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サムライロード、にぎやかなり〜旧中山道中津川宿、馬籠宿、妻籠宿
前回は中津川市加子母の芝居小屋を見学させてもらい、大いに感動し、この旅もこれで充分かな、と思った話でした。
であればあとは帰るのみ。退屈な高速道路は避けて、紅葉を見ながら旧中山道沿いに、馬籠宿、妻籠宿など、かつての姿を今に止める宿場町を見ながら帰ろう、という計画。
で、宿泊していた中津川も旧中山道の宿場町であり、その面影を少し残していた通りもあったので、まずはそこの話から始めます。
旅先で酒蔵を発見するヨロコビについて。
クルマで中津川市内に入り、カーナビが「そろそろ到着」を知られる頃、細い道が何度かクランク状に曲がる。これは「枡形」だな。宿場町を通る街道の両端をクランク状に曲げておき、有事の際には敵を迎え撃つという防御の仕組み。天下泰平の今は「宿場町に入りました」というサインのひとつになっている。
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程なく予約しておいたホテルに到着、このホテルがとてもユニークなホテルなんだけど、その話は後ほど。
チェックインを済ませ、さっきクルマから見た古い街並みを見に戻ると、なぁるほど。ここには歴史のありそうな和菓子屋さんが多く、いずれも「栗きんとん」のシーズン到来を告げている。ここは栗の街でもあるのだ。
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というふうに、短い道ながらも古い街並みを散策していると、やや大きめの酒屋をみつけた。この街について何のインフォメーションも無かったので、美味しい居酒屋でも紹介してもらおうかと踏み込んでみたところ、あらまぁ、ものすごい品揃え。日本酒だけではなく、焼酎も充実している。
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しばらく店内を歩いていると、何と、隅の方に角打ちまであるではないか!
さっそく、3杯飲み比べ500円のコースを試してみた。せっかく来たのだから、知らないお酒にしてもらおう。すると、いずれも地元、東濃地域の日本酒が並ぶ。
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「この『恵那山』は特にいいですね。しっかりと米の味がして」
などと利いた風なことを言ったら、
「その蔵、そこの角を曲がるとありますよ。まだ開いていると思うので、覗きに行ってはどうですか?」
とのこと。この店で買いなさい、とは言わない親切に驚き、急いで店を出て、角を曲がると、たしかにありました。
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「旧街道、いいじゃないか!」と、松重豊さん風にうなってしまった。こんな感じで、中山道をずっと上って行けたら、どんなに楽しいだろう。
初体験、土足禁止のホテル。
さてと、いったん宿に戻ろう。
ここは事前に予約しておいたホテルなのだけど、ここも旧中山道に面していたとは知らなかった。そして前述の通り、ここは土足禁止のホテルなのです。旅館でもスリッパくらいは履くのに、お客さんが裸足で廊下を歩いているホテルってどんなのだろう? という、好奇心から予約したのでした。
なお、ステマだと思われては悔しいので詳細は説明しませんが、入り口の写真を貼っておきますので、興味のある方は検索してください。
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チェックインしてから靴を脱ぐのかと思っていたら、何と、入り口を入って、靴を脱いでからチェックイン。しかもキャリーバッグのゴロゴロも、入り口で拭いてから入るという念の入れよう。
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木曽の檜をふんだんに使った一階。経営は地元の林業系の企業なのだという。靴を脱ぐ理由は「檜の感触を楽しんでいただきたいから」とのこと。なるほど。
部屋には浴衣や靴下が用意されている。僕は旅先には、いつも厚手の靴下を持って行くので問題なし。必要なお客さんには使い捨てスリッパの用意もある。
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これが過ごし良いのか過ごしにくいのか、珍しさのため判断はつかないまま夜を迎える。そして何より、いちばん驚いたことは、お客さんのほとんどが外国人観光客だということ。オープンして間もなく、しかも裸足で過ごすホテルなのに、外国人でほぼ満室。もしかすると口コミで広がったのかもしれない。
外国人観光客には旧中山道が人気で、「サムライロード」と呼んでいる人たちもいる。たしかにこの沿道には、江戸の名残を残す宿場町が多いからなのでしょう。僕も去年の秋、コロナが明けたばかりの奈良井宿に行ったのだけど、すでに外国人観光客で埋め尽くされていましたっけ。
特に馬籠宿と妻籠宿を繋ぐ峠越えの山道が人気のようで、山歩きの格好をしている人たちも目立つ。外国人観光客って、何に反応するかわからないから本当におもしろいですね。
