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スナックかすがい in 名古屋 第四夜「君はなぜつくるのか 〜料理家と陶芸家が向き合う相手と未来」体験記

Text by 真下 智子|Satoko Mashimo
Photo by 野村 優 | Yu Nomura
Beer by キリンビール|Kirin Brewery Company, Limited

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満席の記録更新!

名古屋人なら誰でも知っている「グリーン豆」。子どもの頃は、甘くないグリーン豆より、衣がほんのり甘い「いかピーナ」が好きだった。今は、子どもがお気に入りの「つぶグミ」がグリーン豆と一緒にお菓子ボックスに常備されている。そういえば、長年一緒に仕事をしているディレクター女史は、カバンにいつも「花のくちづけ」を忍ばせていた。

これらはすべて春日井製菓の製品。この体験記を書かせてもらうようになって4ヶ月ほどだが、あれもこれも!?実は春日井製菓の製品だったんだ!という発見がいまだ続いている。未知なる新商品も登場していたり。

そんな春日井製菓が昨年の晩秋より、毎月一回、太っ腹で粋なスナックをプロデュースしている。それが「スナックかすがい」だ。

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何が太っ腹かって。グリーン豆が食べ放題!キリンビールが飲み放題!で、お会計は1,000円ポッキリ!スナックだから、もちろんイカしたマスターがいる。聞き上手でありながら、ポンポンと飛び出す言葉が実に軽妙。マスターの話術に惹かれて訪れるリピーターも増えているという噂にも納得だ。
そんなマスター豆彦さんがおもてなしをする相手は、分野の異なる、誰もがちょっと気になるお二人だ。会ってみたかった。どんな方なのか知りたかった。そんな好奇心くすぐるお二人の話が聞けるという、実に粋なオトナの夜なのだ。

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このスナックかすがいは、昨年の11月に名古屋での第1夜を開催してから、今回が4夜目。会場となるのは、「なごのキャンパス」。ここは廃校となった旧那古野小学校を活用し、「次の100年を育てる学校」をコンセプトに、起業家やベンチャーの育成拠点として2019年に誕生した注目の施設だ。その元職員室が月に1度だけスナックに様変わりする。客人の定員は100名。ほぼクチコミで広がり、なんと初回から4回連続の満員御礼!話題のスポットを覗いてみたい人や人が集まっているところが好きな人、マスターに会いに来る人、単にビールが飲みたい人など、目的も様々な100人で、今宵もスナックは大盛況だ。

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まずは、マスター豆彦さんの掛け声に合わせ、乾杯でオープン!!

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続いてマスターの、「スナックかすがい」の店舗紹介からスタート。
その前に、春日井製菓はなぜ春日井製菓なのかという話から。
社名の由来は、創業家が春日井さんだったから。毎回へぇーという声が多い。意外と本社が春日井市にあるからと思っている人が多いようだ。
ちなみに本社は名古屋市にあり、春日井市には工場がある。

そして、スナックかすがいの「かすがい」は、もちろん春日井製菓の「かすがい」でもあるが、他にも大事な意味を持つ。
それが、「子は鎹」のかすがいであり、「鎹」は建築で材木と材木をつなぎと合わせるための金具のことを指す。
つまり、このスナックで、知らない人同士がつながり合う=かすがう。
そんな意味を込めてのネーミングなのだ。なかなか深い。

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そして、そんなスナックをサポートしてくれるのが、キリンビールさんや、静岡と朝宮のお茶農家さん、第一夜に登壇した高田広太郎さんが輸入販売するエナジードリンク「28 BLACK」。さらに、今回はおつまみも豪華!名古屋人にはお馴染み、大和屋守口漬総本家さんが、この夜のためにと、守口漬とチーズ味醂粕漬とチーズ味噌粕漬を協賛してくださった。
ちなみにこのチーズ、どちらもあまりにも美味しくて、後日店舗まで買いに行った。ビールはもちろん、ワインにもピッタリ!

