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埼玉-香川 日帰り美術館旅

育休から復帰して間もない頃、テレビで中園孔ニという人を知った。

高校生の時に絵を描くことに突然目覚め、東京芸大に現役で入学して、在学中からその界隈で注目を集めて、やがて瀬戸内海に面した場所で創作活動をするようになって、25歳で海で亡くなった。

彼の個展が丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催されているという(2023年当時)。居ても立っても居られなくなった。でもどうしよう。

子どもができるまでは、時々突然フラッと旅にでたりしていた。金曜日に会社でランチをしていて、ふと思い立ってその夜に奈良に向かったり。会議がひとつもない日が翌週にあるとわかって、いそいそと有給申請を出して京都に日帰りで出かけたり。

今回は四国でちょっと遠いし、なにせ息子は0歳10ヶ月。連れていく?美術館デビューはすでにさせていたけれど、騒いでしまってこちらは鑑賞どころじゃなかったし。丸亀でベビーシッターさんを探す?自宅でもシッターさんを利用したことがないから、現実味がわかない。それにまだひとりで歩くことができないし、食事も離乳食だから、ベビーカーも荷物もてんこ盛り。それなりに準備がいるけれど、そういう旅にしたいわけではない。

散々迷って、実家の父にお願いすることにした。当時すでに保育園に通っていて、お迎えを時々頼んでいたし、私の体調不良の時に預かってもらったりもしていた。けれど今回は完全に私の趣味的理由なわけで、頼むのにはかなりソワソワした。「どうしても見に行きたい展覧会が四国である。日帰りでいってくるから、その日は息子を面倒みてほしい」。父は内心「えっ」と思っていそうな顔をしつつも了解してくれた。

当日、朝5時台の電車に乗って東京駅へ。窓から見える田んぼには稲穂が実り、朝陽に照らされて黄金色に輝いていた。それを見た時点ですでに胸いっぱいに。これは幸先いいぞ。東京駅で朝ごはんを買い込み、予約した7時台の新幹線をサンドイッチを食べながら待っていた。

突如どうしようもなく幸せな気持ちが溢れてきた。自分だけの時間。好きなものに会いにいくという状況。あれこれと買い込んだおいしいもの。なんて幸せなんだろう。世界がキラキラして見えた。

その後、新幹線で岡山に向かい、乗り換えて在来線特急で丸亀市に。美術館でまったり過ごし、彼の作品そのものよりも彼の言葉に胸を突かれ、来館者ノートの書き込みの、私と同じようにテレビで彼を知って遠方からやってきた人が何人もいることにニマニマし、フワフワした足取りで美術館併設のレストランに2度も入り、食事やスイーツを満喫して、丸亀市内を少し散策した後、夕方の特急で来た道を帰った。家に着いたのは23時頃で、息子と父が仲良く並んで寝ていた。

この投稿企画を見た時に、弾丸で四国にいったことを思い出し、書き進めるうちに鮮明に記憶が呼び起こされて、あの日の気持ちが時系列で蘇ってきた。

あの旅のピークは朝の東京駅だったのだ。

*冒頭の画像は個展で紹介されていたものです。

#忘れられない旅

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