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仕事用ミニマムシステムを考える 3

適切なバッファーペダルを選ぶ

私なりに極限まで荷物を減らそうとしてもボリュームペダルとチューナーペダルは外せません。前者がくせ者で、アクティブサーキットを載せたベースであっても、もうひとつ直列に加えられる抵抗を通れば、オープン(マックス)にしていても劣化を避けられません。長年の悩みでした。

様々な機種、信号取り回しの工夫、あらゆることをやってきた中で、現状落ち着いているのはバッファーアンプで挟むことです。Mesa High-wireというバッファーアンプは入力でインピーダンスを下げ(ディスクリート)、ループを経由した後の出力でも、内包するもう一台のバッファーアンプ(オペアンプ)で出力インピーダンスを下げます。このループの中にボリュームペダルを置くことで、かなりの不満が解消しました。

そのシステムを、まだ重い、大きい、ベースのバッグに収まらない、などの理由で小型化を図りたい、というのが連載の趣旨です。SSサイズのエフェクターボードで荷物を1個増やしていましたが、それさえも無くすのが狙いです。

多くのバッファーアンプ(というジャンルのエフェクトペダル)を、ボリュームペダルの損失を補填する目的で評価してきました。バッファーには固有のキャラクターが存在し、信号増幅は行わない約束なのに、音量が変わったり音質が変わったりします。その変化量において、個人的には継続使用可能かどうかを判断してきました。

組み合わせるボリュームペダルの詳しい話は別項に譲り、Shin's Music Baby Perfect Volumeのカスタム品を、今回は前提に進めます。High-wireと組み合わせていたのはWeedによって改造されたErnie Ball VP-JR.ですが、両者とも100kΩのポテンショメーターが使われています。ですが、Shin'sは切り替えによって25kΩが選択でき、このローインピーダンス設定で、組み合わせるべきバッファーペダルを選定しました。

うちに転がっているバッファーアンプを列挙すると
・Roger Mayer Crossroads Signal Director
・One Control BJF Buffer
・One Control Silver Para Bass Buffer
・Inner Bamboo Electron Buffer(custom made)
・Mesa Stowaway
・Mesa High-wire
・Okko Variable Input Buffer
・Weed Beef
などです。

ペダルチューナーでは
・Boss TU-3
・Boss TU-3S
・Korg Pitchblack X mini
・tc electronic Polytune3
などがバッファードバイパス可能。

他にもベースへ搭載するプリアンプをペダル筐体に移植したアウトボードが、EQを使わずにフラットで出せばバッファーとも考えることができます。同様にコンプレッサーペダルもコンプレッションを1:1に設定すればクリーンブースターであり、まぁどんなものでもバッファー回路が入力を受けているので、その後を加工せずに出せば単体バッファーと等価だと言え、そうなるとあと20個くらい、検討に加えても良いものがあるという話になります。

チューナーは、その機能をオンにすると音が出なくなる設計が多いため、バッファーとして使用することができません(私は演奏中にチューナーを作動させているため)。例外はPolytune3で、これはバッテリーでも動くし唯一無二の推しではあります。でもHigh-wireを中心とするシステムではチューナーアウトから行きっぱなしになるのでチューナー内蔵のバッファーは不要。むしろこれまでミニマムシステムを組む場合に積極的に選択してきました。ただしバッファーを通した音質が、ベースがパッシブの場合には悪くないけれど、アクティブの楽器だと気に入っていません。

結論を申しますと、実戦投入での検証はまだですが、自宅で実験した結果One ControlのSilver Para Bass Buffer(以下SPBBと書くことにします)が理想的な環境を作れることが分かりました。ちなみに電池は使えません。

パラアウト(チューナーアウト)が付いていることが決定的要因ではありますが、音が良かったからで、それには理由があります。

以下、妄想半分。そもそもラジオ技師であったクラレンス・レオニダス・フェンダー氏が第二次世界大戦でアメリカが勝利したころ思いついたエレキギターの概念とは、ラウドスピーカーを鳴らす一体型のアンプを設計(デバイスは真空管)、そこへ突っ込める弦振動を電気信号に置き換える仕組みを、板きれ数枚を繫いで作ったギターに乗せる、というものでした。われわれ、エレキギターと言いますけれど、アンプ込みでなくては、それは楽器の体を成していません。単体でも練習器具にはなるでしょうけれど。

その一式が、今日でもフォーマットとして定着しいるのですが、手品のように鉄弦が磁界内で振動することにより電圧を生じさせた結果としての導通が、正しくラウドスピーカーのコーン紙を揺さぶることができるよう、以後の電気信号の増幅度合いを綿密に計算したことで成立しています。

別個体であるエレキギターとアンプ間で信号の受け渡しが行われる時の、発電側の能力は自ずと決まってくることから、受け取る側の、まず入り口がどのようなものであるべきか考えたことでしょう。推定出力インピーダンス100kΩあたりの信号を400kΩくらいで受け取るのがよろしいかと、そのとき彼が決めたのです。空想はここまで。

私がまだ若かった頃、ギター、ベース用機材、まぁアンプとしておきましょうか、の入力インピーダンスは470kΩといった数値がよく目に付いた記憶があります。エフェクターが素人にも手が届く価格帯で流通し始め、それらのスペックにも、そう書いてあった印象が強いです。ギターのポットが250kであったり500kであったりするのでHi-Z入力としてはマッチしています。

