未来:「確かに値札はありませんでしたが、こんな高そうなもの…」
加賀美:「いえ、この鏡が未来さまを選んだのですから。それにお代はお金以外で受け取りますので」
未来:「え?お金以外?」
加賀美:「ああ。使用後の感想などを頂ければってことです」
未来:「ああ!お試し的な?」
加賀美:「そんな感じです」
未来:「そんなので良ければ、はい。ちゃんと感想をお伝えしますね」
加賀美:「また頃合いを見計らってお伺いしますので、その時によろしくお願いします」
加賀美、未来にお辞儀をし部屋を後にする。
第一幕 鏡のひみつ
未来、加賀美を見送った後に部屋に戻り、鏡を眺める。
未来:「寄り添う魔法の鏡ねえ。本当に答えてくれるのかな?
鏡よ、鏡。この世で一番がんばっているのに報われない人はだあれ?」
未来、しばらく鏡を見つめるが、何も起きない。
未来:「なにも起きないよね。やっぱりあの骨董屋に騙されているのかなあ。後ですっごい金額を請求されたりして」
未来が目を離した時、鏡の中にミラが現れる。
(鏡の後ろから現れるでも可)
ミラ:「一番頑張っているのに報われない人。それは未来、あなた」
未来:「うわああ!!」
ミラ:「あなたから声をかけてきたのに失礼しちゃうわ」
未来:「あ、ご、ごめんなさい」
ミラ:「冗談よ。最初に出会った人はみんなそう言うわ」
未来:「鏡の精とかです?すごく綺麗な方ですね」
ミラ:「ありがとう。私は鏡の精ではなく、ミラ。よろしく。」
未来:「ミラ。素敵な名前があるんですねぇ」
ミラ:「敬語はやめてよ。鏡なのよ。私はあなた」
未来:「え?」
ミラ:「私はね。『人の心を映し出す鏡、ミラ』なの」
未来:「えっと」
ミラ:「だから私はあなたであり、あなたの心の代弁者なの」
未来:「つまりあなたは私の心が読めるの?」
ミラ:「まあ、そうとも言えるわ」
未来:「あ…さっきの答え」
ミラ:「そう。あなたが言ってほしかった答え」
未来:「うわあ。恥ずかしい」
ミラ:「そんなことないわよ。報われなかった時、誰だって自分を慰めてほしいものよ」
未来:「でもそれを自分に言われたら痛いじゃない!」
ミラ:「確かに」
未来:「あー!ツラい!死にたい!」
ミラ:「本当に?」
未来:「そんな目で見ないで。冗談だし」
ミラ:「冗談?」
未来:「そうよ。冗談。深刻そうな顔しないでよ」
ミラ:「そう」
未来:「そんなに簡単に死にたいなんて普通の人は思わないよ」
ミラ:「今回は、そうね」
未来:「もう。やめてよ」
ミラ:「ねえ。『報われない』なんて言っていたけど、もしかしてお仕事のこと?」
未来:「そう!聞いて!私、書店で働いているんだけどね。ここずっとパートさんの失敗を押し付けられているの」
ミラ:「あら、大変ね」
未来:「このまえなんか、イベントのプレゼント用かな?図書カードの注文が大量にきたの。あるパートさんが電話で注文を受けてくれたんだけど
その枚数を聞き間違えてたし、よりによって店の在庫が足りないとか……。
もちろんお客さんめっちゃ怒るわけ。それを全部私が聞いて謝るの」
ミラ:「そのミスした人はいなかったの?」
未来:「その日、休みでさ。まあパートじゃ責任はないからさ。社員の私が謝るのが当然みたいな流れになって」
ミラ:「災難だったわね」
未来:「自分のミスは自分でなんとかしてほしいんだけどさ。私は社員だし仕方ないんだよ」
ミラ:「仕方なくなんてないわ。立場とかじゃなく、本来はミスしたし人も謝るべきなのに」
未来:「シフトだってかなりわがまま聞いてるし。パートさんは主婦が多いから休みを譲ることばっか」