さらにさらに、今回の登壇者のおひとり、料理研究家の井上亜希子さんによる、今宵のためのオリジナルおつまみ「グリーン祭り」(※作り方は後述)と、充実すぎる、嬉しすぎるラインナップだ。
しつこいが、これで1,000円ポッキリ!そりゃ顔もニヤけてしまうわけだ。

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お茶協賛

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さて、ビールを片手に、おつまみに舌鼓をポンポンと打ち、首からぶら下がったグリーン豆をポリポリ食べていると、いよいよ今夜のゲストの紹介へ。

今回は、『食』を軸に、料理研究家の井上亜希子さんと、陶芸家の鯉江明さんだ。

ご実家が漢方薬局を営んでいるという井上さんは、「薬食同源」の考え方に基づき、自宅での料理教室の他、東邦ガスの料理教室や、中京テレビの番組「キャッチ」の中で「食卓のひみつ」を月に1度担当。おもに家庭料理やお酒に合うおつまみを教えている。
驚くのは持っていらっしゃる資格の数!栄養士、調理技術指導員、食生活アドバイザー、フードアナリスト、エコ・クッキングナビゲーター、豆腐マイスター、ナチュラルフードコーディネーター、東洋薬膳茶アドバイザーと実に多彩!
個人的には、井上さんが毎日インスタグラムにアップされている「パパ弁当」がお気に入り。とにかく彩りが美しい。どうしても茶系になってしまうお弁当づくりの救世主だ。

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一方の陶芸家・鯉江明さんは、日本六古窯のひとつ、常滑で活躍する陶芸家。
世界的にもその名が知られている陶芸家、鯉江良二さんの次男で、そもそも陶芸にはまったく興味がなく、保育士への道を歩もうとしていたという異色の作家・明さん。
たまたま父が考えた「天竺無鉄砲窯」を作る際、力仕事を手伝ったことをきっかけに、陶芸に出会い、陶芸家への道を歩み始めた。今もこの「無鉄砲窯」に薪を焚べて器を焼いている。
実は半年ほど前に、常滑焼の急須についての取材で常滑を訪れた際、一目惚れして我が家に連れて帰ってきたのが、偶然にも鯉江さんのコーヒーカップだった。薪窯で焼かれた、少しざらついた感触と、持った時の手の中の収まり具合が絶妙。このカップを作ったのは、どんな陶芸家さんなんだろうと思っていただけに、お会いするのがとにかく楽しみだった。

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目の前の椅子に座るお二人は、プロフィールから想像していた方とはまったく違った。お二人ともふんわりほっこり。どちらかと言うと、これまでのゲストがグイグイと道を切り拓いていくタイプの方が多かったせいか、ちょっと控えめな印象だ。

マスター豆彦さんからの質問にも、あくまでもマイペースに穏やかな口調で答えていくお二人。時にそのテンポに癒され、時にその笑顔に思わずつられて笑ってしまう。そんな肩の力を抜いて、時間の流れに身を委ねる感覚が、何とも心地良い。


毎日の食卓に「薬食同源」を

まずは井上さんから。
「Akko’s kitchin」を主宰。ん?スペルミス?

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井上:合っていますよ。ちょっと紛らわしいんですけど、i が二つ入っています。キッチンは愛情を込めて料理を作る場所ですから、「愛がたっぷり」という意味を込めて付けました。

自宅で15名ほどの料理教室を開いている他、東邦ガスの料理教室では、井上さんが大好きという、お酒に合うおつまみを教える、自称“趣味の講座”も持っている。また中京テレビの夕方の番組「キャッチ」の中の「食卓のひみつ」というコーナーでは、身近な食材を使った家庭料理を紹介している。

テレビに出ている井上さんの写真を見て、豆彦さんが早速いつものジャブ!

豆彦:これアッコさん普段着じゃないですか?テレビに出るのに、と思ったんですけど(笑)

井上:確かに、普段着に近いですね(笑)。家庭料理ですから、おうちで作っているような感じにしています。でも作り方に、2、3個の秘密を入れているんです。

そんな井上さんに、豆彦さんがこの日のためにとお願いしていたのが、グリーン豆を使った美味しいおつまみ。それが、ブロッコリーとグリーン豆の緑が鮮やかな、豆彦さん命名の「グリーン祭り」だ。作り方はいたって簡単!

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<作り方>
ブロッコリーを茹でて「おか上げ」し、ジャコとグリーン豆とごま油と塩、胡椒で合えるだけ!たったこれだけ!ブロッコリーの甘さとグリーン豆とじゃこの塩加減が絶妙。そこにごま油の香りが加わり、食感も香りも楽しめる。ビールと一緒にいくらでも食べられそうな、いくら食べても罪悪感がなさそうなおつまみで、リピート確定だ。

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ところで「おか上げ」って?

