法?を守ろう
作り手の考え方は様々で、フェンダーは雛形であり散々コピーしたけれど、別の人間達がそれを作ったら類するものにしかならないことがよくわかります。ジャズベース一点に絞っても、ボディシェイプのアウトラインや角のRのつけ方、コンターとして削られる形状や面積は全部違い、ましてやネックのサイズ、形状ともに、それはもう同モデル内の個体間ですらフィーリングが異なります。だからこそ、私たちは試奏を行います。自分に合う楽器というものは、言語化可能な仕様や測定値では決められないのです。
少し前のことですが、とある楽器店にRed House Guitars(本文以下はRHGと略させていただきます)によるSeekerというJB5弦モデルが同時期に3本入荷し、同社の現在地に興味があったため試奏を申し込みました。希望の仕様でオーダーする含みもあってのことです。
周知のことですが RHG社はSadowskyブランドのOEMを行っていました。当時の販売価格を上回る値付けで中古品が出回るほど、製造拠点がドイツへ移動したことを、多くの(特に日本人)ユーザーが惜しんでいる証左です。私もフルサイズボディの70年代仕様をひと頃使っていました。重かったけれど。
で、同一スペックでカラーのみ変更された3本を弾いて、そのうち1本が明らかに良かったです。重かったけれど。
音がいいとか悪いとか、好きとか嫌いとか、試奏のその場では感じることができるけれど、だいたいそれは当てになりません。自分のアンプではないし、店舗内のルームアコースティックがスタジオやライブ空間の聞こえ方と乖離しています。もうこれまで、何度も何度も、惚れ込んで買った楽器を現場に持っていき、5秒で撃沈したことがあります。時々私は、店頭チューンとか、特定の楽器店名を入れて○○マジックと呼んだりして警戒感を喚起させるほどです。
だから、漠然とした「フィーリング」を重視しなくてはなりません。それはどういうことかと言えば、一例としては、淀みなくフレーズが出てくるといったことです。それをして「弾き易い」と呼ぶことにしています。
数十年前のことですが、Foderaを勧められて何本も弾くのだけれど、どうしてもフレーズが詰まってしまいます。どこかに負荷がかかり、「何も考えずに」手を動かすことができません。単純に馴れというものだと言われそうです。使っているうちに馴れると。ただ、そのネガティブな印象を覆す、圧倒的な魅力がない限り、自分の楽器として選ぶことができません。近年のFoderaにそんなことは無いということは申し上げておきましょう(てことは自分の成長なのかな?)。
今日その3本あるRHG seekerを弾きに行ったお店へ寄ったので、売り場を見てみたところ、なんと同社に無茶振りしたヘッドレス5弦ベースが吊してありました。多忙を極める現在のRHGでは到底引き受けてくれなさそうなスペックですが、作例がある以上、今後の展開もありそうだけど、瞬殺で売れるということでもなかったので成り行き次第ですかね…のプロトモデル。
ブリッジはIbanezのパーツらしいです。独立式なため、弦間設定は自由ですが18mm相当に組み込まれていました。24フレット指板でHäusselジャズバッカーが2個付いており、2Vol.2Toneの4ノブ/パッシブ。シリーズハムとシングルコイルに切り替えるタップスイッチがトーンノブに仕込まれています。軽量なアッシュボディにワンピースネックの指板はパーフェロー、と好きな組み合わせ。
大きめで安定感あるオリジナルのボディシェイプが優れているだけでなく、ヘッドレス特有のすっきりし過ぎる音色をハムPUで補うなどよく考えられており、結果弾き易かった。つまりは、いかようにもフレーズが出てくるというような。エレキベース界で天下取れる最高の音質、という方向を目指さず、軽量で取り回しの良いベースの姿を提案している様子で、かつ鳴りはトラッド方向ですから、本当に私のような老練のプレイヤーに優しいコンセプトです。ていうか、私用だ、これ。
チューナー内蔵のブリッジシステムが、ノーマルなテールピースよりも重いことを想定し、ボディのショートホーンは外へ向かっており、足に引っかけるような形状です。最近もこれに触れましたが、太ももに刺さって痛いです。というのも、ネックを前に出すから楽器が斜めになり、ちょうど尖ったところが足の上に乗ってしまうのです。湾曲が足にはまるのは正面から直角に構えるような場合で、左腕を前に出すフォームの私にはマッチしません。ただ、軽々としたボディはストラップで吊った時にも最高のバランスを保持しているので、座奏の際もストラップで足から浮かすことにより問題回避できます。
相当気に入ったのですが、ただ、これを買うことができません。ナット幅は47mm、12fで67mm、24fで78mmのネック幅は、私が仕事で使えるか否かで言ったらワイドすぎます。全体に、左右1mmずつ削りたい。もちろんボルトオンネックのポケットがそれを許しません。
迫力あるトーンのSeekerは更に幅広で厚みがあるようでした。やはりここのネックは19mmピッチのブリッジに合わせているのだろうと思います。18mm設定の楽器でも、それ専用設計となると、相応のコスト増が必至です。残念です。
試奏は危険です。将来破綻することが目に見えていても惚れてしまうことがあるからです。もうこりごり。私は進んで「音」を妥協しても身の丈に合う楽器を選び取りたいと思います。そのための数値。一旦これを絶対視することにします。重さ4kgも大事。みなさんは真似しなくていいですよ。