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勝てるイノベーションを創出する②

■「勝てるイノベーション」を創出する条件

では、「勝てるイノベーション」を創出していくには、どのような条件が必要となるのでしょうか。

イノベーションはシュンペーターが「破壊的創造」と形容したように、最適化された既存のシステムやそれを支える価値観を根本的に破壊して新たな創造を行うことが求められます。こうした革新的な創造には失敗がつきもので、一企業内に留まらず社会全体においても失敗を許容して継続的な挑戦を推奨していくような体制が求められます。

そこでキーワードとなるのが、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)が『オープンイノベーション白書』で提唱する「21世紀型のイノベーションの創出」という考え方です。

NEDOによると20世紀までは「発明牽引型のイノベーションの創出」や日本企業が得意とした「普及・展開型のイノベーションの創出」が中心であり、実際に社会に普及するまでに中長期(5~10年)のリードタイムが必要とされていました。

しかしながら、「21世紀型のイノベーションの創出」では、すでに市場で出ている製品・サービスと新技術が結合することによって新たな価値が創出され、イノベーションの創出プロセスや普及においてデジタル技術が活用されることにより、短期間のうちに世界に展開されるスピードが重要となってきていると言われています。

発明家のアイディアや情熱だけではなく、デジタル技術を積極的に活用することで短期間のうちにビジネスとして成立させることが重要となってきているのです。

こうした「21世紀型のイノベーションの創出」で勝つために、日本でどのような取り組みを行うべきなのか。

今後、強化していく必要があるのは、以下の3点と言えます。

(1)オープンイノベーション

(2)スタートアップ企業や大学発ベンチャーなどを支援する仕組み

(3)社会課題解決のイノベーション

1点目の「オープンイノベーション」の対極にある考え方が、企業内でクローズドに進める研究開発です。

しかしながら新製品を開発してマーケットに出すまでのスピードが勝負となると、すでに基礎研究で成果をあげている大学や研究機関との連携や関連する技術やノウハウをもっている企業と連合を組んで進めていく方が効率的です。

また、同業種だけでなく、異業種との連携を行うことで、まったく新しい技術の活用方法や製品のマーケティングが生み出されることも期待できます。ただ、欧米企業と比べて日本企業の「オープンイノベーション」への参加率は低く、欧米の78%に対して日本は47%にとどまっています。(図―1)

図―1:日本と欧米企業のオープンイノベーション活動の実施率

出所)オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)「オープンイノベーション白書(第三版)日本におけるイノベーション創出の現状と未来への提言」 P.138より

欧州では他の企業やスタートアップ企業と連携をする「オープンイノベーション1.0」から、さらに広範に複数の企業、大学・研究機関、政府・自治体、市民・ユーザーが多層的に連携と協創を行う「オープンイノベーション2.0」が2013年に提唱され、様々な取り組みが開始されています。

こうしたイノベーションのエコシステムの形成を促す地域的な取り組みは、日本においても東京都渋谷区や大阪市でスタートしています。こうした取り組みを全国に広げていくことは、「勝てるイノベーション」を創出していく上で有効な手立てではないでしょうか。

2点目はスタートアップ企業や大学発ベンチャーなどを支援する仕組みの拡充です。世界的に見てもGAFAはいずれもスタートアップからイノベーションを創出して世界的な企業へと成長しました。

近年、日本でもスタートアップの数は増えてきていますが、これらの企業を支援する代表的な存在であるベンチャーキャピタル(VC)の投資額を比較すると、米国は日本の50倍以上、中国や欧州も日本を大きく上回る投資額を記録しています。(図―2)

図―2:VC投資の国際比較(金額:円換算)

出所)オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)「オープンイノベーション白書(第三版)日本におけるイノベーション創出の現状と未来への提言」 P.145より

一方で、大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立された大学発ベンチャーも増加をしており、2000年頃に起こった第1次ブーム時に比べるとVCなどの資金援助も充実はしてきています。

ただし、企業とのアライアンスについては、研究、開発、製造・生産、販売、マーケティングのどのフェーズをとっても、ベンチャー側の希望に対する実績のギャップが大きいことがわかります。