ミラ:「そのうえ人間関係が複雑とか?」
未来:「まさにそれ。「あの人と同じ時間に入れないで」って言われたら断れないじゃん」
ミラ:「あなた話しを聞いてくれそうだもん」
未来:「うぅ。それが本当にツラい」
ミラ:「そんなに『優しく』しなければいいのに」
ミラの『優しい』を聞いたとき、未来は苦しそうに胸をおさえる。
未来:「私は、『優しい人間』なんかじゃ」
苦しそうにしている未来をじっと眺めるミラ。
その目線から逃げるように未来はミラに背を向ける。
未来が背を向けている間に、鏡が割れてミラが出てくる。
ミラの手には包丁が握られている。
未来:「(音を聞いて)…え?」
未来、後ろを振り返る。
包丁を持ったミラが未来に近づく。
未来:「…おばあちゃん?何をもっているの?…っ!?」
徐々に未来近づくミラ。
未来は怯えながらも、必死に逃げる。
未来(NA):「そう、それは過去にあった出来事と同じ。おばあちゃんが、私に包丁を持って脅したあの時と。あれは人間じゃない。魔女だ。逃げなきゃ、私は殺される!…あれ?でも…」
未来:「いや、違う…私は…私は…」
未来(NA):「そうだ。あれは鏡。…私自身だ。魔女である自分自身を許せない、生かしておけない私。私は、私に…殺され…」
ミラ、未来に包丁を突き付ける。
暗転(C・O)
第二幕 優しい人
目覚ましの音が鳴り響く。
布団(もしくはベッド)から寝ぼけたうめき声をあげる未来。
しばらくして、目覚ましを止める音。
明転(C・I)
未来、起きて自分の服装を見るとため息をつく。
未来:「やだ。服着替えずに寝ちゃったんだ。…て、あれ?今の夢?」
未来は自分の部屋を見渡す。
鏡を見ると慌てて鏡に近づく。
未来:「え?…鏡?割れていない?どこまでが、夢?」
未来が鏡に向かって声をかけようとしたが、突然チャイムが鳴る。
未来:「もぉ。こんな時にいったい誰?」
未来、部屋を出る。
しばらくして、加古と一緒に部屋に戻る。
加古は薬やらゼリー飲料などが入った袋を持っている。
未来:「加古くん、急に来るからビックリした」
加古:「いつも元気な未来さんに連絡がつかないって店長から聞いて」
未来:「あー。しまった。今日、早番だった」
加古:「遅刻もしたことないまじめな未来さんが無断欠勤なんて。心配するに決まっているだろ」
未来:「ごめん」
しばらく気まずそうにしていた未来だが、
加古が持ってきた物をみて思わず笑う。
未来:「その手土産なに?看病にでも来たのですか?」
加古:「敬語はやめろよ。同期だろ?」
未来:「でも来年度は新店舗の店長でしょ?」
加古:「だからって別に未来さんの上司になるわけじゃないし」
未来:「同じ店舗でなくても店長と平社員じゃ立場は違うよ」
加古:「違うものかなぁ」
未来:「違うよ。よっ!加古店長!」
加古:「からかうなって。…元気そうだな」
未来:「まあ、うん」
加古:「心配して損したなぁ」
未来:「加古くんは優しいね」
加古:「え?」
未来:「だってただの同期が心配で様子見にわざわざ来てくれたんでしょ?しかも休みの日に」
加古:「まあ、店長から電話で聞かれたからさ。俺に様子見てこいってことだろ?」
未来:「信頼されているってことじゃん」
加古:「そういうのじゃないよ」
未来:「羨ましいなぁ。私も昇進したいな」
加古:「でも、来年度からは別店舗だ」
未来:「少しは寂しくなるよね」
加古:「しかも新店舗は県外だし」
未来:「そっか。今みたいに簡単には会えなくなっちゃうね」
加古:「電話、するから」
