染まれ蛾よ
榛名山の方が
発狂したように赤く染まっている
蛾は低い唸り声をあげ
迫りくる夕闇の向こうから
羽ばたいて
庭の松の葉に付いた今日の雨の水滴が
まるで注射針から漏れる薬剤のように
いくつも宵闇に星のように輝き
灯りを付けたばかりの
玄関で
わたしは榛名の狂乱ぶりを
見て戦いている
互いに触れられることを
恐れるもの同士
夕刻を恐れ
逃げるように部屋に入る
堪えきれなくなった松の水滴は
跳ねるように地面に落ち
赤々と燃える
西の空に麻酔をかけるかのように
闇を注射する
空に滲んで行く闇を
群がる蛾たちよ
闇の範囲が広まると
やがて榛名山は
力なく項垂れ
叫ぶのをやめ
ようやく窓を閉める余裕を
わたしに与える