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あなたには価値がある

ただいるだけであなたには価値がある。

それを言い続けてくれていたのは
母だ。

私には
3つ上の姉と359日上の兄がいる。
兄は4000gを超す体重で生まれたので、
359日後に3200g程で生まれた私は


「お母さん!もういきんじゃダメーー!!」


という、看護師さんの叫びの中
勢いよく出て来たらしい。

超がつくほどの安産を成し遂げた母は
時間が経つにつれ、
回復も早かったようで、


「あぁ、退屈、暇すぎる!!!」

と、ベッドに仰向けになり
両脚を天井に向かって上げて、
左右の脚を交互に動かして
エア自転車を走らせていたそうだ。


なんて強靭。


母から聞かされた私の出産秘話は、
壮大な出産のストーリーも何ひとつ無い。

本当に
何ひとつとして。

私は物心ついた頃、


へその緒の存在を知った。

へその緒ってね、お母さんのお腹の中にいる時の赤ちゃんは浮いている状態で、水中遊泳しながら、大きくなるために、唯一お母さんと繋がっている大切な栄養を受け取れるひもなんだよ。

と、どこかの誰かに聞かされたことがある。

木箱に入っていたり
大切にガーゼや
綿に包まれて大切にとってあるものなんだよと、奇跡の天然記念物化されているなんて!と、感動したあの日、


「お母さーん!
 私のへその緒、見てみたい!」

と、店番をする(時々引き出しに隠した麻雀ゲームに熱中する)母に駆け寄った。


「あーぁ、へその緒ね、、
無いのよ、、」

「へ?無いの?」

「無い。病院がね、間違って流しちゃったんだって。
だからねー、へその緒、無いのよ〜」


出産エピソードに輪をかけた軽さで
彼女は私にそう告げた。

おい、嘘だろ。


出産という命の誕生への感動の涙も、
母と子が繋がっていた証が、人の手でこの世界のどこかへ、排水の渦の中に消えてしまったことへの悲しみの涙もなかった。



なんだ、この軽さは。


なんなんだ、この人のあっけらかんとしたこの強さは。

その謎はベールに包まれたまま。
家族の誰も知る由もない。

知る由もない。


このあまりにも大きすぎる母の存在は
この2月に母が旅立ってから

益々巨大化されている。


時々だったり、頻繁にだったり、
私の脳内に母がやってくる。


母のあっけらかん人生を
綴っていたら


ついおっかしくなって、楽しくて、
にんまりして、気がついたら空を見上げていたりする。


何時間も何日も出産と向き合う事がなくとも、繋がっていた証がなかろうとも、私は母から

「人はただいるだけで価値がある」


と、生きた時間にたくさん教わって来た。

それさえわかっていれば良いと。


母が旅立って81日目。
それだけを伝え続けた母の生き様を
書き残しておきたくなった。


母と永遠に繋がっている私への証として。

世界は愛とユーモアでできているんだろうから。

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