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【台本】記念日の奇跡は起こらない【4人劇】
設定
【登場人物】
・白猪 羊(しらい よう)
割と天然で可愛らしい女性。辰巳とは付き合って2年経つ。
付き合い始めた記念日の今日、プロポーズされるのではないかとソワソワしている。
卯月のことを「うーちゃん」とよぶ。卯月が時々もらすオタク用語はお仕事上の専門用語だと思っていつも聞き流している。
常に恋愛脳で、泰河と卯月が付き合っていると勘違いする。辰巳のことは「たっくん」とよんでいる。
・羽柴 辰巳(はしば たつみ)
羊の恋人。今回の旅行でプロポーズをしようと指輪を用意している。
一般教養のあるライトなオタクだが、そんな自分を受け入れてくれる優しい羊の人柄に惚れている。羊のことを「羊ちゃん」と呼んでいる。ツッコミ、苦労人属性。
・戌井 泰河(いぬい たいが)
卯月のアシスタント兼メンタルケアをしている。あまり感情の起伏はない。
卯月自身のことは変な人だと思っているが、作品やその仕事ぶりを尊敬しているので「先生」と呼んでいる。
卯月の作品がダメな時は容赦がないが、良い作品ができるためなら何でもしてくれる。なんやかんやで卯月には甘い。
本当は泰河もそうとう世間からズレているが、気付いてはいない。ボケ寄りのノリ属性。
・卯月 陸奥(うづき むつ)
羊の幼馴染。むしろ友だちは羊しかいない。
羊の前ではわりとまともな人のふりをしているが、基本陰キャでいろいろ拗らせている。でも、羊にはBL作家『むっつり眼鏡』であることは秘密。
しかも羊がド天然のおかげでオタク用語がうっかりでてもバレずに何とかすんでいる。成人向け作家の『黒ぬり牛若』さんを尊敬しており、新刊は欠かさずチェックしている。暴走系ボケ属性
※台本上では卯月は男性であるが女性でも可。その場合は一人称を「俺」から「私」に変更することも可。
【場面】
セットは屋外設定以外は同じような部屋の構造。机(テーブルやちゃぶ台)に椅子を使用。旅館の一室のイメージが湧けば簡易的で可。
【上演時間】
35分~45分ほど
【ジャンル・傾向】
コメディ・コント寄り・下ネタ多め・現代劇
あらすじ
付き合い始めて2年目の記念日に恋人の白猪羊にプロポーズを計画するが、自信のない羽柴辰巳。クールなアシスタントの戌井泰河に急かされつつ、〆切に追われるオタクでBL漫画家の卯月陸奥。
個性の強い奇人4人がカン違いとスレ違いを重ね、繰り広げられる喜劇ならぬ奇劇!?奇跡は起こるのではなく、起こすもの!ラストで、勇気をもらえる……かも。
記念日の奇跡は起こらない
―奇妙で奇抜な奇人たちの奇遇な出会いからはじまる珍奇な奇談―
●プロローグ●
<明転(C・I)>
旅館の前に泊まりの荷物を持って現れる白猪と辰巳。
白猪はかなり楽しそうにはしゃいでいる。その様子を辰巳は幸せそうに見守っている。
白猪:「すごーい!風情ある旅館だね!こんなとこ初めて!」
辰巳:「今日大事な記念日だからね。ちょっと奮発しちゃった」
白猪:「覚えてくれてたんだ。ありがと。たっくん」
辰巳:「あたりまえだよ。羊ちゃぁーん」
仲良く旅館の景観を楽しむ白猪と辰巳の横をカートを引きずり誰かを探す怪しい姿の卯月。
白猪:「あ!あれって…うーちゃん!!」
