Text by 真下 智子|Satoko Mashimo
Photo by 野村 優 | Yu Nomura
粋な大人の社交場「スナックかすがい」
2018年11月、東京で開店した「スナックかすがい」。ちょっとイカした大人たちが、ビール片手にグリーン豆を頬張りながら語り合う。
営業日は不定期、営業時間はわずか2時間半というこの店のマスターは、お酒大好き、豆菓子大好き、そして何より人間が大好き!蝶ネクタイとメガネの奥から覗く優しい眼差しがトレードマークのダンディ。
そんなマスターと、夜ごと個性的なゲストが“今”を語り合う「スナックかすがい」。
時に100人以上来店することもあったその店の人気の秘密は、ゲストとマスターとの掛け合いによるトークの面白さはもちろんだけど、ビール飲み放題、豆菓子食べ放題で1,000円ポッキリ!で、しかもお土産も付いているというお値打ち感だ。グビグビ飲んで、ポリポリ食べて、賑やかな大人の社交場は毎回大盛況だった。
2019年には、名古屋にもオープン。私はこの名古屋での開催の際に声をかけていただき、体験記を担当することになった。地元・東海エリアを元気にしているゲストの方との出会いが、楽しみで仕方なかった。時に仕事であることを忘れて、お客さんたちと一緒につい飲みすぎてしまったことも…。とにかく毎回、満員御礼!地元のテレビ局でも放映されるほど話題になっていた。さて次回はどんな出会いが…と思っていた矢先。
配信→オンライン&オフラインのハイブリットへ
2020年春、世界が突然ガラガラと大きな音を立てて変わってしまった。スナックかすがいも閉店を余儀なくされるかと思われたが、熱狂的な常連のお客さんの後押しもあり、2020年4月からはオンライン配信で開催。試行錯誤の配信ライブは、その後3回開催され、思わぬハプニングにスタッフ陣が冷や汗をかきながらも、いつも画面向こうのお客さんから届けられる温かい言葉に助けられ、励まされ、お客さんとの絆を一層深めながら、開店することができた。
グラスを合わせることはもちろん、リアルに人と繋がることさえも完全に絶たれてしまった中で、オンラインでもマスターとゲスト、そして画面越しのお客さんとの一体感は何も変わらなかった。
今回、実に2年ぶりにお客さんを交えて、スナックかすがい第23夜が開催された。
場所は名古屋駅直結のJPタワーの36階、株式会社コラボスタイルのオフィスの一角にあるオープンワークスペース「コラボベースNAGOYA」。名古屋の市街地の夜景を一望する絶好のロケーションだ。
これまでは無観客でYouTube配信だったけれど、今回は実験的に16人の観客の席を作り、YouTubeでもライブ配信するという、オンラインとオフラインの初のハイブリットスタイル。
さらに今回は、名古屋と仙台のおよそ700km間をリモートで繋ぐという進化版。次回あたりは海外から「カンパイ!」の声が届くかもしれない。
そもそも「スナックかすがい」の「かすがい」とは、主催する春日井製菓の「かすがい」でもあるが、もう一つ重要な意味がある。
それは、「鎹」(かすがい)=二つの材木を繋ぎ合わせるコの字型の釘のことで、人と人、物と物、そして想いと想いを繋ぎ合わせる、という意味をかけている。これらを繋ぎ合わせることで、「成果」(製菓)を作っていく。それが春日井製菓の「スナックかすがい」だ。
そして今や、ゲストとお客さんが時空を超えて鎹う、壮大なスケールの唯一無二のスナックなのだ。
では、今回のゲストのご紹介を。
お一人目は、ご存じ、大阪出身のタレント北野誠さん。CBCラジオ「北野誠ズバリ」やラジオNIKKEI「北野誠のトコトン投資やりまっせ」でパーソナリティを務める。軽妙なテンポと鋭い視点でズバズバと斬り込んでいくトークは、リスナーの心にグイグイと迫ってくる魅力がある。私個人としては、学生時代に毎回欠かさず見ていた「探偵ナイトスクープ」の探偵員のイメージが強い。
もう一人のゲストは仙台からリモート出演の、ロジャー大葉さん。仙台では知らない人がいない人気ラジオパーソナリティ。tbc東北放送のラジオ番組「サタディ・イン・ザ・パーク」や「ロジャー大葉の愛してJ-POP」など冠番組も複数本持つ。実はロジャーさん、元々バンドマンで、伝説のテレビ番組「いかすバンド天国(通称イカ天)」にも出場していた。7年間のバンド活動ののち、ラジオの世界へ。オールナイトニッポンを愛聴していたそう。
ロジャーさんとドンピシャ同世代の私にとっても、オールナイトニッポンはラジオの面白さを教えてくれた番組だった。高校受験の時、自室で音が漏れないよう、こっそりと夜な夜な聴いていたことを思い出した。
まずは恒例のカンパ〜イ!
