5弦ベースにまつわる願望の現況

6月の終わり頃にドイツ・サドウスキーのリミテッドモデルが理想的なネックシェイプだったことを書きました。これはブリッジピックアップにミュージックマン型のHBを積んだことによる影響で18mmピッチの5弦用ブリッジが、サドウスキーブランドのカスタムオーダー外としては異例に採用され、なおかつナット幅45mmで作られてきたワーウィックの実績が生かされる形で初の細ネックが実現したものです。

たぶん50歳が境目だったかと記憶しますが、当時はまだ日々演奏の仕事に追われていた頃で、5弦はメインでしたが19mmブリッジの楽器で左手のミスタッチを意識し始めました。それを私自身は安易に加齢が原因と信じました。ということは非可逆的な傾向というわけです。以来、18mmピッチの細ネックを指向するようになりました。

大ざっぱに言うなら、2000年代はケンスミスを弾いており、2010年代はアレバコッポロを弾いていた前者は、むしろ弦間が狭いことを弾きづらく感じ、後者は蜜月が長かったものの、老いて弾きこなせなくなったと観察しております。というわけで、まだ持っていたならケンスミスに持ち替えて平和だったような気がしますが、とっくに手許へ残してはおりません。時折出てくる中古楽器は、すでに手の出せない高騰ぶりはご承知の通り。

19mmピッチで2019年前半まで使っていたのはNYCサドでしたが、ついに手放して使い始めたのがクルーズの5弦でした。1990年代の設計のためネックが細く、それが気に入った最大の理由です。19年秋からメインにしたけれど半年もしないうちにコロナ禍へ入り、失職寸前まで追い込まれた状況では著しく出番が減りました。

昨年の秋、社会が前向きに回復を試み始めた頃、ある演奏機会でクルーズを持っていったところ、演目の一部にローB弦を多用するものがあり、初めて、その楽器へ不満を覚えました。そこで、所有履歴の中の初というわけではありませんが、34インチより長いスケールを顧みてはどうかと思い立ちます。

当初Sugiに気に入るものが見つかりましたが35インチに手を出すのをためらい、34.5インチのドラゴンフライを選びました。思っていた以上に完成度が高く、申し分ない音質の良さを備えていました。気に入っているのは間違いないのですが、仕事の現場で長時間使うと、やはりエクストラロングスケールが効いてきて疲労度が高い。ネックの太さも気になります。次第に短いセッションでしか使う気が起きなくなりました。やはり音楽の内容に沿う楽器選びをするべきだなと感じます。

普通の仕事なら、まだクルーズで行けばいいので、ここで新しい楽器を模索する必然性はありません。しかし冒頭で書いたようにドイツサドのスネークウッドが良かったので、楽器熱が再燃していました。

とはいえ60万。持論として40万までしか1体の楽器に支払いたくありません。国産車が買える金額のベースも買ったことがありますが、今持っていない事実は、それが本当に必要だったか否かを物語っています。事情はありますが。

本体価格の90%を5年で償却、40万なら年72000円が経費、ざっと1日200円です。仕事の道具ならそれくらいがちょうどいい。ってな理屈をずーっと喋ってきました。もうひとつの根拠はプリCBSが、私が成人した頃なら、その辺で買えたのです。モノとして、それ以上のものが必要ですか、と自問自答します。より高額な楽器は趣味の領域、言わば別腹でありまして、現在私の置かれている状況では控えるべきだと理性が語ります。

7月8月の間で、演奏の仕事は、ずっと4弦で行っていました。ピックアップやパーツの変更を現場で試していたのです。チューニングしていた、というか。それによってジャズベースは60年代風と70年代風の2本が仕上がってきた感じで(ブランドはいずれもクルーズですが)その過程は楽しかったし満足していました。

そんな折りに降って湧いたようなフレットレス熱が出てきまして、それも前に書いたけれど6弦FLは日々の練習で使っているものがありますが、もっとトーンを追求した5弦が欲しいと考え始めてしまったのです。

するとそこへ、理想か?と思うような個体が現れ、30万未満と、本気で検討しても許される金額なのも手伝って、気持ちが盛り上がってきました。在庫が関西エリアで、それはもう何度も、出掛けていって試奏し、なんなら買って帰ろうと思ったものです。しかし腰が重く動き出せませんでした。一番行きたかった日程は、例の台風が直撃した当日でした。当然見送ります。そして8月は昨日で過ぎましたが、それを待つまでもなく売れてしまいました。その喪失感は思いのほか大きかったです。

マニアと言われても否定できない精神を有していますので、その虚空を埋めるために、代替を探し始めました。都合良くフレットレスの出物はありませんが、そこでも5弦ということでナローネック、ナローピッチのブリッジは前提でしたから、フレッテッドの方で網にかかるものがありました。質的にドイツサドを上回るかどうか不明ですが、全然知らなかったヨーロッパの某楽器がナット45mm、ブリッジ18mmで条件を満たしています。一方サドは21フレットですが、こちらは22フレット。私には21フレット仕様は評価が低いのです。22欲しい。でなきゃ20でいい。24も本質的には好きではない。ベストが22であることは経験上得た結論です。

というわけでウォッチする5弦ベースが現れたことで、少しヴァイタルを取り戻したものの、価格はドイツサドの80%くらいと、やはりハードルは高いです。輸入物はしょうがないですね。関東圏なので弾きに行けますし、40万なら即買いしますが。そう考えていくと、ドラゴンフライにオーダーしてみる、という荒手も検討の余地があります。細ネックで作ってください、という申し出が通ればの話ですが。今国産なら旬だと思われます。

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