【音食同源】 第7回:天下一品のこってりラーメンとジョニー・ウィンター・アンド『Live』
天下一品のこってりラーメンを食べると、お腹が満たされた瞬間に「もうしばらく食べなくてもよいかな~」と思います。
食べる前はあんなに、「今すぐ食べたい!なんなら大盛りでライスもつけて半熟たまごトッピングで!」と意気込んで店に行ったにも関わらず。もちろん、いつ食べても美味しいですし、食後の満足感はたまらないものがあるのですが、店を出るときにはしばらく天一とは距離を置こう、と思ってしまいます。
もしかして、天下一品発祥の地である京都や関西育ちの方は幼少期から日常的に食べており、週4、5でも全然イケるのかもしれません。しかし、生まれも育ちも東日本、なおかつ天下一品が進出していないような田舎育ちの僕が天下一品のラーメンと邂逅したのはじつに30歳のこと。「この食べ物はいったいなんだ?」と衝撃を受けたものの、すでに若者特有のエイリアンのようななんでも消化してしまう胃液を持ち合わせていない中年にはせいぜい2、3か月に1回で大丈夫、という感じでした。現在、週に何度か渋谷センター街の天下一品付近に行くことが多く、こってりチャンスは度々訪れるものの、本当に年に数回、いやもしかしたら一度も行かない年もあるかもしれません。決して食べたくないわけではなく、なんとなく「天下一品のラーメン」(AI調で)と脳内アナウンスがあると、脳からの伝達ですかさず口の中にこってりした味が再現されてしまうような気がするのです。それくらい、インパクト大で強烈な味を持っているラーメンだからです。
そんな“こってり”を音楽に置き換えると、ジェームス・ブラウンやPファンク勢等、黒人音楽を思い浮かべる方もいると思うのですが、僕が“こってり”でまっさきに思い出すのは、ジョニー・ウィンターのギターとヴォーカルです。特に、1971年にリリースされたライヴ・アルバム『ジョニー・ウィンター・アンド ライヴ』はそのクドさに、今でも聴くのにエネルギーを要します。リック・デリンジャー、ランディ・ジョー・ホブス、ボビー・コールドウェルを加えた編成でのライヴ実況盤である同作品。まず、オープニングの「Good Morning Little School Girl」のテンションの高いギターリフとヴォーカルにのけぞってしまいます。そしてがなり立てるようなストーンズのカバー「Jumpin' Jack Flash」、ロックンロール・クラシック3曲を立て続けにプレイする「Rock And Roll Medley」、ラストの「Johnny B. Goode」まで、まあ~とにかくずっとテンションが高く、ブルースに支配された空気の濃度がものすごい。それはまるで天下一品のラーメンを立て続けに目の前に出されているかのようなのです。
晩年に実現した来日公演では基本的に椅子に座ってのプレイだったものの、ときに立ち上がり弾きまくったジョニー・ウィンター。そのブルースマン魂に裏付けられたエネルギーは、全盛期のアルバム『ジョニー・ウィンター・アンド ライヴ』に目一杯詰め込まれています。天一同様、一度平らげるとしばらく聴くのを遠慮したくなるほどのこってり加減の作品ですが、不思議と度々モーレツに聴きたくなる中毒性があるのです。