【歩み寄る独裁者:5】米朝首脳会談ふたたび 要求ばかり突きつける米 北はより戦略的に
いったい何のための会談だったのか。
前回の会談は、批難の応酬を繰り広げていた米朝の首脳が史上初めて顔を合わせたことに意義があった。
しかし、今回は違う。
停滞感強まる朝鮮半島の完全非核化を少しでも前進させなければならなかった。
それなのに、会談前の事務方どうしの協議もほとんど行われない準備不足のまま会談が挙行されてしまった。
この準備不足は、北朝鮮をより戦略的にさせる余地を与えてしまった。
北朝鮮は、核兵器を製造することのできる施設の完全廃棄を実施することで米からの経済制裁の全面解除を引き出すねらいがあった。
だが、核製造施設の廃棄が完全非核化につながるとはいえない。
なぜなら、北朝鮮はすでに製造・保有している核兵器をすべて廃棄したとは宣言していないのだ。
つまり「核兵器はこれから先はつくらないし、実験もしないがすでに保有している核兵器については持たせてくれ」というメッセージだ。
これでは相手の欠陥を見抜く能力に長けるトランプ大統領相手に通用するはずがない。
実際に、今回の会談では非核化に向けた合意はいっさいなされなかった。
そしてここから透けて見えてくるのは、純粋な核兵器廃絶や非核化を目指すというよりも、米からの大きな譲歩を引き出すため、外交カードを一枚また一枚と慎重に切り続ける金正恩氏の戦略性だ。
米側もそれらの戦略に気付いてはいる。だからこそ安易な妥協をしなかったというのが実際のところではないだろうか。
今後の非核化に向けた動きはこのままの停滞が続く公算が高い。
両首脳が互いに手を取り合い、にこやかに議論を交わしたにもかかわらず合意に至らなかったからだ。
ここには、要求ばかりで自国の核兵器廃絶という課題を棚に上げる米の傲慢さが背景にあるのではないかと思われる。
北朝鮮に核兵器廃絶を要求するなら、米国自身も核兵器廃絶に前向きでなければならない。
にも関わらず、米は対露を意識するあまり核廃絶に後ろ向きになっている現実がある。
そのような現状にありながら他国に核廃絶をせまっても説得力をもつはずがない。
それに、同じ核保有国であるインドとパキスタンが首脳会談の前日に交戦状態に入った。
米側も北朝鮮と歩調を合わせて核廃絶を訴える絶好の場ではなかったか。
自国第一主義に陥る米国には、大国としての責任感がまるでみられない。
米朝の融和を朝鮮半島の完全非核化だけにとどまらせてはならない。
これを全世界を巻き込んだ核廃絶への一歩とするべきだ。
それには何よりも日本の存在が欠かせない。
米国に有史以来初めて核兵器を投下され、筆舌に尽くせぬ惨禍を経験した日本をおいて、どこに核廃絶の先頭に立てる国があるだろうか。
しかし、日本政府から繰り返されるのは「政府は米国の姿勢を全面的に支持する」ということばだけ……。了