見出し画像

かすかに遠い日よ

まるで蝉の声がじんじんと
頭にこびりつくような
距離で

まるで薄暗い果樹園を
さ迷い
その暗闇で
誰かから
青い蜜柑をぶつけられるように
哄笑と汗とタオルと
泥とで包まれた
日陰の香り

いくつもいくつも
ぶつけられる青い蜜柑
あまい痛みと
立ち上る色

頭を手で覆いながら
果樹園の闇を駆け抜ける

降って湧いたような
光のスポットライトの下を抜け

笑い
笑い

濡れる体
酸っぱい果実が砕ける
あったのか
かすかに遠い日よ

わたしにもあったのか
かすかに遠い日よ

痛みだけをかすかに残し

わたしはそこから遠ざかって行く