しろ
どぶ川の向こうに桜が咲いている
風がやたらつよく
揺さぶるように桜を叩く
裏庭の小道を見ると
しろが草のにおいをかいでいる
しろ!
見上げると3階から老女が呼んでいる
しろ!しろっ!!
老女は小さなハンカチをふりながら、しろを呼ぶ
わが子を呼ぶように
しろは小さくしっぽを振り頭上を見上げる
風が吹き、草をなびかせる
しろっ!しろ!
施設の無数の小窓から呼ぶ声が
しろを呼ぶ声が
しろ!しろっ
細長くくねった小道を、しろは駆ける
とまどいがちに頭上をみあげながら
いつもそこに
しろは
いた
いつもそこに
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