【音食同源】 第17回:カニ料理とTHE TON-UP MOTORS「スロウモーション」
今年の12月24日(日)は新宿でイベント取材をしていましたが、昨年2016年は札幌にいました。23日のTHE TON-UP MOTORSのライヴをZepp Sapporoまで観に行き、翌日24日の夜に帰ったからです。
札幌が12月としては50年ぶりだったという大雪に見舞われたこともあり、軒並み成田発新千歳空港行きの飛行機は欠航となっていました。そのため22日深夜から23日早朝まで飛行機が飛ぶのか飛ばないのか、正直ほぼ諦め気分で徹夜でネットの情報を更新しつつ待ちました。すると、朝7時頃発の飛行機はどうやら飛ぶらしい、とのこと。慌てて身支度を整えて家を出ました。飛行機は予定の30分遅れながら、無事に新千歳空港に到着。
しかし、後から来て合流するはずだった某レコード会社の元アーティスト担当者さんたちに連絡を取ると、「飛行機欠航になりました。逆になんで行けたんすか!?」と返されました。たしかに、自分が出た後の飛行機は終日欠航、さらに空港からスムーズに乗り継いだ電車も後続はストップするなど、あまりにも何ごともなく札幌に着いたことが今でも不思議なくらいです。なんとなく申し訳ないので、会場のZepp 札幌に行く道中で雪で立ち往生していたタクシーを後ろから押して助けている人たちに傘を放り投げて参加してしまったくらいです。善い行いでもしないと罰が当たると思ったのだと思います。
しかし、ちょっとカッコつけたことを言うと、じつは使命感みたいなものも感じていました。というのも、活動休止前最後のワンマンライヴということで多くのファンが詰めかける予定だったはずのZepp Sapporoでしたが、雪のため来場を断念せざるを得なかった人も多かったと思うのです。そして、この日のライヴ会場にはもともとメディア取材はテレビ、雑誌はもとよりWEB媒体も全く入っていませんでした。自分が札幌に来れたのは、THE TON-UP MOTORSが次に活動を開始するまでの区切りとなるこの日のライヴを記録するため。悪天候にも関わらずスムーズに会場まで到着できたことは、まさにそうした導きによるものだろうとすら思えたのです。どこにも記録が載る予定がないのであれば、自分がここにいる意味はそれしかありません。そのため、素人ながら写真撮影も2階席から行いつつ、当日の記録をレポートとしてOTOTOYに掲載させてもらいました。https://ototoy.jp/news/84900
感動的なライヴの後、「せっかく来たんだから」と、メンバー、マネージャーさんらのご厚意で打ち上げにも参加させてもらいました。打ち上げの居酒屋さんへと向かうときに、メンバーさんと同じタクシーに同乗させてもらいましたが、Zeppの出口で出待ちのファンの方々が雪が降る中、メンバーさんを待っていました。ただ、リーダーの長谷川さんだけは後から会場を出ることになっていたため、他のメンバー3人に僕を加えた4人が乗っており、しかも僕は一番ファンの人側の窓側に座っていたため、非常に気まずかった覚えがあります。しかしメンバーさんはタクシーを止めてもらい車から降りて、ファンの人たち1人1人と言葉を交わしていました。居酒屋に到着して用意された座敷の席につくと、ごくごく普通の飲み会のように「何頼むー?」という感じで料理・飲み物を注文したのですが、今となっては何を食べ何を飲み何の話をしたのか、まったくもって覚えていません。すいません、ほとんどまったくです。しかしながら、ヴォーカルの上杉さんがメニューを見ながら「あ、カニいいね、カニいこうよ」と、何かしらのカニ料理を頼んだことだけはなぜか鮮明に覚えています。「北海道の人だからといって、いつもカニを食べているわけではないのだな」と、そんなことを思った記憶だけはあるのです。北海道出身の人は毎日カニを食べているのであろう、という偏見。茨城の人は納豆を、愛媛の人はみかんを、沖縄の人はサーターアンダギーを毎日食べているのだろうという浅い知識からくる偏見が覆された瞬間です。きっと、「秘密のケンミンSHOW」でそんなことを言ったら一斉にブーイングを受けてしまうことでしょう。あき竹城さんあたりは物を投げてくるかもしれません。「カニいいね、カニ」。なぜかそこだけを強烈に覚えているのです。
ただ、もう1つだけはっきり覚えていることがあります。それは、恐らく2、3時間経って終了した打ち上げの1次会の最後、メンバーみんながしっかり抱き合っていたことです。僕もメンバーそれぞれと抱き合って再会を誓った記憶があります。あれからちょうど1年が経ち、現在メンバーは各々音楽活動を行っていますが、僕が勝手に確信していることは、4人がまた集まり、THE TON-UP MOTORSはいつか必ず復活してくれるだろう、ということです。別に誰かにそのことについて尋ねたわけでも、何かを知っているわけでもなんでもありません。ただ、僕があの日に感じたことはそういうことなのです。「ゆっくりスロウモーションで ゆっくりスロウモーションで」。東京での下北沢Que2Days、及びZepp Sapporoでとても好きになった曲「スロウモーション」を聴くたびに、今でもそう思っています。そして、いつか札幌で美味しいカニを食べたいなあ、そんなことも考えています。