春だから初心者に向けたエレキベース選びについて その二

次に、これから、という人のために老婆心で申せば、ストラップピンの位置を気にして欲しいということです。

ベースを人前で弾く時、多くの人は立っていると思いますが、楽器は2点のフックにベルト(以後ストラップと呼びます)を掛けて、首から肩へそれを回して吊り下げます。その時に、左手がネックの遠いところ(ローポジション)に届かなくてはならないことと、そのネックが斜め45°程度に立ち上がることで良好な演奏性が保たれます。

もしも長いストラップでベース本体をぐっと下げて、ネックを引き上げれば体に近づきますので、そのポジションで解決しそうですが、それはどちらかと言えばパフォーマンスを見せる時に有効な構え方であって、演奏のことだけを言えば、どこかに無理を残すこととなります。

楽器を教えることを仕事の一つとしている時、何を伝えたら良いかを考え抜いて結論としたのは、その楽器の音域(最低音から最高音まで)を合理的に、最善の音質で、いつでも鳴らせる弾き方(構え方)を「基本」と想定することです。経験の中では、この「基本」形を実践しようとすると、それを阻害する要素のある楽器を見ることになります。初心者であるならば、尚更それらは避けるべきと考えます。

パーフェクトな見分け方とは言えませんが、ストラップボタンの位置が、ネックの12フレット位置相当まで伸びていることを条件にしておくことを勧めます。ボディの低音弦側がネックの方へすっと伸びている形です。この伸びた角(つの)の部分にストラップボタンが装着され、ネック上でなら12フレットとなる位置まで来ていれば、ひとまず安心です。ボディ外周のデザインによって、それが僅かに届かない、例えば13フレットや14フレット付近、という場合も、厳密に言えば避けた方が無難です。

これは楽器の重心に関わることで、吊った場合のバランスを話してきましたが、座って弾く時の、楽器を右腿に載せた時に、ネックが持ち上がったまま保持できるかどうかも同様に検討する必要があります。

立っても座っても、ボディを右腕で押さえ込むことでネックを立たせるフォームを良しとする考えがあるようです。ここで詳しく述べませんが、別の理由からお勧めできません。楽器自体が、フリーハンドでもネックが持ち上がって安定する方が、奏者には、より優しい設計です。是非、こうした楽器を探してみてください。

その時に、捨て置けない案件はヘッドに装着される糸巻きの重量です。これがネックを下げさせる重りとなります。しかし多弦ベースが一般的になるにつれ、小型軽量の糸巻き(以後ペグとします)が世に現れ、4弦のベースにも使われるケースが増えてきました。どちらかと言えば、高級な楽器によく用いられます。部品の価格も高めですが、本格的な演奏をするプロやエキスパートが、ネックの下がらないことを願っている証左ではないかと思います。

ペグは楽器を構成する部品のひとつですから、後から付け替えることが可能です。私の普段使っている4弦のベースは、すべて軽量のペグに交換してあり、ストレスを感じることがなくなっています。

今日の終わりに、ネックが下がらないことはバランス次第だから、ボディが重ければ実現するだろう、という意見について検討します。ペグが軽くなくても、ボディ側に重心が寄るくらいに重い木材で作られていれば、ヘッドは下がりません。経験的には、それだと総重量が5kg以上になります。

80年代頃まで、重い楽器を優れていると考えるベーシストが、ある一定数おられました。私は、それはバランスのことを言っているのだと捉えていました。まだ軽いペグが存在しなかったからです。つまり、邪推かもしれませんが、結局求めていることは同じだということです。ヘッド(ネック)が下がらないで欲しい、という願望を、声高に主張せずとも内心は抱いていたのではないかと。

ネックが細長く、弦の振動を受けて共振することが楽器として、音楽的な音色を出すために前提となるならば、ボディも同様に共振が必要です。重い、密度の高い木材が、より振動の影響を受けにくくするならば、共振を受けるネックの負担が増すように思います。これら両者の負担の按分に、なにか理想のようなものがあって、それが音の良い悪いを決めているイメージを持っています。だとするならば、重すぎるボディ材はあまり魅力的な音が出せないのではないかと、多少の実感を伴いながら、信じているのは間違っているでしょうか。好みの問題かもしれませんが。

すると、総重量をチェックしておけば、問題は楽に回避できます。基準は4kgジャスト。弦を足せば物理量が増すものですが、部品や木材の選定をうまくすると、多弦でもこれくらいが可能です。初期状態で重いペグが付けられているならば4.25kg、自分用の楽器として受け入れられる上限値です。

もし、ある特定の楽器に心を捉えられて、どうしてもそれが欲しいのなら、その情熱を止めるつもりはありません。その存在は唯一無二であり、出会えたことは幸運だからです。しかし「何を選べば良いかわからない」方へのアドバイスなら、悪いことは言わないので、軽めで、ヘッドの下がらない楽器をお選びください。





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