井上:茹でた物を水につけず、ざるに上げることです。水につけずに水気を切っておいて冷ますことです。

豆彦:これはどんな飲み物とのペアリングを想像されていますか?

井上:今日はキリンさんのビールが出るってお聞きしましたので。

豆彦:「一番搾り」にぴったり合う!?

井上:はい。「一番搾り」用ですね(笑)

と、今日のおつまみの話で盛り上がったところで、井上さんの料理の根底にあるものへと話が続いていく。

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井上:実家が漢方薬局を営んでいて、漢方薬の商材がいろいろ置いてあります。漢方薬の原料となるのが生薬ですが、生薬は自然のものなんです。漢方では、これを口にすることで、病気を防ぐと言われています。いわゆる「未病」ですが、薬膳には病気にならないようにしようという考え方があります。それが「薬食同源」で、私の根本的な食に対する考え方です。

豆彦:やっぱり、お家が漢方薬局屋さんだと、食卓は毎回薬膳料理だったりするんですか?

井上:いえいえ。母は料理が苦手だったので、薬膳というものではありませんでした。ただ父の考え方で、ご飯と味噌汁とお漬物と煮物だったり、魚だったりが、必ず食卓に出ていました。小さい時は嫌だったんですけどね。そればかりだったので。でも、今思えば、体を作るにあたって基本的かつ古来の食べ物ですから、こういう食べ物で育ってよかったと思いますね。

豆彦:さっきの素敵で華やかな料理のインスタグラムを見ていると、「薬食同源の薬膳の人」という印象はまったくないですね。ところで作り方に「秘密」が入っているということでしたが。

井上:そうなんです。あまり前面的に出さないようにしています。マクロビオティックとか薬膳とかいろいろありますが、私は基本的にはどれもいいところはあるけど、完璧ということはないと思っているので、いいとこ取りをしたいなと。なので、マクロビオティックではお肉や卵がいけないとか言われますけど、やっぱり体を作るにはタンパク質は必要ですから、食べ過ぎないようにしましょうと言っています。
私の料理を見て、どこが薬膳なの?と思われがちなんですけど、季節の食材をとるということも、実は薬膳の考え方の一つですし、大事な要素だったりするんです。

豆彦:要するに、薬膳の入口みたいなことを教えていらっしゃる?

井上:そうですね。薬膳と言うと構えてしまう方が多いと思うんですが、そうではなくて、普段の食事から、スーパーで売っている物でもとれますよということを伝える入口ですね。確かに。

豆彦さんとの軽快な会話のキャッチボールで、どんどん話に引き込まれていく。井上さんの穏やかな語り口が耳に優しい。ここで再び、豆彦さんから鋭いジャブ!

豆彦:食べ過ぎないとか彩りとかって、普通にみんな意識していることで、それが薬膳というか、薬食同源だ!みたいには思わないんじゃないですか?

井上:その通りです。薬食同源とは、実は和食ではすでに根付いているんですね。たとえばお豆腐。夏の冷奴に何を乗せますか?多分生姜を擂ったものとネギを乗せますよね。
豆腐は陰性の食べ物で体を冷やすんです。なので、夏に食べると体は自然に冷えるからいいんですけど、あまり冷えすぎてしまうといけないので、そこで生姜を擂ったものを入れると中性に戻るんです。

なるほど。説得力のある答えに、観客の皆さんも大きく頷く。
幼い頃からの食事から、薬食同源の根本的な意味を体で感じ取っていた井上さん。決して小難しいものではなく、普段の料理に簡単に取り入れられるものであることを、料理教室を通じて伝えているという。


レンタルヤギのいる工房

続いてのゲストは鯉江明さん。
急須の生産が全国1位の町、常滑で活躍する陶芸家。
鯉江さんの作品を作り出している「無鉄砲窯」という迫力ある!?ネーミングとは到底似つかわしくない、大らかで牧歌的な方。力強さを感じさせる作品とのギャップに、話を聞いてみたいという思いが強くなる。

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2,500坪もある山の中で作品を作っている鯉江さん。ペットは“レンタルヤギ”5頭!?牧歌的な雰囲気はそのせい?と妙に納得してしまった。

鯉江:山の手入れが本当に大変で。焼き物をやればやるほど手が回らなくなるんです。そういえばレンタルヤギってあるよね。という話をしていたら、知り合いから回ってきて。

豆彦:レンタルヤギってそんなに普通に回ってくるものですか?