未来:「えー?そんなに暇じゃないんだけど。まぁ、また困ったらいつでも連絡してくれていいよ」
加古:「優しいのは未来さんの方だよ。」
未来:「え?」
加古:「パートさんの悩みとか聞いてあげているし、ミスも許してあげる。
シフトだって融通きかせてあげているだろ。そのうえ同じくらい忙しいのに俺の悩みとかいつでも聞いてくれるじゃん。未来さんの方が『優しい』よ。」
第三幕 魔女の思い出
加古の『優しい』を聞いたとき、未来は苦しそうに胸をおさえる。
未来:「私は『優しい人間』なんかじゃないよ」
加古:「え?」
未来:「私は、『優しい人間』なんて、思われちゃいけないんだよ」
苦しそうな未来の様子に戸惑いながら、背中をさする加古。
しばらくして、落ち着いてきた未来が息を整えながら話す。
未来:「ごめんね。加古くん。急にビックリしたよね」
加古:「いったいどうしたの」
黙る未来を静かに見つめる加古。
しばらくして未来、深呼吸をする。
未来:「他の人には話したことないけど加古くんになら話してもいいかな。驚かないで聞いてね」
加古:「うん。」
未来:「普通はさ。『優しい』って言われたら嬉しい気持ちになるじゃない?私はならないの」
加古:「そう、なんだ」
未来:「不思議だよね」
加古:「なんで?」
未来:「私がまだ小さかったとき、たまたま台所に行ったらおばあちゃんが包丁持って立ってたの。どうも私が邪魔だったみたいでね。急に私に包丁の刃をを向けてきたの」
加古:「え!?刃を?それって、その…大丈夫だったのか?」
未来:「うん。刺されてはないよ。突きつけられただけ。おばあちゃんとしては冗談のつもりだったんだよ。笑ってたし」
加古:「冗談でも普通はしないだろ。怖かったよな」
未来:「そうだね。すごく驚いたし、怖かった」
加古:「なんで、おばあさんはそんなこと」
未来:「うちのおばあちゃん、私のことが嫌いだったのかも。何かあると『あんたの声はうるさい!近所迷惑だ!』とか『あんたは本当に我儘で困らせてばっかりだ!』とか言われてたし。私はあれからずっとおばあちゃんは人間じゃない。魔女なんだって思っていた」
加古:「魔女?」
未来:「うん。おとぎ話に出てくる。悪い魔女。私はその魔女の血が流れているんだなぁって思ってるの」
加古:「おばあさんが魔女だと思っているから?」
未来:「そう。だから私は普通の人間であるために人に優しくしようっていつも思っている。私は魔女じゃないって思うために優しくあろうとしている。」
加古:「…」
未来:「だけど人から「未来さんって優しい」って言われると魔女のくせに人間のふりしちゃったなあって自己嫌悪しちゃうんだ」
未来、ゆっくりと鏡に近づく。
未来:「『優しい』って言われるたびに胸の奥でさ、包丁で突き刺されたような痛みを感じるんだよ。オマエはそんなことを言われていい人間じゃないくせに。魔女の分際でって」
大事そうに鏡の枠を撫でる未来。
未来:「おばあちゃんが包丁をもって私を脅す夢をよく見るの。だけどよく見るとおばあちゃんは私自身で」
鏡を見つめる未来。
加古はその様子を呆然と眺めている。
未来:「この鏡が教えてくれたんだよ。私が怖いと思っていたのはおばあちゃんでも魔女でもない。私自身を魔女の私を殺そうとしている私なんだだって」
加古:「未来さん」
第四幕 加古の告白
加古は、鏡を見つめる未来を抱きしめる。
加古:「オレは未来さんに死んでほしくない」
未来:「え?」
加古:「オレは未来さんを悪い魔女だとは思わないし、仮に魔女だとしてもオレは生きていてほしい」
未来:「加古くん。だけど私は」
