宋代史を研究するための工具書とか小物類備忘録(随時更新:20200412更新)

 みなさんこんにちは。ぺーぱーどくたーのしみずです。この記事は、宋代史のお勉強をするにあたって、〝これは必要〟だと思われる工具書とか、小物的なものについての備忘録です。


 工具書やなんかは、あればあるほど助かります。ですがその一方で、あればあるほど使いこなすのが難しくなります。また、宋代史に手を染めるひとは、今後益々減っていくでしょう。すると、工具書の扱い方についての実践的な知識が、円滑に継承されなくなってしまうかもしれません。
 そこで、私自身が頻繁に使用するものを中心に工具書類を挙げて、それに若干のコメントを記すことにしました。大学生や院生の方で研究室のスタッフや先輩に宋代史をやってるひとがいない方や、卒論指導等で宋代のことを調べなければならなくなってしまった方のお役に立てれば幸甚。


 思いついた端から列挙してます。書き漏らしがぼろぼろ出てくるものと予想されますので、決定稿ではなく、随時更新ということに致します。


1.研究の手引き

①礪波護・岸本美緒・杉山正明編『中国歴史研究入門』(名古屋大学出版会、2006年)
 
 中国史に手を染めるなら、入門書として購入すべき書籍。研究室にあるから買わなくてもいいや、という性質のものではない。研究史の概説、基本史料・書籍目録や地理関連史料が列記されている。

 大学あるいは大きな図書館を利用できるなら、山根幸夫編『中国史研究入門』(山川出版社、1983年)と島田虔次他編『アジア歴史研究入門(1–3)』(同朋社出版、1983年)にも目を通すべき。特に後者の第1巻、島田虔次先生による「序論」は必読。島田先生に叱られた気分になる。

 〝叱られた気分〟と言えば、岡本隆司・吉澤誠一郎編『近代中国研究入門』(東京大学出版会、2012年)「序章:研究の前提と現実」もお勧めしたい。読むたびに叱られた気分になる。


②宋代史研究会編『Bibliography of Song history Studies in Japan 1982-2000』(2001年)

 1982年から2000年までの日本の宋代史に関わる論著目録。論文を収集するときに便利。これ以前のものは『東洋史文献類目』(下記④「東洋史に関する文献を探すには」参照)みたり、『史学雑誌』の「回顧と展望」をあたったり、CiNiiで検索したりして探す。


③漢文読解の手引きとなる書籍

 辞書の類については、以下の記事の最初の方に列挙してある通り。『佩文韻府』とか『康熙字典』とか、普段座右に置いていないものは挙げていません。オンラインなら『漢典』(https://www.zdic.net/)が簡便。

 漢文読解の手引き書について、先の記事では加地伸行(二畳庵主人)『漢文法基礎』(増進会出版社、1984年/講談社学術文庫、2010年)のみ紹介しているが、その他も幾つか。

西田太一郎『漢文法要説』(朋友書店、2004年再版)
小川環樹・西田太一郎『漢文入門』(岩波書店、1957年) 
古田島洋介・湯城吉信『漢文訓読入門』(明治書院、2011年)
古田島洋介『日本近代史を学ぶための文語文入門』(吉川弘文館、2013年)
日本史史料研究会監修、苅米一志『日本史を学ぶための古文書・古記録訓読法』(吉川弘文館、2015年)

 手に入りにくいものだと、西田太一郎『漢文の語法』(角川書店、1980年)もある。

 必要になったら崩し字字典も購入すべし。

④国会図書館リサーチ・ナビ

 リサーチナビの「調べ方案内」は大変役に立つ。
 https://rnavi.ndl.go.jp/rnavi/index.php


 なかでも使用頻度の高いものは以下の通り(中国の雑誌記事・論文の探し方を載せ忘れた。20200412訂正)。


「東洋史に関する文献を探すには」
 https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/post-275.php

「中国の雑誌記事・論文の探し方」
   https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-asia-38.php

「台湾の雑誌記事・論文の探し方」
 https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-asia-146.php

「学位論文 : 中国・香港・台湾」
 https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/dissertation-chn.php

⑥その他

   英文については、大学の附属図書館で検索するのがよい。google scalarやacademiaも利用する。


2.小物類

①『東方年表』(平楽寺書店、1955年)

