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Mの物語
第6話 死
※少しショックなシーンがあるので、体調の優れない時は読むのを控えて頂ければと思います。
「大変なの!Mちゃん!すぐ来れる!?」お隣さんのH子さんから電話が来たのは出勤して間もない10時頃だった。お姑さんが線路沿いの用水路に横になっているを発見して通報したのだと言う。急いで駆けつけると、警察と消防の人達がいて取り調べを受けることになった。お姑さんはすぐに病院に運ばれたが、死亡が確認された。車体に頭をぶつけた後、用水路に転落したのだと想定された。
旦那は喪主だったから葬儀の準備やらお寺や親戚への連絡やらで、悲しむ間もないくらい忙しかった。お姑さんの妹弟や、親戚一同が久しぶりに我が家に集まり、人が亡くなった後とは思えないくらい陽気な宴会だった。皆が黒い喪服に身を包みながら笑ってお酒を飲んでいる様子を見てなぜかホッとした。大事な人が亡くなっても、生ある者達の日常は続いていく。
お別れを実感したのは火葬場での出来事だった。黒い棺桶に入った亡骸が、炎の中へと入っていく時、お姐さんが泣き叫んだ。「おかあさ〜ん!!!」棺桶にしがみつき子どものようにワンワン泣いている。あんな乱れたお姐さん、初めて見た。いつも周囲に気を配るお姐さんのことだから、ずっと堪えていたのだろう。つられて周囲も涙を流した。いつもは飄々としていて、人の死に直面しても「看護師なんかしてるともう、心臓に毛が生えてるのよ。」なんて言いのけてしまう強い彼女がだ。いくつになっても、どんなに憎まれていたとしても、彼女にとって大切な母であることに変わりないのだなと思った。彼女は幼い時から病気の父を見て看護師を志したという。私は棺桶の中で眠るお姑さんと、棺桶にしがみつくお姐さんの姿を見て、2人がこれまで歩んできた苦楽や絆を想った。そして、ここで初めて、あんなに私を苦しめてきたお姑さんとの別れを寂しく感じたのだった。