卯月:「え?あ!おふっ!えっと…もしかして羊?」
白猪:「うーちゃんもこの旅館泊まりに来たの?え?一人??」
卯月:「あ、えっと…まぁ、その…仕事でさぁ」
辰巳:「羊ちゃんどうしたの?この人、知り合い?」
白猪:「えへへ。幼馴染でこちらは卯月陸奥くん。あ!男の子だけど、友だちだから安心してね。私はうーちゃんって呼んでるよ」
辰巳:「へぇ、羊ちゃんの男友だちかぁ。初めまして。ボクは羽柴辰巳。羊ちゃんの彼氏です」
卯月:「…お…ど、どうも…」
白猪:「うーちゃんにやっと紹介できた!うーちゃん、私以外の誰とも会おうとしないんだから」
卯月:「それは…まぁ…」
急な白猪の登場で言葉に困る卯月。
そこに卯月を探して駆けつけてきた泰河。
卯月:「(泰河を見つけて)あ!」
泰河:「ああ、すみません!少し遅れました」
卯月:「泰河!おーそーい!こっちは待ちくたびれたっての!」
泰河:「約束のモノは持ってきました」
卯月:「ふふ…最高!愛してるぅっ!」
泰河:「てか、そちらもちゃんと準備しているんですか?」
卯月:「ああ、それに関してはその…ふふ。今夜は寝れると思うなよ」
辰巳:「なんか、あの二人すごい会話をしている気がする…」
白猪:「…もしかしてこの人…」
泰河:「ん?そちらの方は?」
卯月:「あ…えっとぉ…」
白猪:「はじめまして!うーちゃ…いや、卯月陸奥の友だちの白猪羊です。」
辰巳:「その羊ちゃんの彼氏の羽柴辰巳です」
泰河:「あ、ご丁寧にどうも。オレは戌井泰河です。よろしく」
白猪:「へー…戌井泰河くんかぁ。めっちゃいい子そう!」
卯月:「まあ、いいやつではあるな」
白猪:「そっか、うーちゃんに彼女が出来ないの何でかなって思っていたけど。もー!なんで教えてしてくれないの?」
卯月:「え?」
白猪:「もう、みずくさいなぁ!そういうことはちゃんと教えてほしいんだけど!」
卯月:「…!?ま、まさかバレて?」
白猪:「まぁ、せめて大きなイベントのときは呼んでほしいかな?」
卯月:「!!?そ、それはパンピーにはハードルが高いと思うんだけど!?」
白猪:「あはは。相変わらずうーちゃんは面白いよね」
辰巳:「パンピー?」
白猪:「うーちゃんは昔から私の知らない難しい言葉を使うんだぁ。頭いいんだよ!」
辰巳:「え…あ…そう」
白猪:「そうだ。あとで部屋の場所教えてよ。またゆっくり話そうね!じゃあね!」
卯月:「うん、じゃあ」
首をかしげる辰巳と楽しそうに話をしつつ白猪が旅館の中に入っていく。
それを複雑な顔で見送る卯月と驚いた様子の泰河。
泰河:「正直、驚きました」
卯月:「ん?何が?」
泰河:「先生にまともな、しかも女性の友人がいるなんて。」
卯月:「おい、泰河。おまえは俺をなんだと思っているんだね」
泰河:「コミュニケーションとれない系やばい陰キャオタク」
卯月:「ぶふぉ!言い返す言葉も見つからねぇ」
泰河:「オレがいなかったら印刷会社にも編集者さんにも会話ができないとかヤバいでしょ」
卯月:「コンビニの店員さんとの会話も出来れば避けたいでござる」
泰河:「今までどうやって生きてきたのか謎です」
卯月:「それより!おい、今のうちにアレをよこせ!」
泰河:「あー、ハイハイ。これですよね」
卯月:「いぃぃやっほぉぉぉ!黒ぬり牛若先生の新刊ゲットだぜ!!
