線香

海辺りの松林
木陰に陣取っていた
女が
ずっと海風に飛ばされないように麦わらをかぶって
押さえていた女が
どこかに歩いて行った
裸足の窪みをいくつか残して

松の木の日陰
女の居た場所に
ちいさな山、線香二本立てて
「昨日、猫のパオが死んだってね」
そう口にしそうになって
見た

燃え落ちない墓の線香は
二本の鋭き松の葉

煙も立たず
音も立てず
消えて行った女の姿は
遠方で揺れていた