![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/148136128/rectangle_large_type_2_e4cc89b73db23d10736858bdd76518d5.png?width=1200)
神様のお導き
私たち夫婦は都心から離れた千葉の自宅を売り、
東京に引っ越そうとしていた。
都内で家を購入したかったのだが、
先に自宅が売れてしまい、引き渡し期限が迫っていたので
ひとまず住める賃貸を探さなくてはならなかった。
希望は夫婦2人+老犬(中型犬)が住める2LDK程度で
家賃は20万円以内。
中型犬と住める賃貸はあまり多くなく
選択肢としての物件は2つあった。
初めに内覧に行った学芸大学駅から徒歩14分のマンションは
まだリフォーム中で、西向きだったから少し暗い感じがした。
でも2階の角で、「結構いいかも」と思って、
物件をあとにした。
外に出ると、誰かが怒鳴っていた。
「こんなところに車を停めるな!」
マンションの隣の家のおじさんが怒鳴っている。
私道だから勝手に停めるな、とのこと。
こんな人が隣に住んでいるなんて、
一発でこの物件が嫌になって選択肢から外した。
***********
次に見に行ったのは、自由が丘駅から徒歩4分。
二世帯住宅の子世帯のほうを貸してくれるという物件だった。
窓を開けると、大家さんの洗濯物が手の届く範囲にある。
ここが良いとか悪いとか、
自宅の引き渡し期限が迫っている私たちに選択の余地はない。
もうここしかない、と決めて入居を申し込んだ。
営業マンが申し込みの電話を管理会社に入れると、
なんと先に申し込みが入ったとのこと。
仕方がないので、エントランスの階段を下り、
地下に位置するような場所に部屋があって
日当たりが悪そうだからと
選択肢から外した上野毛駅の古いマンションを
慌てて見に行った。
上野毛のマンションはやっぱり日当たりが悪かったが、
窓から見える景色は木々が広がっていて、
これまで暮らしていた千葉の自宅を思わせた。
木々の隙間からは
二子玉川のタワーマンションや夕日が透けて見える。
「ここだ」と思った。
それは夫も同じだった。
帰り道、営業マンが運転しながら言った。
「普通、この値段で上野毛には住めないから、
ボーナス期間ですね」
家は自分たちで選んでいるつもりだったけれど、
神様のお導きだったような気がしている。
ここは自宅を購入するまでの仮住まい。
家を買うなら、
運命にあまり逆らわないほうが良いのではないかと
思い始めている。