愛してるぅぅ!!」
泰河:「言われた通りアニメショップ梯子して特典付を網羅してきました」
卯月:「ふへへ。今回のも表紙からエロ全開だぜ」
泰河:「それはいいんですが。先生、今回の冬コミ、新刊の状況は?」
卯月:「さきほど言った通り、今夜は寝れないと思ったほうがいいぜ」
泰河:「どこまで進んでるんです?」
卯月:「一度、ペン入れまで済ませたんだが…いまいち面白くなくて…」
泰河:「経過はこの際どうでもいいです。今現在の状況はどうなんです?」
卯月:「前の原稿を捨てたので白紙です」
泰河:「はぁ?全く何やっているんですか」
卯月:「仕方ねえだろ!山なし!オチなし!意味なし!やおいの語源もびっくりな本当に中身のないもんになっちまったんだよ!BLの神様が降りてこないんだよ!」
泰河:「ちなみに〆切いつですか?」
卯月:「早割りがきくのは明後日!まぁ、最悪一週間は待ってもらえるかなって感じ」
泰河:「ほんっとにギリギリじゃないですか」
卯月:「えへへ。ごめりんこ☆」
泰河:「こんなとこで話し込んでる場合じゃないですよ。とっとと部屋に籠って作業始めましょう」
卯月:「え?今のツッコミなし?そっちの方が傷つくんだけどぉ……」
急いで入っていく泰河。
卯月も文句を言いながらも続いて旅館に入っていく。
<暗転(C・O)>
第一幕 辰巳の決心
暗転中にちゃぶ台(テーブル)と座布団、辰巳と羊の荷物を用意する。
辰巳が座ったところで明転
<明転(C・I)>
一人で何やら真面目な顔の辰巳がいる。
辰巳:「今日で付き合い始めて2年目…。お互いの年齢を考えてもこのタイミングしかない」
辰巳ポケットから指輪の入った箱を取り出す。
辰巳:「ここはビシッと決めないと」
どうプロポーズをしようかイメージトレーニングをする辰巳。
勢いよく障子を開けて白猪が現れる。
白猪:「たっくん!ただいま!」
箱をポケットに慌ててしまう辰巳。
辰巳:「うわっ!?あれ、羊ちゃん?もうお風呂いってきたの?」
白猪:「違う違う!さっきね、うーちゃんたちに会ったんだよ。やっぱあの二人本当に仲良しなんだね」
辰巳:「卯月くんと泰河くんね。うん、まぁ仲良し…かぁ…」
白猪:「そうそう。『部屋に着いたら準備がある』とか言ってて忙しそうだったよ」
辰巳:「部屋で準備?」
白猪:「でも、なんの準備かな?」
辰巳:「準備、ねぇ…」
白猪:「あ!あと、『大浴場はちょっと…』とか、うーちゃんが言ってて『お部屋のお風呂を楽しみましょう』って、泰河くんが言ってた」
辰巳:「お風呂で楽しむ?」
白猪:「そうそう。二人の部屋の場所も聞いてきちゃった。大浴場挟んで私たちの部屋の反対側みたい」
辰巳:「へぇー。あの二人も結構いい部屋泊まるんだね」
白猪:「しかしたら、私たちみたいに何かの記念日なのかもね」
辰巳:「(首傾げながら)いやぁ、それは…うーん…どうだろうねぇ」
白猪:「たっくん、どうかしたの?」
辰巳:「いやっ!その、それより!羊ちゃん、お風呂どうするの?」
白猪:「あ!そうだった!行ってくるね!」
辰巳:「いってらっしゃーい」
浴衣をもって慌てて部屋を飛び出す白猪。
そんな白猪を笑顔で見送るもいなくなったのを確認して、指輪の入った箱を再び取り出す辰巳。
辰巳:「せっかくのプロポーズなんだしな。あまり気は乗らないが、あの二人にも協力して」
辰巳の言葉の途中で白猪が慌てて戻ってくる
白猪が戻ってくると同時に指輪を隠す辰巳。
白猪:「危ない危ないタオル忘れてた。あれ?たっくん、どうしたの?」
辰巳:「うぅーん、ボクもお風呂に行こうかなって思ってさぁ」
白猪:「あれ?今なんか持っていたよね?」
辰巳:「う、ううん!何も持ってないよ!」
白猪:「えー?絶対なんか隠したぁ」
辰巳:「うぅ…羊ちゃん、ごめんっっ!!」
ダッシュで部屋を飛び出す辰巳。
それをきょとんとして見送る白猪。
白猪:「んー?たっくん、変なのぉ」
<暗転(C・O)>
第二幕 カミングアウト!?