一方、PAやレコーディングを学ぶと、当時600Ωというインピーダンスが掟のように呟かれました。DIとは、大抵はトランスの2次側で600Ωを生成する装置と認識されており、この辺がローインピーダンスの定義かと思います。現代はだいぶ違っていますが。

私の専門であるエレキベースについて、体験に基づいてお話しすると、パッシブ・ベースからステージで使える長さのシールドを直挿ししても明らかなハイ落ちが認められました。入力側が470kΩだと楽器直のハイインピーダンスなら5m程度のケーブルでも起きる現象です。

やがてエフェクターやアンプの入力インピーダンスは1MΩがスタンダードになり、ベースの側にも電池を入れてローインピーダンスの信号を出す、という双方が一つの課題に向き合った結果、10kで出して1Mで受ける、というようなロー出しハイ受けが常識となります。そこで初めて「本来の」ピックアップの音が出力されるという状況を可能にします。

特にギターの世界では顕著ですが、ギター/ベースとアンプの間に古には考えられないほどのガジェットを組み込んで信号を引き回すことが常態化するにつれ、いまだロー出しハイ受けを追求する気運は止まないように見えます。何が言いたいかというと、もっと、もっと、良くしたい、という欲望が、世にバッファーアンプなる独立した筐体のガジェットを求めさせるのです。

語気が荒いので改めます。以下、これも私感でしかありません、というか推論です。

ベースに内蔵するプリアンプモデュールは、どれくらいインピーダンスを下げるか、調べ尽くしてはいないのですが、たまたま見たEMGのBQCサーキット(3バンドでミッドの周波数が可変の内蔵プリアンプ)は入力インピーダンス1MΩ、出力インピーダンス2kΩとなっておりました。Bartoliniは内蔵バッファーの入力が1MΩ(ピエゾ用は3.3M)、出力側3.6kとなっています。TCTなどの内蔵プリアンプの方は320kΩが入力インピーダンス(出力は60kΩ)。ならばパッシブPUからバッファーを通してプリアンプへ入れるのが理想的であるとメーカーが言っているようなもので、マイケル・トバイアス・デザインのやっていることが、最適解だと分かります。

考えてみればEMGは自社製サーキットに入れる前、すでにPUにバッファーを内蔵しているので、MTD同様、段階的にインピーダンスを下げていると言うこともできます。

この「段階的」というのがキモであるように感じます。ギター/ベース本体内にバッファー(プリアンプ)を積んで、例え足元まで3mのケーブルで繫ごうとも、強い信号で通す。そこでまた良質なバッファーアンプで、その先へ渡す信号を整え、仮に多数のエフェクターを通るのであれば、その出音に対し、アンプまでの距離を担保するためにもう一度バッファーを通す。そうしたシステムが、幾重にも信号を引き回し、弄りまくった末でも、元のキャラクターを維持するのに役立つのではないかと。

もちろん、各エフェクツを通る度に「バッファー回路」を経由するので、数えたらその数、20回などということもあり得るかも知れません。それでも、最初の方で、穏やかに2段階で落としていく方法が、たぶん功を奏すると思うのです。というようなロジックが、今回の機種選定で浮かび上がってきました(素人目線で申し訳ない)。

One ControlのBJFバッファーは気に入らないけれど、SPBBは気に入った理由はスペックから伺われます。BJFはinput 500kでoutput 60Ω、SPBBはinpur可変で50k〜390k、outputは2kΩとなります。両者を比較すれば、SPBBはハイインピーダンス仕様であり、BJFならばミキサーに入れられるけれどSPBBは入れられない(2000>600)ということになります。

BJFの入力が500kΩなのは工夫と思います。「派手」になり過ぎるのを防ぐ意図があったかもしれません。でもエレキギターに良くても、ベースではまだ「派手」な音に感じます。私はSPBBのインプットインピーダンスを最小の50kに下げたときが気に入りました。ベースにはXTCTが積んであり、資料から類推するに4kΩ前後の出力インピーダンスになっていると想定でき、そのマッチングは問題の無い範囲かと思います。SPBBの出力は25kΩのポットを使うボリュームペダルに繫いで良好です。ベースをパッシブモード(プリアンプのバイパス)に切り替えても、SPBBを介して25kΩのボリュームペダルは特に劣化を招かず、十分使えそうに感じました。

多くの機種が1MΩの入力インピーダンスで受け、BJFは60Ω、Polytune3(Bonnafide)は100Ω、Mesaは150Ωまで落とします。そこまでやらなくて良いのでは、というのが仮説です。ギタリストの評判が悪いBossチューナーは1kΩの出力インピーダンスであることで、なんとなくその理由がわかります。バッファーの効果は高域に行くほど強いですから、ベースの場合、そこまで一気に下げるとむしろ痛い音になるのではと思います。

そんなこんなでOne ControlのSilver Para Bass Bufferが絶妙であると分かりましたので報告しておきます。

で、結果、バッテリーが使えないのでKorgチューナーも外部電源に頼ることにし、DCを2台に分岐するケーブルを利用し9V/500mAの小型軽量ACアダプターと組み合わせて運用することにしました。Pitchblack X miniの最大消費電流は30mA、SPBBは3.5mAで全然オーケーなのでした。

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