土曜七時の青い鳩【ショートショート】【30日間毎日note:その6】
窓を叩く音がした。土曜の午後七時。いつもながら、弟は時間には正確だ。
窓を開けると、小さな青い鳩が飛び込んで来た。
⭐︎
「これが3号? 可愛らしく出来てるね」
私が話しかけると、青い鳩は、弟の声で笑った。
「だろ? このデザイン、姉ちゃん好みだと思ったよ」
「声もクリアだね。私の事、ちゃんと見えてる?」
「勿論。2号より、カメラ性能は上がってるし」
青い鳩の丸い目が、ちかちかと楽しげに光った。
⭐︎
私が、自室から出られなくなってから、一年が経つ。
ようやく最近、ドア越しに、母と筆談じゃなく会話が出来るようになった。
弟の手作りの、小さな鳩のロボットのお陰だ。
⭐︎
「姉ちゃんが飲んでるの、赤ワイン?」
「ノンアルコールのね。母さんに差し入れてもらったの」
「俺は、本物の赤ワイン飲んでるよ。乾杯しよう」
「うん」
⭐︎
まだ、弟とは、鳩越しにしか話せない。
いつかドアを開けて、大好きな家族と、顔を合わせられますように。
願いを込めて、青い鳩の瞳の向こうへ、グラスを高く上げた。
★
いいなと思ったら応援しよう!
お目に掛かれて嬉しいです。またご縁がありますように。