白猪が辰巳と白猪の荷物を持って捌け、卯月と泰河が部屋に入る。
その際に卯月の漫画セットがちゃぶ台の上に置かれるようにし、泰河と卯月の泊まりの荷物もセットする。
<明転(C・I)>
必死に原稿を描く卯月とその横で原稿チェックする泰河。
しばらくしてよやく書きあがり、 泰河に原稿を渡す卯月。
卯月:「どうだ!とりあえずネームは出来たぞ!」
泰河:「…そうですねぇ…」
泰河が褒めてくれるのを待つ卯月
そんな卯月を見て原稿を破る泰河。
泰河:「まあまあじゃないですか?」
卯月:「くっそぅっ!アシスタントのくせに容赦ねぇ!!」
泰河:「本当びっくりするくらい全然面白くないんですが、スランプですか?」
卯月:「だから言っただろう!BLの神様が降りてこないんだよ!!」
泰河:「とりあえず原稿が出来るまではこれは没収ですね」
卯月から漫画を取り上げ隠す泰河。
卯月:「ああ!!黒ぬり牛若先生の新刊があああ!」
泰河:「どう考えても読んでる場合じゃないでしょ」
卯月:「アシスタントのくせに…アシスタントのくせに…」
泰河:「読みたかったら頑張って面白もの書いてください」
卯月:「言ったな!おうよ!最高に面白くてスケベなBL描いてやるからな!」
泰河:「精々頑張ってください」
卯月:「うぉぉぉぉ!!」
何から全力でネームを書く卯月。
その横で平然とくつろぐ泰河。
泰河:「ところで、前から気になっていたんですが」
卯月:「ん?」
泰河:「先生のペンネームってなんで『むっつり眼鏡』なんですか?眼鏡かけてませんよね?」
卯月:「『もっこり伊豆半島』と悩んだけど本名の陸奥ともかかっているしエロ漫画家って感じがしていいだろ?」
泰河:「最初の名前にしなくて本当に良かったです」
卯月:「いやいや静岡って地元愛溢れているからさぁ、出身が静岡だって分かる名前にしていれば応援してもらえると思うんだよね」
泰河:「その名前だと嫌われる可能性の方が非常に高いと思いますけどね」
卯月:「えー?結構いけているネーミングセンスだと思うけどなぁ。『もっこり伊豆半島』(アドリブで何回か言う)」
泰河:「黙って原稿書いていただけますか?」
卯月:「泰河から聞いてきたくせにぃ」
卯月と泰河、BLの台詞を考えるためにそれっぽい台詞の会話している。
そんな中、勢いよく辰巳が入ってくる。
辰巳:「頼む!助けてくれ!!」
思わず抱き合う卯月と泰河。
卯月:「うぉぅっ!?」
泰河:「びっくりした」
二人の様子を見て勘違いする辰巳。
辰巳:「あー、もしかしてお邪魔でした?」
卯月・泰河:「はあ?」
辰巳:「自覚ないの!?『今夜は眠らせない』とか部屋で『準備』とか『お風呂で楽しむ』とか。あとさっきの会話!あきらかに二人デキてるでしょ!」
泰河:「(しばし考え)ああ、そっちの意味に聞き間違えてたと」
卯月:「羊の彼氏だからまともな陽キャパンピーかと思ったけど、羽柴さんってかなりのムッツリスケベでござるなぁ。ふひひ」
辰巳:「ムッツリ言うな!って、パンピーって卯月くん!絶対普通の人じゃないでしょ!」
卯月:「ぎくぅぅっ!!」
辰巳:「口で『ぎくっ』とか言っちゃうとこも、一般人じゃないからね!」
泰河:「流石、先生!お約束を貫いてくれる」
辰巳:「え?先生??」
泰河:「あー…勘違いしているみたいなので訂正しますけど、先生は漫画家でオレはそのアシスタントなんですよ」
辰巳と卯月、泰河の言葉の意味を少し考える。
辰巳:「えええええ!!?」
卯月:「うわあああ!!?」
卯月:「泰河のばかっ!なんで俺がBL漫画家だなんて言っちゃうんだよ!」
泰河:「そこまでは言ってませんけど?」
卯月:「え」
泰河:「オレは先生が漫画家だと言っただけです。なんで自分で言っちゃうんですか」
