雹が雹が
春の外れ
雹がざんざか降った
最初はすぐやむと思っていたが
徐々に激しさを増し
窓ガラスを本気で叩き割り始めた
拳大の雹が廊下に飛び込む
割れた窓ガラスの破片
ガシャン!パリン!パリン!ガシャン!
まるで紛争地帯のように北に面した廊下は
滅茶苦茶になった
唯一割れなかったトイレの窓ガラスにもヒビ
他の割れたのは直したが
そのひび割れのトイレの小さな窓ガラスだけは直さずにいた
蜘蛛の巣が這うように
ひび割れた
雹が当たった中心がまるで地上から見る小さな星のように
夏はいい、秋も、春も
問題なのは冬なのだ
直さないままのひび割れた窓ガラスからは
すきま風が入り込み
古い家の中の温度を更に下げさせた
空っ風が吹く度にひび割れはめくれあがり
風を階下に吹き下ろす
あ~嫌だ
修理代六千円をけちってまで我慢する生活に
用を足すと目の前のガラスのヒビが
成長していくようで恐ろしい
もしかしたら
ある寒い日に
大風が吹いた途端
粉々になって割れてくだけてしまうのではないかと
あの雹が降った日
付近一帯の家の窓ガラスが破られた
三枚は交換できたが
四枚目の小さな小窓のヒビに気づかなかった業者は
後で連絡をいれると
「ヒビぐれぇ世話ぁ~ねぇ~よ」の一言
窓ガラスを直す家は沢山ある
市内にたった2軒しかない窓ガラス屋は
さぞ繁盛したことだろう
わたしは冬が始まり風が強くなってくると
ある一点で理性を支えている何かが崩壊するように
トイレの窓ガラスが崩壊する恐怖を抱えたまま過ごしている
直すまでもない
直すまでもないのだが
本当に治るのか?
本当に治すことはできるのか?
この不安
たった六千円
しかし
不安とは実に下らないものから根を根付かせているものだ