ちなみに、お客さんの半分は欧米系。3割はアジア系。2割が日本人という感じです。料金はビジネスホテル並みなので、そういう日本人客もちらほら。
それでは長い帰り道、まずは馬籠宿へ。
普段は地元の喫茶店で朝食を取る僕ではありますが、こういうホテルの朝食ってどんなだろう、という興味から、朝食付きで泊まりました(ちなみにこのホテルでは夕食が取れません。それぞれが街に出たりテイクアウトを買って来たり)。いわゆるバイキング形式の、ガヤガヤとした朝食になるわけですが、メニューには地元食材が多く使われ、決してありふれたものではありません。五平餅もあったし。外国人の皆さんも、お米の食事を楽しんでおられるようで、何より。
ホテルのチェックアウト時間は11時。10時じゃないのがありがたい。この一時間の差は大きいですよね。とは言え、今日はあちこち寄り道しながら神奈川県まで帰る予定なので、少し早めにチェックアウトしました。
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宿場町の入り口、と言うか、坂の下には広い駐車場があり、観光バスがバンバンやって来ます。そのつど大勢の観光客がはき出され、この狭い坂道は人で溢れる。バスでやって来るのはアジア系か日本人の団体客ですね。
沿道には蕎麦屋や軽食の店も多いので、食べ歩きが好きな人にはいいかもしれない。ただ、こういうふうに無目的に混雑の中を歩くことが苦手な僕は、さっさとクルマに戻り、早めに妻籠宿を目指しました。ホントは歩きたいんだけどね。山道を8km歩くのはいいけれど、またクルマまで戻らなくてはならない。合計16km。巡回バスでもあればいいんだけど。
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クルマでは、峠越えのワインディングロードを約10数キロ。しかし時おり、こんな山の中の道を歩いている人や横断する人がいる。そうか、旧街道は、このワインディングを串刺しにするようなカタチで引かれていたんだな。歩いている人の中には、遠足と思しき小学生たちがいて、ハイキングが趣味と思われる老夫婦がいて、そして何より目立つ、欧米系の外国人観光客がいる。
途中には峠の茶屋があり、昔から残る石畳があり、滝もあるらしい。どこかにクルマを停めて見に行きたいけれど、手頃な駐車スペースが無いのであきらめる。
こんなに素敵な道は、クルマじゃなくて歩いて踏破したいものです。
妻籠宿の『文化文政風俗絵巻之行列』。自然な演出がオミゴト!
そして間もなく辿り着いた妻籠宿。ここにも広い駐車場がある。しかも何カ所もあり、いずれも満車に近い。実はこの日、事前に調べておいたのだけど、妻籠宿では『文化文政風俗絵巻之行列』というイベントが行われる。
川沿いの道を歩いていたら、何やらメインストリートの「寺下通」の方から和楽器の音が聞こえてくる。急いで向かってみると、そこでは何と、かつての花嫁行列が再現されており、ちょうど終わるところだった。
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「次回のパレードは午後2時から」のアナウンス。『文化文政風俗絵巻之行列』も2時からなので、それも同時に行われるのでしょう。それまでには帰らなくてはならないかな、と思いながら寺下の通りに踏み込んでみると、なんだか通りがざわついている。
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なるほど。行列に参加する地元の有志の人が、そのまま江戸末期の格好で、街で普通に過ごしているのだ。中には地元の子どもたちも参加している。この寺下通は道路が舗装されている以外、ほぼ江戸末期の街並みが保存されているので、何も演出を加えない方が、かえってリアルに思える。
演ずる地元の人も、気が向いたら出てくるという感じで、いつどこにどんな人が現れるのかわからない。不意に現れたり、縁側でご飯を食べたら消えたり、さっき薪を運んでいた人が蕎麦屋で飲んでいたりする。だから観光客は気が抜けないという劇場型観光。それにしても、皆さん役者ですな。
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こうして「寺下通」を見て回っている間に、もう2時間近く経った。行列が始まるのは午後2時かぁ。あと30分ほど。
とは言え、最後まで見て行くと、確実に帰りの渋滞にぶつかってしまう。やはりあきらめるべきか。もう充分に妻籠宿の楽しさと、それを支える人たちの熱意は伝わった。その行列は次回のお楽しみに残しておこうか。
ということで、行列開始の花火を音を聞きながら、僕は駐車場に戻り、帰路についた。この旅は楽しすぎました。これ以上望むのは、もはや贅沢というものです。
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なお、町並みの保存について書かれた、妻籠宿の公式ウェブサイトを貼っておきます。高度経済成長期ど真ん中の昭和40年代に、「売らない、貸さない、壊さない」という、妻籠宿の住民の合意があったことにシビれます。
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またまた長い投稿になってしまいました。最後まで読んでくれた方がいるならば、どうもありがとうございました。