辰巳:「ちょっと待って情報量が多すぎてついていけてないんだけど……」
卯月:「(小声)ワンチャン今なら情報修正できる?」
泰河:「(小声)混乱に乗じてギャグ漫画家って修正しますか?」
辰巳:「この状況で修正できると思ってるの?無理でしょう」
卯月と泰河、目線を合わせる
泰河:「無理そうですね」
卯月:「うわああああああ!!!こんなところで俺の人生終わっちまうのかぁぁぁ!」
辰巳:「え!?待って!確かに男でBL描いているって恥ずかしいかもだけどそこまで!?」
泰河:「逆に今までバレてないと思って生きてきたのかと、驚きますよね」
卯月:「うわあああああ!!そうだよ!俺はなぁ…箱に詰められたみかんの中に混じった…腐った…腐った…ダイコンなんだよぉぉぉ!!」
辰巳:「むしろ気付かれないほうがおかしいだろ!」
泰河:「さすが、先生。みかん箱に収まらないダイナミックな存在感」
卯月:「しかも小学生男子が喜びそうな規格外な三つ又ダイコンなんだよぉぉぉ!」
辰巳:「なんで無理やり下ネタを混ぜ込んでくるの?」
泰河:「生きているだけで黒歴史と下ネタ…それでこそ先生です」
辰巳:「さっきから泰河くん、卯月くんのこと褒めているようでめっちゃ貶してない?」
泰河:「先生、元気を出してください。オレも先生の仲間ですから」
卯月:「…泰河っ!」
泰河:「オレもみかんに混ざる腐った…グレープフルーツですから」
辰巳:「卯月くん騙されないで。コイツさりげなく自分のランクをあげてますから」
泰河:「いいじゃないですか、グレープフルーツ。みかんごときに染まらないのがオレらしい」
辰巳:「自分に酔うな」
卯月:「ありがとう泰河。俺、腐ったダイコンでも頑張って生きる」
辰巳:「ダイコンはみかんに混ざらないでください」
泰河:「話もきれいにまとまったことですし。ここはサラっと忘れてくれないですかね?」
辰巳:「あまりに強烈すぎて記憶に完全に刻まれているんだけど。今の何一つきれいにまとまってないからね」
卯月:「せめて羊には!羊には黙ってて!」
辰巳:「確かに羊ちゃんも友だちが変な気持ち悪いオタクだなんて、知ったらショックだろうし」
卯月:「待って、俺って気持ち悪い方のオタクなの?」
泰河:「コミュニケーションとれない系やばい陰キャオタクの自覚はあってもそこは自覚なかったんですね」
卯月:「ええー!初対面の人にそう言われたらショックぅー」
辰巳:「今更なにを。て、それより二人にお願いしたいことが」
泰河:「なんですか?まさか身体でどうにかさせようって魂胆ですか?」
卯月:「いやぁーん!」
辰巳:「二人そろってなんでそっちの話に持っていこうとするんだよ!そうじゃなくて協力してほしいんだ」
卯月:「協力って、もしかして縛る系とか?」
泰河:「それともネトラレ系ですか?悪趣味っスね」
辰巳:「泰河くんも卯月くんと同じ腐ったダイコンだよ!じゃなくて!」
辰巳、ポケットから婚約指の入った箱を取り出す
辰巳:「二人に羊ちゃんへのプロポーズの協力をしてほしいんだ」
卯月・泰河:「はぁ!?」
第三幕 辰巳のプロポーズ大作戦
ちゃぶ台を囲み、座る辰巳、卯月、泰河。
辰巳:「改めて説明するね。実はボクたちは今日で付き合い始めて2年目なんだ」
泰河:「なるほど、その記念日にプロポーズをしたいと」
辰巳:「出来ることなら思い出に残るようなさいっこうのプロポーズにしたいんだ。だから二人にはフラッシュモブ的なあれをやってほしいんだよ」
泰河:「正気ですか?」
卯月:「え?フラッシュ…モブおじさん?」
辰巳:「モブおじさんはいらない」
卯月:「モブって、モブおじさん以外に何がいるんだよ?てか、え?輝くおじさん?…ってどこが?頭?それとも(股間と言いかけて)」
