指とトマト

トマトを握り潰すように
指にかかる力を変えながら
赤い身体に食い込むように
溢れる実、汁、色

この液体に濡れた指、指、指

誰が待ち望むというのですか？この指を
トマトは無惨に潰れ形を崩し
指はそれでも何かを求める

この指ではあなたに這わせる訳にもいかない

しかし真っ白なピアノの鍵盤が
指の存在を待ち望むように

剥き出しの打楽器が指の触れる時を
待つように

あなたもわたしの指が降りてくるのを
待っているに違いない

わたし無しではあなたが
包丁も掴めないように
(かわりにこの指を)

わたし無しではあなたが
背中を掻けないように
(かわりにこの指を)

ピピピピっ！青いジェット機のようにガスが火を吹き

斑に錆びたスプーンを口に含むような酸っぱさで
あなたは

鍋を火にかける

孤独は人間に贈られた
ものであると同時に
その孤独を絡めとる
指も与えられている

トマトで汚れた指を洗い
鍋の蓋をしめる

ああ、指よ
孤独の中で安らえるように

もう一対の手に指を与えた