加古:「好きな人が自分を嫌いだなんて言ってたら悲しいだろ?」
未来:「え?加古くんが好きな人?」
加古:「言わなきゃわからないのかよ!オレは未来、おまえが好きなんだよ。」
未来:「へ?」
加古:「ああー!こんな早くにいうはずじゃ」
未来:「え、えっと…」
加古:「すぐに返事をしてくれとか!そういうことじゃないんだ!ただ、そんな自分が魔女だとか生きていちゃいけないとか思っていてほしくない」
未来:「でも、私は生きてちゃいけない」
加古:「どんなに未来がそう思ってもオレは生きていてほしい。出来たら未来が未来自身を好きでいてほしい」
未来:「でも私は魔女だから。きっとおばあちゃんみたいに、いつか加古くんのことも傷つけるよ」
加古:「もし仮に未来がオレを傷つけたとしてもオレは言い続ける。未来は魔女じゃない。それに」
未来:「それに?」
加古:「人間だから気付かないうちに誰かを傷つけるものだよ。オレも未来が『優しい』って言葉で傷ついているって気がつかず傷つけていた」
未来:「それは私の感覚がおかしいだけだよ」
加古:「だとしてもオレは傷つけていた。ごめん」
未来:「謝らないで。私がおかしいだけ。加古くんのしたことはおばあちゃんとは違う」
加古:「同じだよ。きっとこれからもオレは知らないうちに未来やいろんな人を傷つけることがあると思う。でもそれは人間だから」
未来:「…人間だから?」
加古:「魔女とか関係なく人間だから間違えるし、気付かず人を傷つけてしまうこともある。だから未来は無理して優しくあろうとしなくていい」
未来:「加古くん、ありがとう。私、自分を少しでも好きになれるように頑張るね」
加古:「そうだ。おばあさんとちゃんと話しをしてみようよ。その時の気持ちをちゃんと聞いてみよう。オレも一緒に会いに行くよ」
未来:「そう、だね。加古くんと一緒なら恐くない…気がする。…本当にありがとう。…ありがとう」
涙を流し、何度もお礼を言う未来。それを優しく慰める加古。
暗転(F・O)
●エピローグ●
鏡にはミラがいる。その鏡の横に佇む加賀美。
二人のの所のみピンスポットで明転。
(未来の部屋ではない場所にいるかのようにする)
加賀美:「おかえり。ミラ」
ミラ:「マスター、今回のシナリオはどうだったかしら」
加賀美:「過去の因縁に囚われる未来さん。そんな彼女を明るい未来(みらい)へ導こうとする加古さん。不思議な関係の二人だね。本当に面白かった」
ミラ:「本当に、そう思っているのかしら」
加賀美:「さすが『真実をゆがんで告げる悪魔の鏡』未来さんのおばあさんは本当は包丁なんて持っていなかった。小さな頃に未来さんが抱いていた疑惑の思いをゆがんで映し出すなんて。そんなキミには私の隠している思いもゆがんで見えてしまうからね」
ミラ:「『ゆがんで告げる』なんて失礼な。どんなに取り繕っても黒く汚れた思いや物がよりはっきりと見えるだけの魔法の鏡なのよ」
加賀美:「これ以上キミと会話をしていると食われてしまいそうだ」
ミラ:「食わせてくれる気もないくせに。それにあなたの目的は人間の真の醜い姿をみたいということ。そのために悪魔の主人(マスター)をやっているんだからどっちの方が怖いかしら」
加賀美:「なるほど、悪魔と人間のどちらが怖いのか。さて答えは…どうだろうね」
ミラ:「意地悪な人」
<幕>
※2023年『OUR FESTIVAL SHIZUOKA 2023』にて朗読劇として初演。
加筆修正版になります。
※有料公演での使用の場合はメールかDMにてご連絡をお願いします。
(無料の場合は任意です)