辰巳:「言わせないよ!」
泰河:「フラッシュモブっていうのは告白とかのイベントに一般人のふりをして一緒にお祝いしたりするパフォーマーのことです。ミュージカルみたいにやるアレですよ」
卯月:「ああ!いきなり踊ったり歌ったりするやつか」
辰巳:「そう!それ!」
卯月:「えー。アレ陽キャのイベントだろ。むーりー!パスー!チェンジー!」
辰巳:「そこを何とか!」
泰河:「そんなことをオレはともかく先生にお願いする時点で無茶ですよ」
辰巳:「分かってはいる。でもこんな気持ち悪いオタクにお願いしないといけないくらいに切羽詰まっているんだ。理解して!」
卯月:「おいコラ、頼む立場でありながら俺たちを馬鹿にするのか!」
泰河:「先生、失礼でしょ。気持ち悪いオタクにオレは含まれてません」
卯月:「ええ!?さっき仲間っていったじゃん。同じ腐ったダイコンって」
泰河:「いえ、オレは腐ってもグレープフルーツなので」
辰巳:「いや同じだよ。泰河くんも腐ったダイコンだよ」
泰河:「おいコラ、頼む立場でありながらグレープフルーツを馬鹿にするんですか!」
辰巳:「キレ方も同じとか面倒な二人だな。てか、どんだけグレープフルーツに誇り持ってんだよ。それにグレープフルーツを馬鹿になんかしてないし、泰河くんが勝手に言っているだけでしょ」
卯月:「泰河、失礼だろ。辰巳さんだって同じダイコンなのを隠しているんだけなんだぞ」
辰巳:「入れないで。仲間に入れないで。ボクはそっちの仲間じゃないから。え?てか卯月くんって、仲間だと思ったら名前で呼んじゃうタイプなんだ」
泰河:「先生は友だちいないせいで心の距離感バグっているんですよ。ここは1億歩ゆずって3人ともダイコンってことにして話を進めましょう」
辰巳:「認めたくない。けど、これ以上ややこしくしたくないから話は進めよう」
何かを思いつき、急にギャルっぽくふるまう卯月。
卯月:「てかさぁ、フラッシュモブって言われてもぉ、いまいちピンとこないよねー」
辰巳:「卯月くん、いきなりどうしたの?」
何かを察し、同じくギャル(ギャル男)っぽくふるまう泰河。
泰河:「そうなんっスよねぇー。まずはぁ、どんなプロポーズするのかぁ、知りたいっスよね」
辰巳:「え?泰河くんまで!?」
卯月:「ちょっとさぁ、うちの泰河を貸すからぁ、どんなプロポーズしようとしているか見せてくれない?」
辰巳:「は?」
泰河:「だーかーらー、先生はね、辰巳さんがどうプロポーズしようとしていたか見たいんですよ」
卯月:「泰河を羊だと思って、やってくれないかなぁ?」
辰巳:「意味がわからないのですが?」
卯月:「こっちはな!明後日までに原稿を仕上げたいんだ!時間がないのは一緒!そんな中で出来るだけネタになりそうなものが欲しいんだよ!」
泰河:「辰巳さんはプロポーズするためのキッカケが欲しい。そしてオレたちはBLのネタが欲しい。つまりWINWINの関係になろうと言うわけです。」
辰巳:「失う必要のない物までこっちは失うのでは?」
卯月:「つべこべ言うんじゃない。プロポーズの1回や2回、見せるだけならタダだろ」
辰巳:「泰河くんはいいの?それで?」
泰河:「こっちは先生の原稿のため、ギリギリまで脱がされた経験しているのでこれくらいどうってことないです」
辰巳:「断ろう!そういう仕事は断ろうよ!」
泰河:「先生は人間としては最悪ですが最高の作品を作るんで、協力は惜しまないです」
卯月:「泰河、ほーめーすーぎー」
辰巳:「今の発言どう考えても人間としての卯月くんは褒めてないよ」
卯月:「あー!いいから腹を括れよ!男だろ!それで羊を守れるというのか!」
辰巳:「うっ!」
