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神様のお導き

私たち夫婦は都心から離れた千葉の自宅を売り、
東京に引っ越そうとしていた。

都内で家を購入したかったのだが、
先に自宅が売れてしまい、引き渡し期限が迫っていたので
ひとまず住める賃貸を探さなくてはならなかった。

希望は夫婦2人+老犬(中型犬)が住める2LDK程度で
家賃は20万円以内。
中型犬と住める賃貸はあまり多くなく
選択肢としての物件は2つあった。

初めに内覧に行った学芸大学駅から徒歩14分のマンションは
まだリフォーム中で、西向きだったから少し暗い感じがした。
でも2階の角で、「結構いいかも」と思って、
物件をあとにした。

外に出ると、誰かが怒鳴っていた。
「こんなところに車を停めるな!」
マンションの隣の家のおじさんが怒鳴っている。
私道だから勝手に停めるな、とのこと。

こんな人が隣に住んでいるなんて、
一発でこの物件が嫌になって選択肢から外した。

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次に見に行ったのは、自由が丘駅から徒歩4分。
二世帯住宅の子世帯のほうを貸してくれるという物件だった。

窓を開けると、大家さんの洗濯物が手の届く範囲にある。
ここが良いとか悪いとか、
自宅の引き渡し期限が迫っている私たちに選択の余地はない。
もうここしかない、と決めて入居を申し込んだ。

営業マンが申し込みの電話を管理会社に入れると、
なんと先に申し込みが入ったとのこと。

仕方がないので、エントランスの階段を下り、
地下に位置するような場所に部屋があって
日当たりが悪そうだからと
選択肢から外した上野毛駅の古いマンションを
慌てて見に行った。

上野毛のマンションはやっぱり日当たりが悪かったが、
窓から見える景色は木々が広がっていて、
これまで暮らしていた千葉の自宅を思わせた。

木々の隙間からは
二子玉川のタワーマンションや夕日が透けて見える。

「ここだ」と思った。
それは夫も同じだった。

帰り道、営業マンが運転しながら言った。
「普通、この値段で上野毛には住めないから、
ボーナス期間ですね」

家は自分たちで選んでいるつもりだったけれど、
神様のお導きだったような気がしている。

ここは自宅を購入するまでの仮住まい。
家を買うなら、
運命にあまり逆らわないほうが良いのではないかと
思い始めている。





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