今、こうであって欲しいというものが15年前から変わっていないことについて
事実として認識していることをそのまま書くことはできない案件なので、オブラートに包むかフィクションを交えるか、少しの改変を加えながら話していこうと思います。
とあるベース、5弦ベースがDigimartへ掲載され、その日に即売となっているのを見ました。それがまだそこにあったことに驚きつつ、説明される仕様を読んで感慨深いものがありました。2008年製とのことで15年前のものです。
私が現在、現場へ持っていくベースは5弦で、ここでも色々書いたとおり、34.5インチスケールの楽器です。その数値を一般化した代表的なメイカーはカナダのF-bassです。
F-bassは90年代から、個人的に好きなタイプの楽器を製作していて、2000年代になると、ほぼ現在のラインナップの雛形ができあがっています。スタックのシングルコイル型ハムキャンセルPUをジャズベースに相当する位置に配し、ホワイトアッシュボディに柾目のメイプルを3枚貼り合わせたネックに指板もメイプルで合わせたアクティブの楽器です。米国内では法的に制限されるラッカー塗料をカナダでは使用できるため、楽器に最適な塗装を施している点も一貫したものです。そしてスケールは多弦であらずとも34.5インチを基本としてきました。
古い内臓ブリアンプもできの良いもので、個人的には好きでしたが、EQカーブをティルトさせる原理が、簡単にフラットを出せない(だけどシェイピングされた音は素晴らしく良い)せいか、悪評で、現在のような3バンドでブーストさせるだけのEQに変更されており、その前後で34インチから34.5インチへシフトされたものと記憶しています。
2003年か4年あたりに初めてF-bassのBNを買い、それが本当に良かったことを覚えています。以来、総数12本を所有したことがある(のに手許に1本も残っていない)というバカげた愛情を、実は今でも持ち続けています。
F-bassは素晴らしいのだが、仕事がタフな時に34.5は辛い、などの理由から34インチでのオーダーをしたことも数回あります。究極を期待しすぎるために、少しでも何かあると、次へ行ってみようと、そのアベレージの高さを他所に手放していました。
そして"ナーコロ"の時代を迎え、欧米の急激なインフレと政策による意図的な為替操作によって、輸入楽器全般が、おいそれと手の出せない価額へと転じていきます。私がバカみたいに取っ替え引っ替えしていた頃のドル円は80円台でした。ストリート価格$4000ならば40万円以下で手に入るのが普通というイケイケの時代。これもバブル現象と言っていいでしょう。
2年くらい前だったか、VFというシリーズにアルダーをボディのセンターに、アッシュを両側から挟んだ5弦が市場にありました。これが非常に好みで、何度か買いかけたものです。その頃からブリッジ上の弦間は18mm以下であることを条件にしているので、結局断念しました。
そのボディ構造から得られる音色は好きです。そして「妄想」として捉えて下さって結構です、私の側でそのように認識しているに過ぎませんが、たぶんその発端となるアイディアは私から出ているように思うのです。それが冒頭で話した楽器です。
パッシブで十分と思っていました。さらにメイプル指板とネックシャフトの間にウォルナットの薄板を挟むことも指定した覚えがあります。と、ちょっとこのあたりはお茶を濁した書き方をしなければなりませんが…、というようなゴニョゴニョした内緒の色々があって、その結果生まれたのがそれ、ということで間違いないです。
いま、34.5インチのベースを使い回しているにあたって、どうしてもまたF-bassを試してみたくなっていた、というのは本当のことであり、ならばと密かに思い描くスペックは、まさにアルダーセンター、アッシュウィング。つまりは2、3年前にスルーしてしまったアレをベースに、メイプル指板、パッシブでいいかな、などと、すっかり忘却の彼方にあった2008年当時に理想と感じたスペックそのものであることを思い出させられたのは、驚愕のできごとでした。
時々思うことがあります。こんなに楽器を替えているけれど、ずっと求めている音、形、というのは変わっていないのではないかと。ただ歳を重ねて、ヘビーな仕事において楽できる(ミスの発生を極力抑えられる)楽器を欲しながら、その追求の途を迂回してしまったのだと。てなことを唸りながら考えてしまった昨日でした(重ねて申しますが、これが真実であるかどうかは関知いたしません)。