一歩先へ行く越境ECの多言語対応
BeeCruise株式会社デザイナーの伊東です。
noteの初投稿「越境ECをデザインする」の中で、「ローカライズの奥深さについて途中まで書いた」と書きましたが、書いているうちに次々に別の書きたいことが出てきてしまって、公開が遅れていました。
というわけで、今回は多言語対応、ローカライズのお話です。
i18n、 m17n、 l10n
現在、関連会社のtenso株式会社が運営する海外転送サービス「転送コム」では5つの言語に対応をしています。「日本語」「英語」「中国語(繁体字)」「中国語(簡体字)」「韓国語」です。代理購入サービス「Buyee」では今年に入ってから、更に「タイ語」「インドネシア語」「ドイツ語」「スペイン語」「ロシア語」にも追加対応しました。
最初に「多言語対応」と表現しましたが、通信用語では多言語化を表す言葉がいくつか存在します。
・internationalization(i18n)インターナショナライゼーション
ソフトウェアに様々な言語で利用するための設計や仕様などを組み込むこと
・multilingualization(m17n)マルチリンガライゼーション
利用者が自分の言語に合わせて言語を切り替えて利用できる状態にすること
・localization(l10n)ローカライゼーション
特定の製品またはサービスを特定の地域、市場に適応させること
このあたりは職種や業界によっても視点が異なるため、色々な説明の仕方があるかと思います。社内エンジニア・デザイナーでの会話では、多言語表示だけではなく決済通貨表示など「仕組み」としての会話から入ることが多く、「i18n」として話されることが多いです。ちなみに、この「i18n」という表記は「internationalization」の「i」と「n」の間に18文字入ることから「i18n」と略されています(1970年代か1980年代かにDECで作られた用法)。うーん、アメリカっぽい。
ファイル構成も、転送コムがスタートした2008年頃は言語の数だけテンプレートを用意していましたが、Buyeeでは2012年オープン当初から一つのテンプレートに対して各言語の設定ファイルを読み込む仕組みになっています。この仕様はまさにi18n対応と言えます。
翻訳するだけでは十分ではないローカライズ
仕組みとしては便利な設計が日々考えられていますが、この多言語化は実はとても難しいのです。意味がわかれば良いといった程度の単純な言語翻訳だけであれば、今の時代はブラウザでの言語翻訳がかなり優秀になっているので、それで間に合ってしまうのではないでしょうか。難しいのは、固有名詞や文脈によって意味が変化する言葉の扱い、サイト内で使われている単語の統一などで、これらは今でも対応に追われることが多いです。
弊社でも以前にファッションのカテゴリ名である「ワンピース」が中国語翻訳では「海賊王」になっていたことがありました。「え、なんで海賊王…? …あぁ!そっちのワンピース!??」と、思わず笑いそうになってしまいましたが、サービス運営側としては笑ってはいられません…。
皆さんも日本語対応している海外のサービスで似たような経験をしたことがあるかも知れません。
「うーん、おかしな日本語で書かれてるけど… 何とかわかるから大丈夫!」
と、ユーザーは致命的な問題でない限り頑張って汲み取る努力をしてしまいます。しかし、ユーザーに頑張ってもらうのは良いUXとは言えません。ユーザーが求めている「購入した日本の商品が、自宅まで(できる限りスムースに)届くこと」を実現できればエピソード的UXとしては良い体験だったかも知れませんが、使いやすさや信頼性というところでも、できる限り細やかな多言語対応を意識していかなければなりません。
細やかな配慮とローカライズがされている代表的な例として、ピクサー社制作のアニメーション映画『インサイド・ヘッド』がよく挙げられます。
・子供の嫌いな料理が、アメリカ版ではブロッコリー、日本版ではピーマンになっている
・スポーツの回想シーンで、アメリカ版ではホッケー、海外版ではサッカーになっている
・標識を指差して読むシーンで、アラビア語版ではキャラクターの動きも右から左に変えてある