鯉江:今はあるんですよ。

豆彦:え!?常滑ではレンタルヤギって普通なんですか?

常滑から来た観客さん:初めて聞きました。

豆彦:よかった。僕も初めて聞いたからびっくりしました(笑)。このヤギさんたちが食べてくれるから草刈りをする必要がないというわけですね。

鯉江:そうですね。

豆彦:すごい!自然の循環ですね。

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話題は鯉江さんの作品の元となる土の話へ。

鯉江:山から削り出してきた土をバケツの中で水に溶かして、その後、土をフルイにかけて木の根などを取り除き、粒子を整えた後、この鉢に入れて水を吸わせるというところから始まります。

豆彦:陶芸体験の記憶では、滑らかな粘土がビニールに包まれていて、そのビニールを剥がして土を練る、みたいな感じだったんですけど。鯉江さんは、山を掘って、土を運んで、横にヤギもいて。水を濾して沈殿させてって、縄文人みたいですよね。

鯉江:そうですね(笑)

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言葉少なげで、にこやかに答える鯉江さん。少年のような笑顔からも、人柄が滲み出ている。豆彦さんとの掛け合いに、観客も思わずクスッと笑みを漏らす。マスターが、常滑の土について質問すると、鯉江さんが突然饒舌に。

鯉江:知多半島近辺は粒子の細かい土なんです。常滑の土は、もともと瀬戸とか多治見の山から何十万年という月日をかけて風化されて流れてきたものなので、粒子が細かいんです。ですから瀬戸とか多治見の土は粒子が粗いんです。知多半島内だったら、だいたいどこを採っても粘土が出てきますね。

豆彦:常滑焼が生まれたというのは、その土地の恩恵があるっていうことなんですね。

鯉江:そうですね。

豆彦さんは、ここで鯉江さんのお父様が高名な陶芸家であることや、お父様とは違った独自の作風に触れ、会場に持ってきた実際の作品を紹介する。
どこででも買える飴が、鯉江さんの器を使うと良家の飴みたいになる、との発言に、観客の皆さんからは、「見える見える!」と声が飛んだ。

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お二人の簡単な紹介が終わると、恒例の「かすがいタイム」がスタート!

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性別も年齢も職業も趣味も違う方たちが、同じ場所に集まったという奇跡。このご縁を大切に、かすがってもらおうという時間だ。名刺交換をしたり、おつまみに出た守口大根の話をしたり、アルコールがかなり入っている人も多いようで、みなさん喋る喋る!
あっという間の2分間。以前、このかすがいタイムが縁で、飲み仲間になった方もいるとか。まさに行きつけのスナックでできた友人みたいなものかも。

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ものづくりの先にある「鎹」

さて、ここからいよいよ本題へ。
今回のテーマ「君はなぜつくるのか」について、事前に観客の皆さんから寄せられた質問をもとに、豆彦さんがお二人に聞いていく。

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豆彦:鯉江さん、ズバリお聞きします。鯉江さんは本当は何をつくっていますか?器に見えて、その器の先には何があるのでしょうか?

鯉江:ちょうど、今朝のNHKの朝ドラのシーンが、まさにそれかなと。

NHKの朝ドラ「スカーレット 」は滋賀県・信楽の陶芸家が主人公。実在する女性陶芸家がモデルになっている。半年にわたる番組なので、ちょっとというか、かなり端折らせてもらうと、自らが作った穴窯で作品を作っていくストーリーだ。
ちょうどこの日は、このドラマのクライマックスとも言える回だった。主人公・喜美子が、失敗を繰り返していた窯だきに、7回目のチャレンジ。危険が伴うからと、周囲の大反対にあいながらも、高温になりすぎて火を噴く窯に、薪を焚べる手を止めない貴美子の決死の姿が描かれた。

鯉江:あの場面はすごかったです。実際、細かなところまでよく研究して撮影されていました。そうそうこれこれ!ってちょっと感動してしまいました。ちょっと主人公と重なる自分があったんだと思うんですけど、できあがった物自体よりも、その行程の興奮とか楽しさみたいなものを誰かに伝えられたらいいなと思っていつも作っています。
僕の場合は、作っているというよりは、焼いていますというか、掘っていますというか。作るという言葉は一番後になるんです。

豆彦:作るが一番後…?

