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不治の病ふたたび
年明け、職場の倉庫は寒すぎた。
毎年のことだがかなりこたえる。
普通に4℃とか5℃しかない物流倉庫で働いている。
冷蔵用の倉庫ではない。普通の物流倉庫だ。
うちの倉庫は冷房はついているが暖房がない。
つまり、冬は毎日まぁまぁな極寒である。
繰り返しになるが、1日中4℃とか5℃だ。
貼るカイロは必需品で毎日背中と腰に貼っている。貼るカイロのみが私の命を繋ぐ唯一の道具である。私は自分の体だけをあたためる呪文がまだ修得できずにいる。うっかり使ってしまうと倉庫もろとも灰にしてしまうからだ。
ぬくぬくとした家で過ごした正月休み明け。
極寒の倉庫がツライ。
私はかじかむ手でパソコンの入力していた。
肩は寒さで上がり、常にカチカチである。
マフラーをぐるぐる巻きにしているので肩が凝る。ストレッチをしようと体をぐぃ〜んと伸ばしたとたん…
や・ば・い。
私はギックリ完全体になる一歩前、寸前のところで踏みとどまる。
ぐおおおおお…背中がぁぁ…
中身でちゃう…。
ギックリ腰やギックリ背中にもロキソニンは一定の効果があるのを知っているのでロッカーに取りに走る。
30分後、なんとか仕事できる程度に回復。
寒さはギックリの確率を底上げする。
そこから騙し騙しの生活が始まった。
思えば年末、年に数回襲ってくる例の不治の病を発症し、ペインクリニックで局所麻酔を打ってもらった。
どこかにヒポクテ草と魔鉱石さえあれば完全回復薬が作れるというのに未だ見つからない。ねこじゃらしと六甲の花こう岩では無理なのだ。
ギックリ背中の痛みを抱えたまま、義父の葬式があり、少なからずストレスもあり、なんだか脇腹が痛くなってきた。
え?脇腹って…おかしい…なんで?
このとき既にネガティブを発動していることに気づかず…思考がどんどんマイナスになっていく。
これって、これって…重大な病気かもしれない!
脇腹が痛いなんて、帯状疱疹?
肋間神経痛?場所は子宮?
いや、人体図鑑によるとすい臓かもしれない。
え?どうしよう。
ガチで悩んで検索が止まらない。
えー、どうしよう、どうしよう。
きっと重大な病気だ。
また私のアタマは不治の病でネガティブが爆発していた。ネガティブと妄想のコラボは最強だ。
おかしい。下腹部痛なのか脇腹なのか、わからない。場所を特定できないのだ。
ネットで内臓の画像を検索するも、
AIの病気検索ユビーで手かがりを探すも、どうも的を得ない回答である。
そして日曜出勤の本日、いよいよこれは早退レベルか?と浅い呼吸で脇腹を押さえながらトイレに行くと。
はぁ?…ま・た・お・ま・え・か!!
数カ月ぶりの不正出血であった。
油断していた。私は更年期障害を和らげるためホルモン補充療法をしており、ここんとこ血を見ることなく順調だったのだ。
この数カ月は出血の気配がなかった。だから下腹部痛の正体がわからなかった。
体調不良の理由がわかったとたん元の思考に戻る。なーんだ、そうだったのか。
私が不治の病なわけないじゃん。
だがしかし、ようやく葬式も済んで子どもたちもそれぞれ散っていき、夫はそろそろ…たぶん…いわゆる…やる気マンマンである。
いや、別にそう言われたわけではないがなんとなくそう感じるのだ。結婚30年の勘とでも言おう。
まだ夫は私の体調に気づかない。
いや、いつも体調不良には気づいてもらえないのだ。30年経ってもだ。
これは先制攻撃に限る。お風呂から出てきたホカホカの肉まん…いや、夫に向かって
私は無味乾燥な感じでYouTubeの「やってみた」ばりに
「血ぃでた」
と言ってみた。夫は不意打ちを食らいかなりのダメージを受けたようだ。
「なんで?」とへの字口になった。
知らんがな…私が聞きたいわ。
夫のやる気がみるみる萎んでいく。
かわいそうに。男とは哀れな生き物だ。
夫は諦めが悪い。私に接触を試みるが
うっとおしいので「ペトリフィカストタルス」を唱えておいた。
ゴロンと石の塊になった夫が転がっている。
しばらく石になって倒れておれ。
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ペトリフィカストタルスは
ハリー・ポッターから。懐かしいでしょ。