春だから初心者に向けたエレキベース選びについて その五

何が音(音色)の違いを生むのかについて、簡単に説明したいと思います。エレキベースでのお話です。

軽量で弾き易い(バランスが良く、体格に合うスケールの)、見た目でも気に入る、予算内で買える楽器と出会えたなら即買いでも良いのですが、「こういう音が出したい」という音色への明確なイメージがあるとしたら、その筋から的を絞っていく手もあります。

そのケースでは、殆どの場合が、特定アーティストの、特定の楽曲でのサウンドがモデルとなるでしょうから、そのレコーディングなりライブなりで実際に使用された楽器に近い仕様を選ぶことで答が得られる可能性が高まります。

ここでは、弾き手による弾き方の違いによる音色差や、楽器の音を後からどのように加工したかという、わかりやすく言えば「編集」の技法について除外し、元の音、つまりは楽器から出た音が、どんな要素でキャラクターを造るかについて、概要を申します。

最も決定的な存在はマイクですが、エレキ楽器に搭載される、音を拾う装置のことをマイクではなく、通常ピックアップと呼んでいます。その原理については割愛しますが、ピックアップの種類は外見である程度見分けがつくので、そこを目標のアーティストに準えるのがよいでしょう。

何度も、エレキベースは1950年前後の「発明品」であると申してきましたが、それはフェンダー社の商品として発売されました。始めは単一のピックアップがボディ部分の中央より、ややネック側に付いていました。この元祖と言えるピックアップは、今は主流からは外れており、敢えて探そうとしても少し珍しいという立ち位置にあります。

その製品名はプレシジョン・ベースというもので、Wベースを小型化し、ギターに倣ってフレットを打った、エレキギター開発に成功し、その雛形にベースのフォーマットを落とし込む発想から生まれました。フレットがあるから誰でもピッチが正確(precise)でしょ?という意味です。

約7年後にモデルチェンジした(2代目)プレシジョン・ベースが、今商業的にプレベ、とかPBとか言われる、まさにエレキベースの代表格となっています。なぜかと言えば、そのベースを使って演奏された録音が、ポピュラーミュージック(のみならず…)として世界を席巻したからです。

その約3年後に新商品として上位機種がジャズ・ベースという名で登場しました。60年代の音楽の殆ど(と言ったら嘘になりますが、それくらいの勢いで)がプレシジョン・ベース(PB)で録音され、70年代の音楽はジャズ・ベース(JB)で録音され(これも嘘ですけど)、私たちが聴く、殆ど全ての音楽に、フェンダー社のエレキベース、あるいはそのレプリカの音が入っている、と考えても、大ざっぱには間違っていません。それくらいに絶対的、圧倒的な存在なのです。はっきり言って地球規模の文化創造の偉業ですね。

マイクの話に戻ると、2nd gen. PBのマイクは、初代PBと似たような位置に付いてはいますが、GD弦用のマイクとAE弦用のマイクに分かれており、2個のユニットがズレて取り付けられているのが、ひと目でわかる特徴です。理由は省きますが、初代の欠点を見事に解消する素晴らしいアイディア、これぞ発明、というような工夫が行われた結果です。

そしてJBは、その発展形として、2個に分かれた各々が、やっぱり4本の弦全てをカバーしようということで細長くなり、元あった辺りと、新規に、もっとブリッジ方向へ寄った場所に、離れて置かれることとなりました。

PBもJBもマイクは2個ずつ付いているのですが、形状と位置が異なります。PBは高音弦側と低音弦側に分かれている2個なので、1本の弦に交差している物は1つしかありません。大してJBは全弦カバーするものが2個あるので、電気的な原理は一緒でも、弦を交差する物が2つになった、という点で大きな違いを生むこととなりました。

PBとJBは、楽器としての成り立ちにおいては殆ど一緒で、外周デザインの差はあれど僅かなものです。しかし誰が聞いてもわかる音質差は、このピックアップによるものから生まれます。ですから「この音」を出したいというモデルがある場合、PBかJBか、またはそれ以外か、というところを確認するのが早いです。

フェンダー社を興し、エレキギター、エレキベース、ギターアンプ、ベースアンプを開発して世に送り出した後、1964年頃ですが、創業者のクラレンス・レオニダス・フェンダー氏は会社を売却して独立、CLFリサーチ社を始めます。当初はフェンダーブランドを引き継いだCBS(テレビ局の)社の顧問業を行っていましたが1970年を迎える前に関係を断ちます。以後、ミュージックマン社(その後弦メーカーのアーニー・ボール社に買収)、G&L社(こちらもエフェクターメーカーのBBE社に買収)のギター/ベースデザインに寄与し、新しいスタイルのピックアップを、みたび、世に送り出したのでした。

JB用の、2個に分かれたピックアップをサイド・バイ・サイドに配置し、2個で1個となるデザイン(元々ギターではポピュラーであり、ベースにも存在していたものの)を新しい定番として根付かせたのです。いわゆるハムバッカー(HB)と呼ぶスタイルのこれは、フェンダー氏が、更なる電装系の弱点を補うべく開発した、楽器内蔵型プリアンプ(電源が必要で電池を積む)と組み合わせることで、それまでにない新しい音色を登場させたのです。

以後、このような楽器の電気系を「アクティブ」と呼び、旧来の電池を積まないものを「パッシブ」としてカテゴライズするようになりました。

フェンダー氏の発案をエレキベースの主流とするのならば、ピックアップにはPB、JB、HBといった形状の異なるモデルがあり、それらにアクティブサーキットを積むものとパッシブのままのもの、という風に分類が可能です。現代の音楽を聴いて、使われているエレキベースに載っているピックアップの形式が、それらのうちどれであるかを音質だけで判別することは、大まかには可能です。もちろん後処理によって、それらの固有性を消してしまうか、全く別の発想で作られる非フェンダー系の楽器が使われている可能性も十分ありますが。

しかし、誰かの音をターゲットにして真似てみたいと思う時、ピックアップの形態とアクティブサーキットの有無を確認してみることで、近づかせることは容易になるでしょう。楽器選びの際にも、取り入れるべき観点の一つではあります。実際に、あるミュージシャンを推しにしている生徒さんが、そのプレイヤーと同じTUNEというメーカーの楽器を購入し、非常に満足し、幸せに音楽を楽しまれています。TUNEは独自なエレクトロニクスを採用していることで有名な日本の会社です。



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