また、日本と米国の大学発ベンチャーを比較すると、日本のベンチャーは株式上場(IPO)に至るまでに創業5年以上が多数と長く、直近5年間の存続率も米国の1.8%に対して99.0%と極端に高い状況にあります。(図―3)企業によるアライアンスやM&Aが進むことで、これらの課題は解消される可能性があると言えるでしょう。(図―4)(図―5)

図―3:日米のベンチャーの設立状況

出所)東京商工リサーチ「経済産業省 令和4年度産業技術調査事業 大学発ベンチャーの実態等に関する調査」 令和5年6月 P.13より

図―4:大学発ベンチャー数の年度推移

出所)東京商工リサーチ「経済産業省 令和4年度産業技術調査事業 大学発ベンチャーの実態等に関する調査」 令和5年6月 P.9より

図―5:大学発ベンチャーにおけるアライアンスの状況(複数回答)

東京商工リサーチ「経済産業省 令和4年度産業技術調査事業 大学発ベンチャーの実態等に関する調査」 令和5年6月 P.52より

3点目は社会課題の解決としてのイノベーション促進です。内閣府が発表したSociety5.0でも指摘されているように、日本はエネルギー制約、少⼦⾼齢化、地域の疲弊、⾃然災害、安全保障環境の変化、地球規模課題の深刻化といった社会課題を多数抱えており、これらを経済発展と両立させながら解決をさせていかなければなりません。

製造業の変革期に求められる日本の技術で詳しく述べたように、現代日本の社会課題の解決にはデジタル技術が必要不可欠であり、課題解決のソリューション(自動運転技術、脱炭素技術、ロボット技術、半導体、バイオ)をめぐるグローバルな開発競争も激しく、より一層のスピードアップが求められています。

経済学者のゴビンダラジャンが主張した「リバースイノベーション」は、従来の先進国で発生したイノベーションを新興国でローカライズ展開するという流れの逆を指摘したもので、新興国の社会課題を解決するために生まれたイノベーションを先進国に逆輸入をするというものでした。これは当時のグローバル企業の中心的な商流のグローカリゼーションに対するアンチテーゼの文脈で注目を浴びましたが、ローカルな社会課題の解決がイノベーションを誘発する効果は、欧州で進む「イノベーション2.0」でも期待を集めています。

■「勝てるイノベーション」から「勝てるブランド」へ

「21世紀型のイノベーション創出」ではイノベーションが実際の製品やサービスに具現化されて、社会へのスピーディーな普及が求められます。

その勝率を高めるポイントは、開発から普及までのリードタイムをいかに短縮するかと現代の社会課題にマッチした価値を提供できるかにかかっています。こうして生み出された「勝てるイノベーション」は、その企業の世界市場における競争優位性の確立に貢献するものとなります。

かつてイノベーションにより新しい市場を切り開いた企業の中には、グローバルブランドとしての地位を確立して今なお消費者の高い支持を維持している例も多数見られます。

インターブランドが毎年発表しているグローバルブランドランキングのトップ100に日本企業では、トヨタ、ホンダ、日産といった自動車メーカーや、ソニーや任天堂といったゲーム関連のメーカーがランクインしており、このうち創業100年を超える企業は任天堂(1889年)のみでした。これに対して欧米ブランドでは、トップ30に限っても、コカ・コーラ(1886年)、ディズニー(1923年)、IBM(1911年)、シャネル(1910年)、エルメス(1837年)、JPモルガン(1871年)、アメリカン・エキスプレス(1850年)、アリアンツ(1890年)と8社もランクインしています。

いずれのブランドも各分野で革新的なイノベーションを起こしてきた企業ばかりです。ブランドを長期的に確立するためには創業時のイノベーションだけでなく、他社が簡単にはキャッチアップできないような不断の努力が必要となります。

次回は「勝てるブランド」を確立するには何が必要なのか、アップルやトヨタなどの事例を紹介しながら分析していきたいと思います。
(山縣敬子・山縣信一)

前半の「勝てるイノベーションを創出する①」はこちらから。


<<Smart Manufacturing Summit by Global Industrie>>

開催期間:2024年3月13日(水)〜15日(金)
開催場所:Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
主催:GL events Venues
URL:https://sms-gi.com/

出展に関する詳細&ご案内はこちらからご覧ください。

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