恋の海葬【ショートショート】(お題「塩人」)
「山上サクラさんのお宅ですか?」
玄関先に訪れた塩人の少年は、貝殻を手にしている。大叔母の言った通りだ。
「サクラは、私の大叔母です。十五年前に他界しました」
私は懐から、形見の貝殻を取り出し、少年の貝殻に重ねた。
★
二枚の貝殻は、僕の手の上で、ぴったりと合った。伯父から聞いていた通りだ。
「僕は、大浜カナメの甥です。伯父は、先月亡くなりました。遺言で、遺灰を届けに来ました」
鬼人の女性は頷いた。赤い唇。吸い込まれそうな瞳。
塩作りに明け暮れる塩人の遺灰は、鬼人の大好物と聞く。
だけど、伯父の気持ちが、分かる気がする。
★
「では、海にご一緒しましょう」
「海に?」
少年は首を傾げた。褪せたシャツ。陽に灼けた肌。
「大叔母の遺灰は、海に撒きました。カナメさんと同じ海で眠りたいというのが、遺言です」
「それは、伯父が、心から望んでいた事です」
少年の頬に赤味が差し、瞳が輝いた。
大叔母の気持ちが、分かる気がした。
田原にかさんの企画「#毎週ショートショートnote」に参加しました。
お題は「塩人」。
今回のお題のお陰で、noteのルビの振り方を覚えました! 勉強になりましたし、楽しかったです。
田原さん、ありがとうございます。
タイトル絵は自作です。ibisPaintで描きました。
海の絵は難しいけれど、楽しいですね。色々描いてみたいです。
お目に掛かれて嬉しいです。またご縁がありますように。