蜜柑蔵のコヨ
おれは無を煮ている
台所で
隣町のうら若き、重原コヨが
蜜柑蔵に入り浸りでさ
何をしてることやら
ぐつぐつ沸騰する
無はよ
A地点からJ地点までおれを運んでくれる
換気扇の音、電車の騒音並み
コヨを迎えに行くべ
かと鍋を下ろして
無を菜箸でつつく
ああご勘弁
蜜柑蔵のコヨは閂をかけたまんま
蜜柑蔵の主になっている
西から地蔵群が読経を唱えながらやって来る
コヨ!コヨ!そこにいるなら隠れてろ!
おれは無を笊にあげると
玄関から走り出す
石仏たちはそぞろ歩きながら
蜜柑蔵を囲む
蜜柑蔵はこじ開けられた村人によって
コヨは蜜柑まみれになって
叫んでいた
村人たちはコヨを家に担いでいった
コヨは地蔵の首を蹴り落とした
石仏は読経を唱えるのをやめ
おれは
首の落ちた地蔵の首の替わりに
蜜柑をひとつ置いた
ぽつんと
コヨは泣き笑いしながら
家に運ばれていった