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しょぼくれた夢
大阪に来て、3週間ほどが経つ。
僕のnoteを毎週読んでくれている人たちは、もうこの書き出しにも飽きていることだろう。
安心してほしい。
僕も飽きている。
ところで、僕の下宿先の話をしよう。
僕の下宿先はほとんど大学の近くにあって、どの辺にあるかというと、吹田市と茨木市の間くらいにある。
失礼。
大阪の地理に疎い方にはわからない表現だったかもしれない。
馴染みのない土地で浮き足立っている男の悪ふざけだと思って、目を瞑っていただきたい。
ざっくり言ってしまうと、大阪の中心地からはるばる北上した片田舎。
たこ焼きやお好み焼きの気配はおろか、最寄りのスーパーですら歩いて30〜40分かかるほど離れたところにしかない、絶妙に暮らしづらい場所に位置している。
ほっと一息カフェにでも立ち寄ろうかと思ってみても、隣町のコメダ珈琲まで足を伸ばす必要がある。
ちなみに、スーパーよりも遠い。
雨が続けば洗濯物が溜まってしまう。
どれ、コインランドリーに行って乾燥機を利用しようかなどと家を出たら最後。
コインランドリーは、コメダ珈琲よりも、遠い。
向かっている間に、運んでいる洗濯物が乾くだろう。
ここまで読んでくれた勘の良い読者の方は、いや、勘のよろしくない読者の方であってもお気づきだろう。
そう。
僕の下宿先の周りには、何もない。
チェックインして数日経った頃の僕の絶望といったら、もうそれはそれは。
「スーパー」で検索しても、「カフェ」で検索しても、「コインランドリー」で検索しても、Googleマップがグレたのかと不安になるくらいヒットしなかった。
これを陸の孤島と言わずになんと言おうか。
充実した大阪ライフを諦めかけた僕だったが、最後の望みを託すようにして、タイムズカーシェアのステーションを探した。
下宿先の近くに1つだけ、ステーションがあった。
僕は心の中で小躍りした。
もしかしたら実際に小躍りしちゃってたかもしれない。
とにかく、移動手段がある。
しかも、車だ。
実は僕には、以前からやってみたいことがあった。
それは、車内でラジオをかけながら、1人でドライブに出かけるというものである。
大阪に来る前はドライブというと、友達と出かける場合しかなかった。
1人でドライブに出かけてみたいとは常々思っていたものの、友達と割り勘でもしない限り割高になってしまうので手が出なかった。
しかし、只今絶賛陸の孤島にて滞在中だ。
金を使う娯楽など、身の回りに存在しない。
ここで使わずに、一体どこでお金を使う場面があるだろうか。
いや、ない。
早速車を借りてドライブに出かけた。
ラジオをかけながら見知らぬ道を走り抜けるのは、一際心地よかった。
静かな車内にオードリーの2人の喋りが響き渡り、運転中で適度に集中していている状態も相まって、いつもより数倍ラジオに耳を傾けられた気がする。
そんな夢のような車内で夢のような一時を過ごしながら、強欲にも僕はもう1つ夢を叶えに行こうとしていた。
それは、1人回転寿司である。
僕はずっと1人で回転寿司に行くのが夢だった。
誰かと一緒に行くのも楽しいのだが、「あれ、俺だけなんかすごいお皿の量食べてね?」とか「うわ、俺の詰んだ皿だけ黒(ちょっと良い値段のやつ)多いな」とか考える必要のないことまで考えてしまう癖がある。
その日は腹一杯、誰の目も気にせず寿司をたいらげた。
夢を叶えた僕は、大満足で車を元の駐車場まで返すために、またハンドルを握った。
1人でラジオをかけながらドライブをし、1人で回転寿司に行く。
なんとも寂しくしょぼくれた夢ではあったが、それでも僕は、味わい難い喜びと共にその日を終えたのである。
1人も、悪くないものだ。