春だから初心者に向けたエレキベース選びについて その一
質問を頂くので、思いつくままに書いてみます。数回に分かれるかもしれません。
私の若い頃には多弦というものはありませんでしたので、キャリアは4弦から始まり、5弦を使い、やがて6弦ベースにも手を出しました。フレットを廃し、Wベースに寄せたフレットレスベースに関心を持つならば、簡単に言えばそれだけで6通りのバリエイションがあるわけで、自ずと所有機が増えようというものです。
これらは完全に別の形態になりますので、4弦のフレット付きでほぼ賄えるけれど、フレットレスで高い音を出す必要がある、などという場面では、そこで別の楽器を用意しなくてはなりません。5弦には低音側に増やす場合と高音側に増やす場合があり、6弦にも弦の組み合わせは様々あります。
弦の本数が多ければカバーできる範囲は広がりますが、張る弦が何かによってネックやブリッジ、ナットなども設定を変更しなければならず、非可逆的ないじり方が要求される場合もあって、本質的には、1つの楽器には、定まった音域を与えておくのが無難と考えます。
こういう風に、ひと言でエレベと呼んでも種類が多々ある(エレキベース形態のアコースティックベースという考え方もありますし)のは、もしかしてギターよりも守備範囲が広いのかもしれません。エレキギターは1台でバッキングとソロを使い分けるなど、瞬時にキャラクターを変えられる仕組みが搭載されますが、ベースはそれほど劇的に変化させることは多くなく、もしそうであるならば楽器を違うものに持ち替えることが、普通みながやっていることではないでしょうか(エフェクターで音色を変えるのは当然として)。
ですから、まずどういった形態の楽器を持つかが第一歩となります。むろん、これからその世界に足を踏み入れるのであるならば、4弦のフレット付きを選ぶのが良いでしょうが、奥へ行けば行くほど、それで済むわけはないので、始めから5弦や6弦というのもアリでしょう。
自分がこれから演奏したい音楽のイメージがあれば、それに沿うようなものを選ぶべきですが、漠然とただ弾いてみたい、バンドがしてみたい、などという場合には、やはり4弦フレット付きで始めるのが良いでしょう。語弊のある言い方ですが、弾くのも覚えるのも、多少でも楽ですし、楽器の選択肢も一番広いでしょう。
さて、音楽的な欲求でフレットの有無、弦の本数が決まったら、何を目途に選べば良いか、という話に進みます。
エレキベースは、弦が何本であれ、楽器として成立させるために、とてつもない力でそれを引っ張っている状態で存在しますので、ネックという、あの細長い木の棒が一手にそれを引き受けているという困難さを想像するべきです。弦が振動して、マイクがそれを拾い、音が出る図式の中で、音色を音楽的たらしめるのは、ネックの共振が作用するところに有意を感じます。
実質的には頑丈であることと、反して撓(しな)る柔らかさが、良いバランスで備わっている必要があります。長い歴史を通じて木製であることが、その理由です。昔アルミニウムのネックがありましたが、廃れることとなりました。カーボンは現在でも一部採用されていますが、それが木のように振動できることが生き残れている理由だろうと思います。
一般的な木製のネックについて考えれば、楽器の置かれる環境が、著しく状態に影響を与えます。ここ2週間くらいで季節が変わり、東京の、最高気温10℃以下の日々から、日中なら20℃以上まで上がるようになりました。私のフレットレス6弦ベースは、この期間でトラスロッドを90°以上戻さなくてはならないほど、逆反りとなりました。トラスロッドとは、ネック内部に埋められた金属製の棒で、ネック自体の保持力に加えて、弦の張力へ拮抗する力を可変できる機構です。暖かくなって木が膨張し、弦の張力に勝ってしまったのですね。
弦の張力とネックのバランスを最適に保つためのトラスロッドの調整は、そう考えれば、四季のある日本なら、通年ほったらかしというわけにはいきません。楽器選びの最大のポイントは、第一に、トラスロッドの調整をするために「ネックを外さなくていい」楽器であることです。
エレキベースは1950年前後のアメリカ人による発明ですが、大元が実はそうであったのです。それらは、トラスロッドのネジ部分を露出させるのにネックをボディから取り外す必要がありました。そしてその頃のデザインが今でも主流を成しています。本家のブランドや、そのコピーモデルが、トラディションを売りにして、あえて改善を施さずに市場へ出しています。それを選ぶのはエキスパートに限りますので、初心者は手を出さない方が無難です。
ネック端のボディと接触する面に、溝を作ってあり、工具が差し込めるようになっているものや、露出させたり、カバーで隠したりと色々ですが、ヘッド側にネジを持ってきている設計もあります。いずれにしても、ネック調整のために楽器本体の分解が必要なものは「欠陥商品」と言っても、決して大袈裟ではありませんので、忘れないでおいてください。
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