 周惠王17年(紀元前660)–現在までの、西暦–干支–中国–東北・朝鮮–日本の元号の対照表、及び帝王歴代一覧・年号索引・干支表を収録。年表部分もよく使うが、干支表も大変役に立つ。干支表と『二十史朔閏表』を組み合わせて、干支を用いた日付表記を現代の日付表記に変換できる。


②陳垣『二十史朔閏表』(中華書局、1962年修訂)

 正月~十二月と閏月がわかる表。各月の一日もわかるので、それを手掛かりとして干支表記の日付を現代のそれに変換可能(①『東方年表』干支表を併用)。
 また、年の表記を「紹興壬子」とされても、ピンとこない。そこで、「元号+干支」が、「元号+何年」なのかを確認するためにも用いる。
 『東方年表』干支表をコピーして、『二十史朔閏表』の頻繁に使う部分に挟んでおくと便利。

 例えば、南宋高宗建炎三年四月庚申の場合は以下の通り。
建炎三年:西暦1129年(①『東方年表』)
四月庚申:建炎三年四月の朔日(一日)は、戊申(②『二十史朔閏表』)
     
戊申→己酉→庚戌→辛亥→壬子→癸丑→甲寅→乙卯→丙辰→丁巳→戊午→己未→庚申(①『東方年表』干支表を用いてカウント)
よって建炎三年四月庚申は、西暦で表すと「1129年4月13日」となる。


 紀元前200–現在までの西暦–干支–元号対照表であれば、吉川弘文館の『歴史手帳』でもよい。
 オンラインで使用できるツールだと、中央研究院の「両千年中西暦転換」が便利。
 http://sinocal.sinica.edu.tw/
 なおこれついては、山田崇仁先生作成のマニュアルが先生のwebサイト「睡人亭」にあるので参照されたい(http://www.shuiren.org/index-j.html)。


③未入手
 王双怀・贾云主编『二十五史干支通检(上)・(下)』(三秦出版社、2011年)


3.工具書の類

 前掲『中国歴史研究入門』をみれば、一通りのことはわかる。法律関連や吏牘文については、川村康先生による工具書紹介「宋代の判語を読むために」(『東洋法制史研究会通信』第五号、1991年『東洋法制史研究会通信』選編所収)や、舩田善之先生の「『元典章』読解のために―工具書・研究文献一覧を兼ねて」(『中国語学研究 開篇』18、1999年)を参照されたい。

 現在は全文検索が可能なため、索引類の重要性が以前よりも低くなったかに思われる。しかし、索引類に間違いがあったり漏れがあったりするのと同じく、全文検索にも漏れや間違いがあるため(実体験)、全く要らないとは言えない。

 なお、年譜や資料集的な編著ついては、手元になかったり、手に入りにくいものが多かったりするので、今は省略する(佐伯富先生とか陶晋生先生とか)。著書にも索引的に使用できるほど網羅的なものもあるが、梅原郁先生のものを除いて、上記の理由により省略。


■人物

①『宋人伝記資料索引』
 手元にあるのは鼎文書局の中華民国90年(2001年)増訂三版。人名らしきものに関しては、とりあえずこれを引く。そうすると、人名かどうか、立伝されているか、行状・墓誌銘・神道碑の有無などがわかる。『宋人伝記資料索引補編』(四川大学出版社、1994年)もあるが、地方誌や年譜が中心なので、それほど使用頻度は高くない。

②梅原郁編『続資治通鑑長編人名索引』(同朋社、1978年)
③梅原郁編『建炎以来繋年要録人名索引』(同朋社、1983年)
④王徳毅編『宋会要輯稿人名索引』(新文豐出版公司、1978年)
 全文検索の登場によって、最も使用頻度が下がったと感じるのがこれら。検索がなかった頃は大変お世話になりました。ありがとうございます。


■官制

①梅原郁『宋代官僚制度研究』(同朋社、1985年)
②梅原郁『宋代司法制度研究』(創文社、2007年)
③龔延明『宋代官制辞典』(中華書局、2013年/増補版2017年)
④龔延明『中国歴代職官別名大辞典』(中華書局、2019年)