誠さんには宮城のクラフトビール「ブラックタイドビール」で、ロジャーさんには名古屋のクラフトビール「金鯱ビール」で、エールを交換。
マスター豆彦さんの掛け声で、名古屋と仙台を結んでの乾杯が実現した。
非常時のラジオの役割とは
すでに「旨塩えんどう」をものすごい勢いで頬張る誠さん。
初っ端からトップスピードでエンジン全開。旨塩えんどうもお酒も止まらない。
ここでカメラは仙台にいるロジャーさんへ。
この「スナックかすがい23夜」は2022年3月29日に開店したが、その2週間ほど前の3月16日に東北地方に大きな地震が起こった。29日時点でも交通網は乱れたままだった。
話は1995年の阪神淡路大震災の時へ。
思えば、大阪の誠さんと仙台のロジャーさん。お二人とも未曾有の被害をもたらした大震災を、オンエア中に経験していたことになる。
飲んでつまんで、すでにできあがっている酔客状態の誠さん!?からの発言。
誠さんは、阪神淡路大震災の時、ラジオでリスナーさんに「欲しいものがあったら言ってほしい!」と呼びかけ、自ら大阪で買い物をしてリュックを背負って被災地に運んでいる。意外にも、みんなが欲しいと言ってきたものは「ウエットティッシュ」だった。買えるだけ買い込んで持っていったという。ラジオだからこそできたことだと。
ロジャーさんも、東日本大震災の時にリスナーからの「今夜も明日も食べるものがない!」という声を流したところ、山形の給食業者が500食ほど用意をしてすぐに飛んできてくれたという。
ラジオの出番
マスター豆彦さんが「今こそラジオの出番!」と本題へと迫っていく。
そもそもラジオ番組はどうやって作っているのか?と極めて真面目な質問をすると…。
ちょっとちょっと誠さん!(笑)
ここあたりから話があっちへ行ったりこっちへ来たり。それもまたスナックならではでして。
ラジオはジャズ。思わぬ音の展開と、観客とのグルーブ感に心震える。確かに!と膝を叩いた。
目線を上げるとその先には、話を聴いているのかいないのか、乾杯している観客グループが。
あまりの盛り上がりに、カメラマンの優さんもつれられるように、カメラを向ける。このノリの良さは、ただの集団ではなさそう……。
彼らは誠さんのラジオ番組のヘビーリスナーさんということが判明。
親戚席にカメラが入ったのかと思ったというマスター豆彦さんのコメントに、笑いが起こる。
ここから話は、誠さんのライフワーク!?とも言える「マコ酒run(マコシュラン)」の話へ大きく旋回。
ちなみに「マコ酒run」とは、2012年から始まった、誠さんが東海三県のお店に公共交通機関で行き、リスナーさんたちと自腹で飲むという企画。すでに398回開催されており、当初は10名程度だった参加者が、今では40人に。
参加者は東海地方在住リスナーがメインだが、東京や長野、北海道から参加したリスナーもいる。
リスナーと自腹で飲み会、それを始めた理由は?マスター豆彦さんが問いかける。
勝とうと思ったら、誰もやっていないことをやればいい!
