【音食同源】 第14回:しめじとキンクス「David Watts」
すっかり冬になってしまいましたが、秋から冬にかけて美味しいのがキノコ類です。
もともと大好きなキノコですが、今年巻き起こった「低糖質ダイエットブーム」の影響もあり、「たくさん食べてもあまり太らない野菜」として、キノコは2017年の自分史の中で大きな位置を占める存在となりました。スーパーオオゼキに行けば必ずチェックするのがキノココーナー。キノコ類の中でもよく食べるのが、しめじ、それから舞茸です。共に最近は以前よりも値上がりしており(オオゼキベースの比較)、手を出すのに思わず躊躇してしまう…という、主婦でも飲食業でもないくせに毎回買い物かごを片手に思案しております。
「香り松茸、味しめじ」という言葉がありますが、確かに庶民には手が出ない松茸よりも、鍋にしてもよし、炒めてもよし、なしめじは手に入れやすく食べやすいですよね。もしも、しめじと同じ金額で松茸が売っていたら、迷わず松茸を選んでしまう人もいるかもしれません。しかし、自分の庶民的な感覚だとやはり買うのはしめじです。なんとなく、松茸は他の食材と合わせることができる気がしないといいますか、孤高の存在すぎて腰が引けてしまいます。
存在そのものが、なんとなく庶民的、それでいて味は松茸を超えるほど美味しい。そんなしめじの存在は、音楽に置き換えると僕の中ではキンクスです。あくまでも僕の中では、ですよ。ビートルズ、ストーンズも決して孤高の存在というわけではありませんが、やはり音楽ヒストリーの中での位置付けは「松茸」ではないでしょうか。それに引き換え、キンクスのなんとも庶民的な立ち位置。イギリス人らしいシニカルなイメージがあるボーカルのレイ・デイヴィスですが、「Low Budget」「I'm not like everybody else」等、労働者階級の味方ともいうべき歌の数々が魅力です。
1995年に来日公演を行った際、クラブチッタでのライヴを観たのですが、ボーカルのレイ・デイヴィスはフロントマンのくせにステージの上手で歌い、センターには地味なベーシストのジム・ロッドフォードが陣取っていました。そんな妙な謙虚さもよし。しかし、ライヴの内容はちょっと衝撃的でした。オープニングからの数曲こそ、「Stop Your Sobbing」「Sunny Afternoon」「Dedicated Follower Of Fashion」といったセンシティブな名曲をレイが1人で弾き語ったものの、メンバーが加わってからは生意気で尖がったバンドの印象で、大御所感など微塵もなし。ステージ間近でもみくちゃになりながら観ていた僕は汗だくになりながら「これはまさに元祖・パンクだ!」と思いました。
ビートルズはロックンロール、ストーンズはブルース、R&Bがサウンドの根幹にあるバンドです。もちろん、キンクスもそれらをルーツに持った英国のロックバンドの1つではありますが、ルーツ音楽にオリジナルな肉付けをしながら巨大化していった「松茸」な両バンドに比べ、キンクスはあくまでも庶民に手が届く「しめじ」的なバンドで居続けた印象です。来日公演の際、ライヴ後半に最高の盛り上がりを見せた曲「David Watts」のことだったと思いますが、レイの弟であるデイヴ・デイヴィスは、ステージに群がる観客に中指を突き立ててました。良い歳をしてまったく落ち着く気配のないステージ上の態度の悪さ(良い意味で)はまさにパンクス。後年ジャムがカバーしたことで知られる「David Watts」は、そんなキンクスのパンクスの始祖的な要素を存分に感じられる曲。ジョン/ポール、ミック/キースにはこの手の曲は書けないのではないかと思います。
「香り松茸、味しめじ」。キンクスの庶民を喜ばせる味わいは今でも変わりません。2013年に結成50周年を迎え、再結成するするといいつつしないキンクスですが、デイヴィス兄弟が仲直りして早く最高にパンクスなライヴを見せにまた日本に来てほしいものです。