 官僚制に関して調べごとをするのであれば、①梅原郁と③龔延明は絶対に外せない。①は著書なのだが、索引が充実しているため、工具書的に利用できる。そしてできれば当該の部分に目を通して欲しい(②も同じく)。
 注意点は、①あるいは③だけを調べて分かったことにしないこと。①も③も情報量が豊富であるだけに、間違いもある。そのため、最低限①と③のクロスチェックが必要となる。
 なお②の御史については、熊本崇先生の一連の論考を参照されたし。「元豊の御史――宋神宗親政考」(『集刊東洋学』63号、1990年)、「宋天禧元年二月詔――宋初の御史」(『石巻専修大学研究紀要』2号、1991年)、「北宋の台諫――仁宗初期を中心に」(『石巻専修大学研究紀要』4号、1993年)、「宋御史台制度再攷――梅原郁氏の御史台理解をめぐって」(『集刊東洋学』100号、2008年)など。

 ④はまだ使いこなしていないが、伝や行状・墓誌銘・神道碑などを読む場合に官職を雅名で称することがある。例えば、元豊官制以降のことで「儀曹」と書かれていたら「礼部」のことである、とか。その場合、それがなんなのか調べるのに必要。 

 ③について附言。とりわけ有用だと思われるのが、後の方に収録されている「職官述語与典故」だとおもう。


■語彙

 よく使っているものだけを挙げる。特にコメントしない場合もある。ここに分類されるものには、入手しにくいものが多い。今でも思いついたように探すのだが、なかなか手に入れられない。くやしい。
 もしも語彙で困ったら、前掲した川村康先生と船田善之先生の文章を一読したほうがよい。必要な工具書がわかると思う。

①『宋元語言詞典』
②『小説詞語匯釈』
③梅原郁編『続資治通鑑長編語彙索引』(同朋社、1989年)

 調べたい語彙のジャンルが分からない・分類できない場合は、『漢語大詞典』と『中日大辞典』を調べたあとに、これを引く。もし載録されていなければ、下記の何れかにあるかもしれない。なければ全文検索を駆使して用例にあたる。遠い旅路になるので覚悟されたし。


 法制関係については以下の書籍や工具書をよく使う。

④梅原郁編『中国近世刑法志(上)』(創文社、2002年)
⑤梅原郁編『慶元条法事類語彙輯覧』(同朋社、1990年)
⑥『田中謙二著作集(第二巻)』(汲古書院、2000年)
⑦荻生徂徠『明律国字解』(創文社、1966年)
⑧石川重雄編『宋元釈語語彙索引』(汲古書院、1995年) 

 これらのうち、「このひとあたまがおかしい(褒め言葉)」と思わずつぶやいてしまうのが、⑦。一体どうやって勉強したのか、想像もつかない。きっとものすごーく勉強したのだろうということしかわからない。索引あり。
 また、⑥所収の「元典章文書の研究」に、決して足を向けて寝てはならない。


⑨山腰敏寛『中国歴史公文書読解字典』
 「爲――事」のような、決まり文句がわからない場合はこれを引く。ただし、どうやって訓読するのか書いていない場合もある(これについては⑥の『田中謙二著作集』をみればわかる)。前掲したが、古田島洋介『日本近代史を学ぶための文語文入門』(吉川弘文館、2013年)と、日本史史料研究会監修、苅米一志『日本史を学ぶための古文書・古記録訓読法』(吉川弘文館、2015年)も有用。最近はこれらをよく使う。

⑩徐望之編『公牘通論』(档案出版社、1988年)
 「制」とか「勅」とか、文書の種類について概要を知りたければこれを用いる。

⑪斯波義信編著『中国社会経済史用語解』(東方書店、2012年)
 もうなんというか、これが出版されてとても助かっている人は多いとおもう。もちろん私はそのうちの一人。


■全文検索

 中国で「検索使ってない/使えない」というと、めっちゃかわいそうな子扱いされる。

①中央研究院漢籍電子文献
https://hanji.sinica.edu.tw/

②国学大師
http://www.guoxuedashi.com/

③雕龍中日古籍全文資料庫
 お試し版を使ってみた。気軽に使える環境にあるひとがうらやましい。

注意:検索したら必ず原典にあたること。


■その他

①譚其驤編『中国歴史地図集』(地図出版社、手元にあるのは1982年出版)
 これがないと、地理的なイメージが全く出来ない。web版もあるが、購入すべきだとおもう。http://www.ccamc.co/chinese_historical_map/index.php
 なお、王存等撰『元豊九域史』は必携。



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