そもそもラジオ“パーソナリティ”という言葉自体、進行役の個性や持ち味といった要素が強いからこそのネーミングなのではないかと思った。
誠さんもロジャーさんこそが、パーソナリティそのものだと。
ラジオの価値とは
続いて話はラジオの広告効果に。
番組構成への関与度は?
ラジオを長年聴いているものの、実際に番組は誰がどのように作っているのか、何となくわかっているようでわかっていない。
プロデューサーをはじめ、多くのスタッフがそれぞれ役割分担して…。おそらくテレビとそれほど大きく変わらないと思っていた。
マスター豆彦さんが、スタッフを含めた役割分担についてお二人に問いかけた。
CBCラジオのプロデューサーも営業も、誠さんがラジオを本気で面白いものにしたいと頑張っているから、そのアイデアを叶えるために動こうと思い、形にしたいと思っている。
誠さんが推す企業であれば、営業も自信を持ってアプローチできると。
パーソナリティあってのラジオであり、地元企業、地元の人間あってのラジオ番組。
まさに、パーソナリティがラジオ番組と地元をかすがっているのだ。
もう35年ほど前の話で恐縮だが、学生時代に京都のラジオ放送局でアルバイトを2年間ほどやっていたことがある。
アルバイトと言っても、リスナーさんからの電話を受けて、内容を簡単にまとめ、書いた紙をスタジオにいるスタッフさんに渡すというものだったが、3時間ほどの番組中、夥しい数の電話がかかってくる。裏方で番組も聴いているのだが、パーソナリティの方の話の展開があまりにも面白く、そのスピードに合わせてリスナーさんからの電話も鳴る。
今思い返すと、リスナーさんからの電話の内容に合わせて進行していた。パーソナリティが「それなら次はこの話題でメッセージ送ってきてや〜!」という感じだった。
ラジオならではのこのライブ感とパーソナリティのカラー。どんなに時代が変わっても、変わらないラジオの魅力がここにある。
パーソナリティは聴き役!?
そんなリスナーからの話しを楽しみながら、番組に盛り込んでいく。そんな小さな話しほど面白いのがラジオ。そこにはみんなの共感がある。ワールドワイドな話しになるほど面白くなくなる。どうでもいい話しがいい。というのが、お二人の共通意見。
そしていよいよ今夜のスナックかすがいも終盤へ。
視聴者さんからの、お二人の魅力やラジオの面白さに関してのコメントを読み上げられると、いい感じの酔っ払い具合でご機嫌な誠さん。
会場の参加者からも感想を聞いた。
「普段ラジオは聞かないけど、だからこそ気になって参加した。これを機にラジオを聴いていきたいと思っている」という声も。
ラジオの未来像
初対面の誠さんとロジャーさん。この時点ではすでに親戚かと思うほどのやりとりは、さすがしゃべりのプロ。
ラジオのエリア性を含めた、今後のラジオの在り方についてのお二人の考えを尋ねると…
止まらない誠さん。グラスを手にめちゃくちゃ楽しそう(笑)
あっちこっち話しが飛びまくっていても、あ〜楽しかった!と思わせる不思議なトーク力。目の前のヘビーリスナーさんもすっかり出来あがっているようで、お開きに向かって、テンションも急上昇。元気なスナックかすがいが戻ってきて、本当に嬉しかった。
やっぱりお客さんと一緒にライブを愉しむのはいい。
音、匂い、声、仕草、そして温度。すべてを肌で感じる。アルコールも入って、頭で考えるのではなく体で感じて反応する。
ここに来て良かった!ここに居て良かった!と思わせてくれる、あっという間の2時間半だった。
最後にマスター豆彦さんから
ナイスな締めセリフで、第23夜目のスナックかすがいも閉店ガラガラ〜
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この体験記を書いてくださった人
この体験記の写真を撮ってくださった人