鯉江:窯を建てるのが最初の仕事でした。その後、ちょうど中部国際空港の建設にあたって行われた発掘調査に参加したんです。そこで1,000年前ぐらいに作られた物を見たんです。当時は明らかに道具を使っていませんから、窯も器も全部手作りなんですよ。手の指跡がついていたり。それを見て、これなら自分にもできるんじゃないかと思って、自分で土を掘り出したんです。なので、結果として作っていることになっているんですけど、堀った土を、たまたま僕という人間が介入して焼いたら、器や皿ができた。という感覚で、あまり「作っている」という意識はないんです。

その奥にあるものですか?僕の場合は、自然にあるものを削り取らせてもらって、使わせてもらっているんですけど、こうした自然にある物との出合いもそうですし、それが最終的に作品という商品になれば、使う人ともつながれるわけで。そういう人間関係とかでしょうかね。

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作品を通じて、予期しなかったような出会いが生まれる。人と人とのつながりが生まれていたことを知ると、モチベーションが上がると語る鯉江さんにとって、「かすがう器」なのだ。

そういえば、鯉江さんはもともと保育士を目指していた。陶芸とはまったく違う世界だが、そことのつながりは?との質問にニッコリ微笑みながら答える。

鯉江:自分が子どもの頃は、物を作って暮らす人たちはそれほど裕福ではなくて、うちもそうでした。何家族かが一緒に仕事をしながら生活していたような感じで、たくさんの人がいて、自宅が保育園みたいでした。工場の中が遊び場でしたし、それが楽しかったんです。だから、今度は子どもたちに、自分が体験した楽しい時間を味わってほしいなと。そう思った時に、保育士を目指そうと思いました。

豆彦:今度は自分が、というわけですね。でも今は陶芸の道に。

鯉江:焼き物とかものづくりって、技術的なことの他に、教育的な要素もあると思うんです。子供たちに陶芸を教えたり、高齢者の方や障がいのある方には、陶芸をリハビリの一貫として教えることがあったり。そこから教育と陶芸が細い糸のようにつながって、その糸を手繰り寄せて、焼き物の業界に入り込んだという感じです。
そもそも陶芸家である父から、後を継いで陶芸家になれと言われたことはまったくなく、父が「天竺無鉄砲窯」をつくる時に手伝ってくれと。
それで体力には自信があった自分が力仕事を担当しました。その時に焼き物を通じて、施設や学校に出入りできることに気づき、目指していた教育の道と陶芸の道がリンクしたんです。

陶芸家の中には、引きこもって作品を作る職人もいるが、引きこもるのではなく、外に出て行って人と関わることができると分かり、陶芸の道を進もうという覚悟ができたという。

「では、今やっていることで何がおもしろいですか?」と豆彦マスターの深掘りが止まらない。

鯉江:何がおもしろいって、すごくおもしろいんですけど、その中のひとつは、自然に太刀打ちできないところにおもしろさを感じています。

豆彦:自然に太刀打ちできないって?陶芸って、掘り出してきた土をこねて、自分の力で自分の思うようにできるじゃないですか。

鯉江:いやあ、太刀打ちできないですね。終わりがないというか。こちらが学ぶことばかりというか。こちらが一つ気づくと、土や窯の火も、次のレベルのことを教えてくれる。その積み重ねなので、抜け出せなくなるんですね。

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続いて井上さんへも同じ質問を。何をつくっているのか?

井上:料理は作っているんですけど、本当に作りたいものは、多分、かっこよく言ってしまえば、絆みたいな物なのかなって。月並みかもしれませんが。たとえば家族の絆だったり。先ほど紹介したような料理を作って、知ってもらって、美味しかったと思った方が、お家に帰って家族にも食べさせたいなと作ってみる。そういうことができたらすごく幸せかなと思うんです。

豆彦:絆を作っているんですね。では、次の質問は井上さんからお答えください。


見て、触れて、やってみる

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井上:いろいろな人の料理を見ることがスキルアップにつながるんです。他にも器もどういった物を使っているかとか、色合いとか、そんなところを見ると勉強になりますね。

豆彦:見るだけ?