卯月:「そんなちっちゃなことでウダウダいう男に羊を任せられないぞ!」
辰巳:「わかった!やればいいんだろ!」
泰河:「ちなみに辰巳さんと白猪さんはお互いをどう呼び合っているんです?」
辰巳:「それ聞く必要ある?」
泰河:「参考までに」
辰巳:「いやぁ恥ずかしいなぁ。えへへ。「たっくん」と「羊ちゃん」だよ」
卯月:「うわぁ、恥ずかしいとか言いながらさらりと言いやがってムカつくなあ。リア充爆破しろ」
辰巳:「卯月くん、本当に羊ちゃんの友だちなの?」
泰河:「なるほど、分かりました。やれます」
辰巳:「え?どうゆうこと?」
卯月:「説明しよう。泰河は俺がネタに詰まると毎回、漫画のキャラになりきっていい案を出してくれるんだ。今回も羊になりきりいいものを見せてくれるはずだ」
辰巳:「申し訳ないけど見た目も性別すらも羊ちゃんと全く違うからさすがに無理だと思うよ」
卯月:「うちの泰河を侮ってもらっちゃ困るよ。もうすでに羊になるために準備しているから」
辰巳:「準備って何?」
何やら準備をしている泰河。
(降臨させるような準備とか女装とか)
辰巳「(準備をしている泰河を見て)え。こわっ」
卯月のスマホが鳴る
卯月:「ああ!今からがいいところなのに」
泰河:「もしかして、印刷会社ですか?こっちは動画で録画しとくので早く出てください」
卯月:「できれば、コンビニ店員とも話したくないのに」
泰河:「最高のプロポーズシーンが見れなくていいなら代わりに出ますけど?」
すごく嫌そうな顔をするがしぶしぶ電話に出る卯月。
卯月:「…はい。…卯月…です」
電話で話しながら部屋を出る卯月。
そんな卯月を無視し動画をとるための準備を進める泰河。
その様子をいろいろ不安そうに見る辰巳。
第四幕 最低で最高のプロポーズ
泰河:「準備もできたのでやってみますか」
辰巳:「いやだから無理だって」
辰巳に催眠術をかける泰河。
急なことで辰巳もうっかり催眠にかかってしまう。
泰河:「たっくん、急に呼び出してどうしたの?」
辰巳:「…え?泰河くん?」
白猪のようにかわいく辰巳の言葉を待つ泰河。
辰巳には泰河が白猪に見えている。
辰巳:「え?あれ?ええ?おかしいな、なんとなく羊ちゃんに見えてきたような…?」
泰河:「たっくん、どうしたの?なんか変だよ?」
辰巳:「ああ!羊ちゃんっ!えっと…その…」
泰河:「うん?」
辰巳:「(深呼吸して)大事な話があるんだ」
泰河:「うん、なあに?」
辰巳:「えっと…」
泰河:「大丈夫。私、たっくんのこと待つよ」
辰巳が言葉に迷っている間に白猪と卯月が部屋に入ってくる
白猪:「たっくんの声がする。やっぱりうーちゃんたちの所にいたんだ」
卯月:「あ…ちょ…まま待って…」
指輪を出し、泰河にプロポーズをする辰巳。
それと同時に部屋に入る白猪。
辰巳:「ボクと結婚してください!」
白猪:「たっくん?」
白猪が現れたことにより催眠が解け、戸惑う辰巳。
辰巳:「え?あれ?羊ちゃん?」
白猪:「どういうこと?」
辰巳:「いや、その、え?なんで、羊ちゃんが??」
辰巳と白猪がまごついている間に泰河は卯月を部屋の隅に引っ張り込む。
辰巳と白猪には聞こえないように小声で相談する。
泰河:「先生、何やってんですか?」
卯月:「部屋の前で電話してたら羊が来て」
泰河:「止めてくださいよ」
卯月:「コンビニの店員とも話せない俺が電話しながら羊を止められると思うか?」
泰河:「(卯月の台詞食い気味で)不可能ですね」
卯月:「即答かよ」
白猪:「え?えっと…お風呂から戻っても、たっくんが部屋にいないから
もしかしたらと思って、うーちゃんの部屋に行ってみたらうーちゃんの彼氏になぜかプロポーズしているたっくんがいた」