素晴らしく細やかなローカライズです。映画やゲームの世界では、以前は役者のセリフを意訳するくらいだったローカライズが、今は映像自体にその国の最適な表現がしてあるのです。昔から映画を観ている人には少し違和感を覚えたり、オリジナルの表記だからこその臨場感というものがあるかも知れませんが、子供向けの吹き替え映画の中では、字幕を出したところで瞬時の理解を促すのは難しいと言えます。
中国語と日本語の表現の違い
このように、翻訳だけではない部分として「カルチャライズ」という面でも対応国を理解する必要があります。カルチャライズとは、その国ごとの文化(カルチャー)に合わせることです。直接的なカルチャライズではないかも知れませんが、文化だけではなく、その国ごとの表記の理解も必要になります。
例えば、日本国内でもキャンペーン企画で「20%OFF」のような表記を使うことが多いと思いますが、中国語で表記する場合は「8折」となります。もちろん20%OFFでも通じますが、中国語文化の中では「折」を使います。考え方としては日本の「掛け」と同じで、20%OFFは8掛け、8折となるのです。10%OFFを表記したくて間違えて1折としてしまうと大変です。90%OFFになってしまうので…。
余談ですが、デザインチームの台湾人デザイナーCさんに「95%OFFはどうなるの?」と聞いたところ、「あり得ないからその表現はないと思う」と言われましたw。無理やり表現すると「0.5折」になるようですね。
また別の話で、中国語の文章を見ていると句読点の使い方が日本と少し違うことに気付きます。日本語でも人によって読点を打つ場所はまちまちだったりするので、当然中国語でもそのような個人によるブレはあると思うのですが、サイト内に表記する言葉はできる限り統一させた方が良いでしょう。この辺りは日本語表記でも度々問題になります。
中国語の文章を見ていると文中に「、(読点)」と「,(カンマ)」が出てきます。日本語では文章の区切りに読点を使い、カンマは使わないので、使い方がよくわからず混同してしまいますが、明確な使い分けがあります。中国語では文章の区切りには「,(カンマ)」を使い、「、(読点)」は単語を並列して並べる時に使います。日本で単語を並べる際は読点もしくは「・(中黒)」を使う場合もあると思いますが、中国語で中黒の表現は使わないようです。
また、台湾や香港で使われる繁体字では句読点は左下の配置ではなく、真ん中に配置されます。これも日本語では見ない表現なので最初は戸惑う人が多いのではないでしょうか。
その他にも文中の「「」(鉤括弧)」や「※(米印)」は日本特有のものだったり、3点リードが中国では6点リードが一般的だったり、気をつけないといけないところがたくさんあります。また、ニュアンスという意味でも「!(感嘆符)」の使い方によっては威圧的な印象を与えてしまうこともあるようです。日本語と同じく漢字や句読点を使うことで中国語を例に出しましたが、もちろん英語を始め世界中の言葉の表記でこういったルールや伝わり方の違いがあるのです。
一歩先の最適化を目指して
tenso株式会社、BeeCruise株式会社のデザインチームでは、上記のような内容をドキュメントにまとめて、ナレッジとして共有し、新たに参画するデザイナーには最初に一読してもらうようにしています。それでもこれらの注意点をすべてカバーできているわけではありません。最終的にページに載せる文章を反映するのはデザイナーやエンジニアですが、翻訳を担当している社内のメンバーや外部の翻訳業者、文章をチェックする企画部署のメンバーなど、全員に共通の認識が必要になります。
さらに、ただ翻訳するだけではないもう一歩先の最適化を考えると、サービスに理解の深い各言語でのライティング能力があるメンバー、また統括するチームが必要になってくるでしょう。
先に述べたように、Buyeeは今年に入って対応言語が4言語 → 10言語へ増えました。転送コムもBuyeeも、まだまだ最適な多言語対応とは言えないところが多々ありますが、今後も充実した多言語対応、ローカライズを進めていきます!
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