井上:見て、真似してみることも大事だと思っています。料理にも流行りってあるんです。例えば、少し前、塩麹が流行りましたけど、なぜそんなに流行っているのかをまず調べます。メディアやSNS、他の先生に聞いたり、本でも調べます。とりあえず、何が流行っているかということを調べて、どうして流行っているのかなって実験することもあります。家に帰って真似してみて、私だったらこうするけどなあって、あれこれやっています。

豆彦:見るだけではなくて、まず自分でやってみるという段階。さらにやってみた後に、私だったらと先に行こうとしているところがいいですね。月に1回、テレビで新しいレシピを紹介しなくちゃいけないですもんね。

井上:料理は日進月歩の世界だと思っていますので。ただ古い物はやっぱり大事にしないといけないんです。お味噌をはじめ、日本の調味料はすばらしいので、そこを基準として何か新しい物を生み出したいということは常に考えています。

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昔から伝わっているものは、すごくいいと井上さん。いいものには必ず理由がある。それを超えるものがないから、残っている。ただ、そこに何か新しい物を融合して、新たな化学反応を起こす可能性を、井上さんは模索しているようだ。

一方の鯉江さん。もっといい物に近づくために、やはり見たり触れたりすることを大事にしていると。おもに博物館や資料館に行くことが多いと語り、再び鯉江さん語録が飛び出す。

鯉江:思い切って山に入ってみたりもしますね。

豆彦:山に入る?

鯉江:自分の山以外の、土のありそうな山に行くということです。どうしてもそこの土が触りたい、焼いてみたいと思ったら、地主さんにお願いすることもあります。たとえば、太古の時代に、そこが人間が生活していた場所だとわかったら、そこの土を触ってみたいなと思うんです。

豆彦:ちょっと考古学者っぽい。

鯉江:
そうなっちゃう時もありますね。おそらく大昔の人になりきるというか、憧れがあるんですね。その時のことを知りたいという。しかも同じ条件で知りたいので、機械じゃなくて手で掘るんです。

鯉江さんが、今なお自ら土を採ってきて濾し、薪窯で焼くという昔ながらのスタイルを続けている理由がなんとなくわかった気がした。常に原点を見つめている鯉江さんならではのこだわりの部分なんだと。


心からの笑顔を引き出したい

続いての質問へ。

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絆を作っていると答えた井上さん。この質問に対しては、料理を教えた方の家族の顔をイメージしていると。

井上:ほっとするような顔ですかね。家庭料理って、すべてが手作りでなければならないというわけでもありません。ただ、一品でも自分の手で作っていただけたら、家族が喜ぶのではないかなと。そんな料理を前にした時の、ほっとした顔というか、安心した顔を思い浮かべています。
 パーティで、すごい豪華な料理を出した時には、パッ!と華やかな顔になると思うんですけど、そうではなくて、普段の「おいしいなあ」って思わず呟いてしまう時の優しい顔ですかね。

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一方の鯉江さんは、自分の器を買って使ってくれる人の顔だと。当たり前のようだが、そう思えるようになったのは、実は最近のことだとか。

鯉江:最初は、本当に自己満足とか自己研鑽のためだけに作っていたんです。それが、最近になって、だんだん使ってくれる人の顔がつながってきた感じなんです。そういえば、こんな器は、あの人が好きだと言っていたなと。そういう人の顔が浮かんでくることが、少しずつ増えてきました。
理想は、気付いたらこれ使ってるよね、という感じになるといいなと思っています。僕の顔でも、物の形でもなくて、触った時とか口をつけた時に本能的に「いいな」って思ってもらえるようなものです。

そのまま続けて鯉江さんが答えていく。

評価は自分がするものではない

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鯉江:僕の場合は、土を掘ってきて、土を作って、自分で成形して、焼いて、焼けた物を窯から出すという一連の工程があるんですけど、それぞれの工程で、「あ!いい物ができているな!」って思う瞬間があるんです。でも次の瞬間、じゃあこっちの土だったらとか、ここをもっと変えてみたらどうだったとか、分析に入っていっちゃうんです。なので一つひとつの完成品をじっくり見つめて自分で評価するということはないんです。