泰河:「改めて状況説明を聞いてみてたら、とんでもない四角関係ですね」
辰巳:「泰河くん、この状況おもしろがっているだろ」
白猪:「たっくん…そんな…」
辰巳:「違う!羊ちゃん!違うんだ!」
白猪:「本当は男の人が良かったんだったら、ちゃんと言ってほしかった」
辰巳:「待って。羊ちゃん。その誤解だけは本当にやめてっ!」
白猪:「私はたっくんが好き。たっくんが幸せでいてくれるなら例えその隣にいるのが私でなくても…そう思いたいのに、やっぱりショックだよぉ」
辰巳:「だから、違うんだよ!」
泰河:「あれ?先生、どうしました?」
卯月:「コレだ」
白猪:「ん?先生?」
卯月:「ベーコンレタス(BL)の神様!どうもありがとう!」
急にちゃぶ台にむかいネームを書き始める卯月。
その様子にとまどう白猪。
白猪:「ベーコン?レタス?え?どういうこと?」
辰巳:「あー、えっと、なんというか。実は卯月くんと泰河くんは恋人同士ではなくてね」
泰河:「先生は漫画家でオレはそのアシスタントなんです」
白猪:「え?」
泰河:「ちなみにネタ探しのために今回は辰巳さんにプロポーズの練習をしてもらったんですよ」
白猪:「ええ?」
泰河:「そのプロポーズはオレじゃなくて別の方にする予定なんですよ」
辰巳:「ナイスフォロー!泰河くん!」
白猪:「えっと…つまり…」
辰巳:「そうだよ。羊ちゃん」
白猪:「うーちゃんはギャグ漫画を描いているってこと?」
辰巳:「そこなの?」
白猪:「そっか。びっくりした。たっくんもうーちゃんも泰河くんも好き同士ってわけじゃなかったんだね」
泰河:「さすが先生のご友人、世間からズレていますね」
辰巳:「腐ったダイコンが言うな」
卯月:「よしっ。おい、泰河。これでどうだ?」
出来上がったネームを自信満々に泰河に渡す卯月。
それを読む泰河。
泰河:「なるほど。三角関係の話ですか。はいはいはい。いつも以上に面白いですね」
卯月:「もっと褒めていいんだぞ」
白猪:「うーちゃんの漫画、私も読んでみたい」
卯月のネームを見に行こうとする白猪。
それを阻止しようとする泰河と卯月。
辰巳:「あー!それより羊ちゃんに渡したいものがあるんだ」
白猪:「うん?」
辰巳:「(深呼吸して)その大事なものなんだ」
白猪:「うん、なあに?」
辰巳:「えっと…」
白猪:「大丈夫。私、たっくんのこと待つよ」
指輪を出し、白猪にプロポーズをする辰巳。
辰巳:「ボクと結婚してください!」
泰河:「おぉ。すごいですね。オレがやったのとほぼ同じです」
卯月:「さすが観察力と演技の天才。後でちゃんと動画みせろよ」
辰巳:「外野は黙ってて」
白猪:「…たっくん!ありがとう…私、嬉しい」
辰巳:「羊ちゃん!」
白猪、辰巳抱き合う
思わず拍手をする泰河と卯月。
白猪:「えへへ。うーちゃんたちも結婚式に呼ぶからね」
卯月:「お、おう」
楽しそうにこれからのことを話しながら部屋を後にする白猪と辰巳。
その様子を見送る泰河と卯月。
●エピローグ●
卯月:「さて辰巳さんのプロポーズも上手くいったし、こっちも仕事が片付いた。泰河。そろそろ黒ぬり牛若先生の新刊返せよ」
泰河:「何を言っているんですか先生。出来たのはあくまでもネームだけ。ちゃんと原稿仕上げるまで寝かせませんよ」
卯月:「え?やーだー!黒ぬり牛若先生の新刊ーよーむー!」
泰河:「夜は長いですよ。お楽しみはこれからです」
卯月:「うわああん!このけだものぉっ!」
<暗転(F・O)>
【幕】
※2022年『浜松演劇フェスティバル2022 劇突オムニバス公演』にて初演。
そのときの加筆修正版になります。
※有料公演での使用の場合はメールかDMにてご連絡をお願いします。
(無料の場合は任意です)