今年のドラマについて少し

一年を振り返ろうとした時、現在に近い、下半期に強い印象が偏るのは仕方のないことで、本職で記事を書くのであれば日記や資料を読み返したりして公平な判断に努めるのでしょうが、私はこれを書いている瞬間の気持ちを記します。

もっとも、個人的には6月までと7月以降では住まいが違っており、心理的な状況もまるで異なるものでした。今年があっという間に終わった感覚が、より強いのも、ここへ来てからが僅かに半年であったという客観的な理由もあります。

長引く"ナーコロ"の影響下で、収入面では低空飛行を続けている中、上半期までは持っていた老後資金を、下半期には住宅取得のために失った、つまりは余裕の有無で180度転換したと言って過言ではありません。

そうした変化を反映した物かどうかは測りかねますが、上半期のことは数年前の出来事のように記憶が薄まってしまいました。

とはいえ、『カムカムエヴリバディ』を一番に推したい。というのも文句の付けようがない見事な100年史の描き方が、国民一人一人の存在の意味を再確認させたであろう強力なインパクトを残しました。私たちはどうしたって敗戦国であることを背負って生きねばなりません。それでも元気かつ幸福でいるために、何が必要であるかをことごとく訴えられていたように思います。制作陣も演者も、並行して放送されたラジオ英語番組の関係者まで、全てが素晴らしかったです。

2位は、まだ終わっていない『エルピス』にしたいと思います。3位が『鎌倉殿の13人』です。中世の血なまぐさい権力闘争を、家族という繋がりに関連付けて壮大な「知られざる」ストーリーをリアルに描いた凄さに優る評価を、1クールの民放連ドラに与えようと思います。

エルピスの描く世界は、現代が中世(現代視点でのフィクションだとしても)と変わらず地続きであることを語ります。その精密さが秀逸であり、展開が予見できない。面白さは圧巻であったと思います。週一更新の60分枠テレビドラマというフォーマットが、当然のことながら生かされており、間を置いて見続けることで、ドラマ内の事件の進展とリンクしている錯覚を持ちます。設定は数年前のことですが。

鎌倉殿を追っていたからこそ、エルピスが光って見えたという側面を否定しません。権力を維持するための闇を、どちらもクールに見せつけるものでした。その古典的スタイルとコンテンポラリーなそれ、というように。

他の作品にも触れるとすれば、上半期の『ミステリと言う勿れ』を楽しみました。原作のマンガ版は見ておりません。菅田将暉さんは源義経も演じ、オーバーラップした時期がありましたが、お見事と言うほかありません。そうした讃辞は彼に止まらず、どうして複数の役柄を同時に、そのクォリティでこなせるのか不思議でなりません。

ここでのキーパースンの一人である多重人格者を演じた門脇麦さんも朝ドラ『まれ』から注目していましたが、本年はフジテレビ御用達で下半期の『親愛なる僕へ殺意をこめて』へも出演されました。こちらでは『カムカム〜』後の川栄李奈さんがメインキャストを務めており、それもあって最後まで見ていましたが、マンガ原作ものの常なのか、もうひとつと言ったところでした。この2作品に後鳥羽上皇を演じた尾上松也さんが出ておられ、舞台もあったろうに(本年中は無かったかもしれませんが)とてつもないワーカホリックぶりを見せつけられました。

ここに触れた作品は、劇伴・主題歌・挿入歌といった音楽も全て良かったと思います。そこが駄目だと感じれば作品そのものを見続けることができません。音楽を作る人達の、世紀またぎで大進化している能力の飛躍を印象づけられました。というわけで、図らずも民放はフジ系列を3本挙げることになった総括には、本音では意外な気がしています。ふわふわな恋愛ドラマばかり作っていた気がしていましたので。で、そっち系統ではありますが、夏帆さんは益々深みが増して、今年も活躍されたのが記憶に残ります。

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