実は、土を掘ってきた時に、この土には触りたくないし、この土で焼きたくないというものもあるんです。ただ、そう思ったという事実も、焼いて製品にしないと相手には伝わらないので作ります。焼いてみたらまた違うものになったということももちろんありますしね。こういう意外性みたいなものを、これからは増やしていかないといけないと思っています。そうでないと、良い物とか自分の好きな物ができてこないんじゃないかなと。

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知らない山にもどんどん入っていき、土を掘って、ちょっと自分には合わないなと思っても焼いてみる。実はそこから新しい発見に出会えるかもしれない。鯉江さんが「自然には太刀打ちできない。だからおもしろくて抜け出せない」と語っていた意味を、さらに深く理解できたような気がした。

井上:私はいい材料でめちゃくちゃおいしくできて、きれいに盛り付けができたと思っても、見る方、食べる方に「そんなことないよ」って言われたら、それはそんなことないわけで。

豆彦:それって、「はいどうぞご自由に」と突き放すのか、「なんでわかってもらえないんだろう?」という悔しさを感じるのか、どっちですか?

井上:半々ですね。だけど、事実として受け止めて、「まだまだなのかな」という反省ももちろんします。

それなら!と深掘り豆彦さんの質問が飛ぶ。

豆彦:合格ってどこですか?

井上:相手が喜んでくれて、美味しそうだなって言ってもらえることが合格かなと思いますね。

さらりと答える井上さん。多くの資格を持ち、あちこちの料理教室で多くの生徒さんたちに日々料理を教え、テレビにも出演する華やかな印象とは違い、普通の主婦感覚を決してぶらすことなく、それでいて裏での他分野に及ぶ研究は怠らない。
薬膳のウンチクを語るわけでもなく、「美味しそうだな」という言葉を一番大切にしている。そんな羨ましいほどのしなやかな女性だ。

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いよいよ、この日も終盤を迎え、観客席からの質問タイムに。
スナックかすがいでの質問タイムのルールは下の名前を言ってから質問をすること。

まずはシゲちゃんから。

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薬食同源という言葉がありましたが、私がよく聞くのは「医食同源」です。その違いを教えていただければと思います。

井上:
最近は、薬食ではなく、医食同源の方がよく聞かれると思います。似たようなものではあるとは思いますけど、もともとは薬食同源が先です。薬ではなく食で療養していくという考え方だったのですが、今は医療も発達しているので、病気になってしまったら医療の力も借りていかないといけないので、両方融合して治していくという考え方が広まってきたのではないかと。私の意見ですけど。

続いては、ヨッシーさん。

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共働きで、休みにはよく料理をするんですが、こんなものを作りたいなと思って作って、最後に味見をして、よしよし想像通りのものができたと思って、家族に出すんですが、いざ家族と一緒に食べてみると、自分自身の満足度がめちゃくちゃ低いんですよ。どう克服すればいいんでしょうか?

井上:そうですね。正直、自分の満足度は後回しですね。家族が喜んでいる顔が見えると、それでよかったなと思うんです。もちろん我が家の場合は、私の試作料理がほとんどになってしまうので、余計に家族の反応が気になるのかもしれませんけど。

ヨッシーさん:そうですね。子どもの反応を参考にするようにします。自分の満足度が低いので、妻の「美味しかったよ」という言葉が嫌味にしか聞こえてこなくて(笑)。

次はジンノさん。

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料理が好きで、今は名古屋メシ専門の料理研究家をやっているんですが、料理は絶対に器に盛らないといけないですよね。器ってすごく大事なんです。陶芸家さんからみて、ご自身が作った器は、こういう風に使ってほしいとか、こうしてほしくない、というようなことってあるんでしょうか?

鯉江:ちょっと難しい質問ですけど、確かにそういう思いってあるんです。だから本来なら、作った人がもっと使い方とか細かく説明したらいいと思うんですけど。そもそもそんなことを作り手はしませんからね。
ですから、「器の声を聞いてほしい」ということですね。

豆彦:いいお答え。メモしてくださいよ!(笑)

鯉江:一応考えているんです。わかりやすいところでいくと、粒子の粗い土は水を通すので、そういうものは汁物の入らないお皿に使います。焼き締まる土は、湯呑みやとっくりに使ったり。素材の選択をしています。ただ、そこまで説明するのは野暮というかなんというか。だから器の声を聞いていただきたいなと。

最後はやっちゃん。

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音楽を制作する会社にいます。お二人に伺いたいのですが、作り手側のメッセージと受け手側の感じ方の答え合わせはどこでされていますか?どんな言葉を聞くと嬉しいですか?

