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自立と恩返し
去年の冬、雪かきをしながら
夫が「この家は大きすぎる」と言い出した。
わたしの家は敷地75坪、公園前に立地する
4SLDKの一戸建てだ。
家の大きな窓から見える木々は
四季を知らせてくれるが
それを鑑賞するには日々の落ち葉掃除や
広範囲の雪かきがもれなくついてくる。
自宅には芝生の庭もあるので、
「家にかける労力が多すぎる」と
夫は老後を見据え始めた。
ここには家族4人で20年ほど住んだが
娘2人は社会人になって都心に移り住み
この家には、もうわたしたち夫婦と老犬しかいない。
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自宅は千葉県のモノレールが走っている新興住宅地にある。
駅前には医療モールや大型ショッピングセンター、
街中には公園や図書館があり、
都心には遠いが
この街の中で生活の一通りが完結できる便利な街だ。
ずっとここに住み、
いずれ娘たちが孫を連れて帰ってくる将来をイメージしていたが
娘にそんな予定はまったくない。
わたしたち夫婦の目標は、
娘たちに迷惑をかけない老後を送ること。
それなのに病院や買い物に車を使うこの家は
「理想的ではない」ということに気がついた。
どこに居をかまえるか、すぐに検討し始め、
年明けには、自宅の売却も同時進行した。
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次の住まいは、夫の職場が赤羽だから、
そこにアクセスしやすいことが条件。
不動産の専門家によると、
買うなら売ることを考えて
やっぱり「都心」が良いらしい。
具体的に言うと……
「環七や環八の内側」。
しかしそのエリアはとても高い。
わたしは一生賃貸でもいいかな、と思っていたが、
夫が「それは困る、死んでも死にきれない」と言う。
そうこう悩んでいるうちに、
自宅は売れてしまい、
わたしたちはこの家を出ていかなくては
ならなくなった。
わたしはこれまで転職や病気をして
たくさん夫に助けてもらってきた。
夫はというと
片道2時間電車に揺られる人生を何十年も続けている。
実のところ、この年齢で身の回りを整理して
慣れ親しんだこの地を離れることに
自信はない。
ただ、これからは夫も老いてくる。
「都心に引っ越す」
強い気持ちを持って、駅や病院、スーパーに歩ける家を
探さなければならない。
今度はわたしが夫に恩を返す番だ。