豆彦:やっちゃんさんは?

― 僕はイメージしていた通りだよって言われると、嬉しいですね。

鯉江:嬉しかった言葉ですよね?本当はすごくありがたいことなんですけど、「毎日使っています」と言われて嬉しいかと聞かれると、そうではないんですよ。ちょっと嘘くさく聞こえちゃうので。
「これを食べる時はいつも使っています」とか、「これを飲む時は使っています」と言われると、嬉しいんです。
嘘ではない言葉が欲しいんですよね。リアルに感じたいと思っていますので。そこから次にまたつながっていく感覚を大切にしたいんです。

井上:私の場合は、まさに今日がそうです。このおつまみが美味しかったと言ってもらえて嬉しいですね。私の場合は、テレビや雑誌で紹介する一方通行で、受け手側のみなさんからの声を直接聞くということがないんです。料理教室にしても、私が作ったレシピをみなさんが真似して作るというものですから。むしろ、お友達を自宅に呼んで、その方の顔を思い浮かべながら作った料理を出した時に、アッコちゃんのご飯ってすごく元気が出る!って言われるのが、とっても嬉しいですね。

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ここで、閉店時間となってしまった。
最初に感じた通り、あくまでも自然体で穏やかなお二人という印象は変わらない。
そして思い浮かんだのが、「忘己利他」という言葉。お二人の共通キーワードではないだろうか。

作り手として、誰かに媚びるわけでもなく、忖度するわけでもなく、自分の思いを強く押し出すわけでもなく、あくまでも「さりげない」。
そして受け手の言葉をまっすぐに受け入れ、より喜んでもらうためには何ができるかを真剣に考え、探究していく。どこまでいっても、いくつになっても子どものように「素直」。そこには、決して表には見せない、本物の強さを感じた。

そんなお二人を鼓舞するものは、「いいね」の数でもなく、コンテストでの受賞でもないはず。食べる人、使う人からの、「この料理を食べて元気が出ました!」「この料理にはこの器を使っています!」そんな、日常の中の何気ない、心からの言葉なのだ。

次回は、ついに名古屋でのスナックかすがいの最終夜となってしまった。
しかし新型コロナウイルスが猛威を奮い始めたこともあり、延期となる緊急事態に。
そして4月に延期、実施された「スナックかすがい名古屋第5夜」は、スナックかすがい初の、オンライン配信という新たな試みで開催されることとなった。
その体験記はまた後日に。ライブ映像の裏側もお見せしようと思っています。

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ビールをご提供くださった人

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この体験記を書いてくださった人

真下 智子さん|Mrs. Satoko Mashimo
フリー編集者・ライター。同志社大学社会学科新聞学専攻卒業。
食品メーカーの社員として、社内報を担当したことからライター業へ。ブライダル、旅行、企業広報誌と紙媒体からウエブまで、幅広い媒体に執筆。心の声を聞き出すインタビューをモットーに、これまで300人以上の人にインタビューを行ってきた。あんこと温泉をこよなく愛する、二児の母。温泉ソムリエ、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。satchy@sc.dcns.ne.jp


この体験記の写真を撮ってくださった人

野村 優さん NOMY|Mr. Yu Nomura
昭和54年生まれ。岐阜県出身。人物、商品、建築、料理、映像などを撮影するプロカメラマン。大学でグラフィックデザインを学んだのち、レコード製作/販売会社、オンライン音楽配信会社、ECサイト運営会社を経て独立。野村優写真事務所を開設。2014年7月、「さぁ、みんなでカメラ楽しもう!」をテーマに「撮れる。魅せる。伝わる。カメラ講座」開始。岐阜、名古屋、東京、大阪、神戸ほか全国に展開中。
趣味は、ジャズのレコード収集、DJ、ハーブを使った料理、もうすぐ7歳の息子とカメラ散歩。
素敵、かっこいい、面白い。そう思った時がシャッターチャンス。
その気持ちが写真に写り込むように。
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スナックかすがい
好奇心旺盛な大人たちが、生ビールとグリーン豆をお供に、気になる人の気になる話を聞いて楽しむ社交場、それが「スナックかすがい」です。いっしょに乾杯しましょう!